【取材手記】 〝走る哲学者〟為末大の競技人生を支えた読書で培われた力

~本記事は月刊誌『致知』2025年6月号 特集「読書立国」に掲載のエッセイ(「読書は未知の世界の扉を開く」)の取材手記です~

〝走る哲学者〟の源泉にあるもの

陸上競技の400メートルハードルの日本選手権で5連覇、オリンピックは2000年のシドニーオリンピックから3大会連続で出場。2001年、23歳の時に出場した世界陸上カナダ・エドモントン大会では、短距離種目で日本人初の銅メダルを獲得した為末大さん。この時叩き出した47秒89という日本記録は、20年以上経ったいまもなお破られていません。

現役時代、為末さんはコーチをつけないことで知られていました。練習方法から体のケアに至るまで、自分自身で検証しながら己の身一つで世界の強豪と互角に渡り合っていく。その陸上姿勢から、〝走る哲学者〟との異名を取りました。

引退後の現在は企業経営からテレビ出演、インターネットでの大学運営、執筆活動など、オピニオンリーダーとして多方面で活躍を続けています。博学多才な氏の源泉には、幼少期から地道に積み上げてきた読書体験があるといいます。

月刊『致知』最新号(2025年6月号)特集「読書立国」では、為末さんの読書遍歴を辿りながら、書物を通して未来を切り拓くヒントを探りました。テーマは「読書は未知の世界の扉を開く」です。

為末 大(ためすえ・だい)
昭和53年広島県生まれ。中学、高校時代より陸上競技で活躍し、平成13年エドモントン世界選手権及び17年ヘルシンキ世界選手権の男子400メートルハードルで銅メダルを獲得。シドニー、アテネ、北京とオリンピック3大会に出場。男子400メートルハードル日本記録保持者。24年に引退後はスポーツと社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。著書に『熟達論』(新潮社)『諦める力』(プレジデント社)など多数。

4年ぶり3度目のご登場

為末さんには、これまでも弊誌に2度ご登場いただきました。

1度目は2017年6月号、筑波大学名誉教授の村上和雄先生と各界の第一人者にご対談いただくことで人気を博した連載「生命のメッセージ」にご登場。スポーツが人間にもたらす可能性について縦横無尽に語り合っていただいた内容は、大きな反響を呼びました。

2度目は2021年11月号。人気連載「二十代をどう生きるか」にて、現役時代の挑戦と葛藤を振り返っていただくと共に、「チャンスは何度も巡ってこない。たった一度の勝負にすべてを懸ける」「自分の決めつけから解放されることで、新しい可能性が開けてくる」といった若者へ向けた熱いメッセージに大変心を鼓舞されました。

そして3回目となった今回。特集「読書立国」を組むに当たり、スポーツ界きっての読書家として知られる為末さんの企画はすぐに持ち上がりました。人はいつまでも学び、成長できる――この言葉を体現される為末さんに、読書の意義や効能について伺いたい。そう思い至り、本号でのご登場に繋がったのです。

取材は4月1日(火)、都内のコワーキングスペースにて行われ、60分間にわたり、読書をするようになったきっかけから読書を通して培われた力、競技人生最大の逆境の最中に支えとなった1冊などを振り返っていただきました。弊誌の質問一つひとつに丁寧に言葉を紡ぎ出される姿が印象的でした。その語りや独自の哲学から、人生を通して読書の世界に浸りきってきた為末さんのあり方が伝わってきました。

本記事では全3ページにわたって、そこで語られた内容を一つひとつ詳らかに紹介しています。

 ↓インタビュー内容はこちら!

◇読書は人生の喜びの半分を占めている
◇読書で培われた言語化する力
◇注意をどこに向けるかはコントロールできる
◇逆境の最中に支えとなった書物
◇読書習慣を養う第一歩は好奇心に従うこと

「読書こそが私のコーチでした」

為末さんは小学校の読書クラブに所属するなど、幼い頃から読書に親しまれてきました。年度初めに国語の教科書を受け取るや否や、新学期の授業が始まるまでには読み終えていたそうです。

「読書こそが私のコーチでした」。そう力強く語るように、為末さんの陸上競技者としての輝かしい功績の裏には、読書によって培われた〝ある力〟があったといいます。

オリンピックなどの大舞台で秘めた力を遺憾なく発揮するために一番重要なのは、メンタルを平常に保つことです。体の不調は見た目や数値で分かる一方、自分の心の状態は決して目には見えません。幸い、私は幼い頃から数多くの言葉に触れ、語彙や表現方法のストックが豊富にあったので、自分の気持ちや心の状態を言葉で説明することができました。

イライラ、モヤモヤ、なぜかやる気が出ない時、複雑に絡み合った感情を整理し言語化することができれば、自分の心を客観視できる。自分の状況を冷静に把握することが、心の安定に繋がったと思います。

書物を通して多種多様な言葉に触れることが、自分自身を観察し言語化する力に繋がる。為末さんの実感の籠った言葉に、読書の大切さを教えられます。

最後に、為末さんのお話の中でとりわけ心に響いた言葉を紹介します。

「之を知る者は、之を好む者に如かず。之を好む者は、之を楽しむ者に如かず」

知っていることは好むことには及ばず、好むことは楽しむことには及ばない。私の好きな『論語』の一文です。自分の求める何かを知るために夢中になること。読書習慣を養う第一歩として、そういう根源的な欲求や好奇心に素直に従うことが大切なのです

好奇心に従い、夢中になって学び続けることが読書習慣を養う一助となる――心に刻みたい教えです。

▼『致知』2025年6月号 特集「読書立国」
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