「心学とは人間の根本を培養することである」——今、『陰騭録』を読む意義(立命の書『陰騭録』を読む)

「立命の書『陰騭録』を読む」。本書は、明代の学者袁了凡の著書『陰騭録』を、安岡正篤師が独自の解釈を加えたものです。いかに人生において道徳的規範・行動が大切か。そしてそのことが人智をも及ばぬ運命をいかに変えていくか。まさに、本書は、これを読む人に道徳的勇気を起こさせるものをもっています。混沌とした現代社会において、「陰騭録」を読む意義とは何か。本書の序章より、一部抜粋・編集してお届けします。

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人は何を学び、何をしなければならないのか

そこで究極的にどうすればよいか。科学だ、技術だ、繁栄だというても、さらには政治や経済、あるいは学問だというても、長い目で見ると、実に頼りないものである、 はかないものである。それはその中に存在する大事な根柢を忘れておるからである。

根柢を把握しない技術や学問は人間を不幸にするだけである、それに翻弄されて、いわゆる運命に弄ばれて終るだけである。

しかし少しく冷静に観察すれば、その奥にもっともっと大事な、厳粛な理法というものが、道というものがある筈である。この理法を学び、道を行じなければ、われわれは何物をも頼むことはできない。二十世紀の後半にはいって、ようやくそういう結論に到達したわけであります。

そしてそういう点から、今日の文明を批判するものがたくさん出て参りました。

例えば共産主義陣営においても、ユーゴスラビアのミロバン・ジラスというような人がそうであります。

彼はあのスターリンの権威を以てしてもあえて屈しなかったチトーを助けて有名でありますが、共産主義政治に疑惑を持つに至り、とうとうチトーと相容れなくなって投獄された。

彼はその獄中の共産主義に対する忌憚のない回想と批判を書き、これを外国に持ち出させて、外国で出版しております。日本でも「新しい階級」という題で翻訳されておりますが、これを読むと、共産主義とはどういうものか、ということがよくわかる。

しかしそれよりも、まずマルクスの伝記を読めば、 こういう人間の学問や目的が、いかに人間として相容れぬものであるか、ということが容易にわかるのであります。

さらにおもしろいのはジェームス・バーナムという人であります。これはアメリカの大学で、空前の秀才と言われた人でありますが、若いときは型のごとく秀才にありがちの、マルクス主義に興味を持って、それに没頭した。

しかし間もなくこれに矛盾や不満を感じて、マルクス主義でない共産主義はないものか、としきりに考えた。そうして亡命しておるトロツキーなどと徹底的に論戦した。しかし結局いかなる共産主義を考えても、人類の救いにはならぬということがわかった。

そしてとうとう共産主義を批判する書物をたくさん書いておりますが、その一つに「西洋の自殺」という書物がある。

これは共産主義と同時に自由主義、アメリカや自分の故郷であるヨーロッパ等のいわゆる西洋文明、またその社会に、徹底的にメスを加え、広汎なデータに基づいて、結局このままではだめだという結論を下しておるのでありますが、彼はこれに「自由主義の終焉」という副題をつけておる。

要するにイデオロギーなどというもので、人間及びその社会を片づけようと考えるのは、とんでもない間違いだということを論じておるわけです。わが国でも確かダイヤモンド社であったか、「自由主義の終焉」という名で出版しております。

心学とは人間の根本を培養すること

こういう風に世界を通じて、昨年あたりから人心の動向が変ってきておる。

ところが今の日本はどうか。イデオロギー万能というか、流行ですね。浅薄な進歩的文化人とか、暴力学生の振り廻すイデオロギーの何たるかを問わず、ああいうもので人間のことが解決されるなどと考えるものがあったら、これぐらい浅薄で愚劣なものはない。

少し常識のある人ならわかる筈であります。やはり人間に大事なことは、真人間になるということです。真人間になるためには学ばなければいけない。人間の人間たる値
打は、古今の歴史を通じて、幾多の聖賢が伝えてくれておる道を学ぶところにある、 教えを聞くところにある。これを描いて頼り得るものはない。

イデオロギーも法律も科学も技術も、長い目で見ると、何が何だかわかるものではない。これが今日、世界の識者の結論であります。それがわからぬ人間ほど騒ぎ廻っておるわけです。

先哲講座の意義・使命もまたそういうことを学ぶところにある。

現象の世界のいろいろの問題に時々論及致しますけれども、この様なことは浮雲の変化のようなものであって、講座の目的ではない。

真の目的はその現象の根抵であり、本質であるところの道・教えを学ぶことである。心学というものである。言い換えれば人間の根本を培養することである。だから専門の漢文でもやるのでない限り、訓話の学問など問題ではない。

どこまでも修己治人の学問であります。そうすればやがて時がくれば、自然、 花も開く、実も成る、いかなる問題でも判断がつき、解決ができるようになる。これが活学というものです。したがってわれわれは絶えず自らの信ずるところ、また志すところを新たにするためにも、こういう文献を渉猟することが大事であります。

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