2025年03月08日
▼独立、転勤、転職、昇進、第二の人生……この春、新たなステージに挑戦するあなたへ高倉健や五木寛之、平山郁夫など多くの著名人に愛されてきた名店「すし善」。〝北の迎賓館〟の異名を取るこの寿司店がなぜ愛され続けるのか、社長の嶋宮勤さんの言葉から、その秘密を探ります。対談のお相手は、NOBU&MATSUHISAオーナーシェフの松久信幸さんです。
(本記事は月刊『致知』2016年11月号 特集「闘魂」より一部を抜粋・編集したものです)
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あなたのために握る寿司
<松久>
そもそも高倉健さんとは、どういうご縁だったのですか。
<嶋宮>
あれはいまからもう40年くらい前ですけど、北海道にロケに来た健さんがうちの店へ寿司を食べに来たんです。そのきっかけをつくってくれたのは倉本聰さんなんですよ。聰さんと私はその前から仲がよくてね。聰さんが寿司を食べたいと言う健さんを連れてきてくれたわけです。
どういうわけか知らないけど、健さんに気に入ってもらって、それから時々、一人で食べに来るようになったんですよ。私のことを「嶋ちゃん、嶋ちゃん」って呼んでひいきにしてくれました。
<松久>
嶋宮さんのお店は、高倉健さんや倉本聰さんなど、各界の大御所の方々に愛され、「北の迎賓館」と呼ばれていますよね。
<嶋宮>
ありがたいことです。
45年前かな、作家の五木寛之さんがたまたまパッと店に入ってきたんですよ。それからしばらくして五木さんが『週刊朝日』の連載にうちのことを書いてくれました。札幌に行くとよく行く寿司屋がある。この寿司屋はいつ行っても裏切られない、いい寿司屋だって。
当時はちょうど経営が苦しい時期でしたけど、そのおかげで売り上げが伸びましてね。だからこの前、一緒に食事した時に、「いやぁ、先生があれ書いてくれなかったら店潰れてたよ」って言ったんです。
あと、画家の平山郁夫さんにも可愛がっていただいて、うちの店の看板を描いてもらいました。
<松久>
そういう方々から愛されている要因は何だと感じていますか。
<嶋宮>
独立したばかりの頃は全然お客さんが来なくて、困り果てたこともたびたびでした。そんな中、いつも心に留めていたのは、五木さんが書いてくれたように、「裏切らない」っていうことです。
おいしい寿司をお客さんの納得のいく価格で販売する。お客さんが納得するのであれば、たとえ5万円でも10万円でもいいと思っています。しかし、納得しない寿司はタダでも駄目ですね。
ある時、アメリカ人の記者から「あなたの握る寿司と回転寿司の違いは何ですか」って聞かれたことがありまして、私はこう言った。「俺の寿司はあなたのために握る寿司だよ。回転寿司は誰のためでもなく、機械が勝手につくっている。その違いだ」と。そうしたらみんな立ち上がって拍手してくれましたけど、そういう気持ちでずっとやってきました。
おかげさまで今年創業45年を迎え、ノブさんとは比べ物にならないけど、札幌に5店舗、銀座に1店舗、計6店舗の経営をしています。「現代の名工」に表彰されたり、「日本食普及の親善大使」として世界各国に出向いて寿司を振る舞ったりしていますが、こんないい仕事は他にないなとつくづく感じています。