【取材手記】「何で死ぬやつがあるか」 盲目の元教師・竹内昌彦さんの魂のメッセージ

~本記事は月刊誌『致知』2025年3月号 特集「功の成るは成るの日に成るに非ず」に掲載のインタビュー(「苦難を経てこそ人生の花は咲く」)の取材手記です~

その人柄に魅せられて

本誌の取材でご縁をいただいた中には、その人柄が心に深く浸透していつまでも忘れられない方がたくさんいらっしゃいます。3月号の特集インタビューにご登場いただいた盲目の元盲学校教師・竹内昌彦さんもそんなお一人です。

一人の『致知』愛読者から推薦を受け、岡山・後楽園の喫茶室で竹内さんと最初にお会いしたのは2006年夏。当時、竹内さんは岡山県立岡山盲学校を定年で退かれたばかり、一講師というお立場でしたが、人を包み込むような大らかさや 愛情いっぱいの純粋で木訥なお人柄に魅せられてしまいました。

その後、竹内さんの活動は大きな広がりを見せました。発展途上国に盲学校を建てるという長年温め続けてきたビジョンを行動に移し、2011年にモンゴルに、2015年にキルギスにそれぞれ建設。建設資金には長年続ける講演の謝金や人々からの寄付を充てられたといいます。

途上国には手術をすれば視力が回復するのに、手術代がないばかりに失明してしまう小児白内障の子供たちが数多くいる現実を知った竹内さんは、2016年、NPO法人・ヒカリカナタ基金を設立。その支援活動は現在モンゴル、キルギス、ネパール、カンボジアなど7か国に及び、これまでに1,000人以上の子供たちが視力を取り戻しています。

心打たれたのは、竹内さんの講演を聴いた日本各地の人たちがその人柄や生き方、思いに感動し、次々に活動に協力するようになったことです。モンゴルやキルギスに学校を建てる時も、目が見えない竹内さんに代わって自費で何度も海外に足を運んで打ち合わせを重ねた支援者がおられます。これも竹内さんの人徳ゆえなのでしょう。

竹内昌彦(たけうち・まさひこ)
昭和20年中国天津で生まれる。43年東京教育大学(現・筑波大学)教育学部特設教員養成部を卒業後、岡山県立岡山盲学校教諭になり、教頭を歴任し平成17年に退職。23年モンゴルに、27年キルギスに盲学校をつくる。28年発展途上国の視覚障碍児の支援を目的に認定NPO法人ヒカリカナタ基金を設立し理事長に就任。その人生体験に基づく講演は約3000回を数える。

人生最大の逆境

さて、岡山市のヒカリカナタ基金事務局にて18年ぶりにお会いした竹内さんは御年79、白髪になられてはいたものの、そのご温顔は当時のままでした。前回の本誌の取材も覚えてくださっていて再会をとても喜んでくださいました。

詳しくは誌面で紹介していますが、竹内さんは子供の頃に失明し、小学校では辛いいじめを体験されました。盲学校に転校し猛勉強の甲斐あって東京教育大学に進学、教師の資格を取得し、地元・岡山で盲学校の教師になられました。竹内さんが「人生最大の逆境」と振り返られる出来事に遭遇したのは、30代の頃でした。

大学を卒業する時、幸いにも岡山に採用枠があって母校の教員として働くことができました。ところが、結婚もし、いよいよこれからという矢先、人生で最も辛く悲しい出来事が待っていたんです。1972年、私が27歳の時に誕生した長男・健吾が脳性小児麻痺と診断され、7歳で亡くなってしもうたんです。……自分の障碍を耐えるのはまだいいんですよ。私はいじめにあっても乗り越えられたけど、我が子の不憫さを思うと、いまでも耐え難いほどの悲しみが襲ってきます。

ご自身の体験を踏まえ、竹内さんは障碍児教育のあり方について言葉を続けられました。

障碍児教育は本当に親によるんです。いい親に恵まれたら障碍児は幸せになります。だから、何より親御さんを元気にしなくてはいけない。夢を持たせ希望を持たせ、失望していたら「大丈夫じゃ」と勇気づけなきゃいかん。実際にどんなに障碍が重くても、子供たちは毎日進歩するんです。遅々たる歩みかもしれないが、前に進んでいくんですよ。そこに楽しみが生まれる。親が希望を失わなかったら、子供は伸び伸びと育ちます。

(目の手術を終えた途上国の子供を抱き、笑顔で喜びを表現する竹内さん)

竹内式いじめ対処法

竹内さんは現代の日本社会が抱えるある問題に深い憂慮の念を示され、講演でもとりわけ強く訴えかけられています。それが子供たちのいじめと自殺の問題です。

いじめで自殺した子供のことがよくニュースで取り上げられるでしょう? 私は自分の子供の頃のことを思い出し、さぞ辛かったろう、悔しかったろうと慰めてやりたいと思うが、同時に腹も立ってくる。「何で死ぬやつがあるか」と。それで講演でこう訴えるんです。

「皆は自分の命を自分一人のものと思うとるんじゃないか。それは間違いだぞ。皆のお父さんとお母さんは、いますぐこの場所で、我が子の身代わりに死ねと言われたら、いつでも死ねる。皆は自分の命とお父さんとお母さんの命と3人分の命を抱えて、いま大きくなりよんぞ」

インタビューでは、小学生の頃視力を失った竹内さんがどのように周囲のいじめに立ち向かったのか、また、いじめにあった時はどのように対処したらよいのか、「竹内流」の考えも示されています。命の尊さを訴えかける竹内さんの熱弁はぜひ誌面でお読みください。

今回のインタビューの小見出しは以下の通りです。

◇1,000人の子供たちの目が見えるようになった
◇自分の命は自分一人のものではない
◇父親の勝利宣言
◇人生最大の逆境を超えて
◇小さくても人類を一歩前に進めたい
◇限られた条件の中で最高に生きていく

竹内さんの人生体験やメッセージは、多くの人に生きる勇気や希望を与え続けています。そのエッセンスが凝縮された本誌のインタビュー、お勧めの一本です。

 

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