2025年01月22日
~本記事は月刊誌『致知』2025年2月号 特集「2050年の日本を考える」に掲載の提言(「明治に学ぶ2050年の日本をひらく道 ~日本を凜とした国にするために~」)の取材手記です~
すでに賞味期限を迎えた西洋の精神
藤原正彦先生は実際にお会いすると、とてもフレンドリーで人なつっこい方です。都内の閑静な住宅街にあるオフィスに伺った時、挨拶をしながら最初に話されたのは奥様との馴れ初めでした。写真で拝見する奥様はとても魅力的で、映画にも出演されたことがあるとか。そんな和やかな話題から取材は始まりました。
『致知』2月号の特集テーマは「2050年の日本を考える」。大ベストセラーとなった『国家の品格』の著者で、著名な数学者でもある藤原先生は、大局的な視点で日本の進むべき道を折に触れて提言してこられました。その藤原先生に明治時代の先哲の生き方を軸に、2050年を見据えた日本のあり方をお話しいただくことが取材の狙いでした。
ところで、本誌が今回「2050年」という年にこだわったのには理由があります。『致知』を応援してくださっていた哲学者・森信三先生(1896~1992)が生前、「2025年、日本は再び甦る兆しを見せるであろう。2050年になったら列強は日本の底力を認めざるを得なくなるであろう」という予言めいた言葉を残されていたからです。森先生が何を根拠にそうおっしゃったのか、いまとなっては分かりませんが、今年2025年がその上昇の転機の年となれば、大きな希望が持てます。
取材の冒頭、森先生の言葉について説明すると、藤原先生は大いに頷き、「私もまったく同感です」とひと言。そして2050年を待たずして、日本は世界をリードする国になるという見通しを示されました。藤原先生の言葉に驚いたのですが、その根拠となる部分を、藤原先生の特集記事から引用してみましょう。
〈藤原〉
欧米の民主主義を支えてきたものといえば、自由、平等、人権の精神です。しかし、私から見たらこれほど心許ないものはありません。……自分の権利を押し通し、他人を誹謗中傷する自由ばかりが幅を利かせた社会に、平和や人々の安寧が訪れるはずはありません。ヨーロッパの長い封建社会の中から人々がようやく勝ち取り、アメリカ独立宣言にも書き込まれた自由、平等、人権。しかし、この思想はすでに賞味期限が来ているということを、世界の人々はいい加減自覚すべきと思います。
藤原先生は、その現実を踏まえた上で日本人が古来培ってきた美質に着目されます。
これら三つの本質は「自由だ、平等だ、人権だ」と外に向かって叫び相手に要求するものです。一方、日本の美風、例えば武士道精神の中心となる惻隠、もののあわれ、誠実、礼節といったものはすべて自分の内側に静かに語りかけるものなのです。欧米の人権思想と日本人古来の美徳の根本的違いはここにこそあるのです。
自由だ、平等だ、人権だと外に向かって叫ぶことは、そのまま戦いの姿勢となり、自己を正当化するための論理が必ずそこには伴います。……論理の衝突を防ぐ方法は一つ。心の内に向かって静かに語りかけることであり、それは即ち日本古来の精神に立ち返ることなのです。
そして、大切な美質を忘れてしまった日本人にこのように警告されています。
世界が混迷を極める中、日本人はまず誰よりもこの素晴らしい美質に気づき、それを取り戻すべく努めなくてはいけません。世界が指針とすべき美質を根に備えていながら、いまだに根無し草状態にある日本人の姿は残念という他ありません。


読書文化の復活を通して日本人の美質を取り戻す
では、私たち日本人は失った美質をどのように取り戻したらいいのか。その指針となるのが先哲、とりわけ明治の日本人の生き方であり、読書を通してそれを学ぶことが重要であると強調されます。再び先生の提言に耳を傾けてみましょう。
ただ、日本が世界を導くには大きな条件があります。それは何より日本人自身が先祖が培ってきた美質に目覚めることです。また、そのためには日本人が失いつつある読書文化の復興は絶対に欠かすことができません。
私は教鞭を執ってきたお茶の水女子大学で十数年にわたり読書ゼミを続けてきました。……ゼミ生には一週間に一冊の読書を義務づけ授業では読後感を軸にディスカッションをしました。『武士道』『代表的日本人』をはじめとする名著に触れた学生たちが、あっという間に見違えるほどの成長を遂げていく姿を目の当たりにしてきました。洗脳教育をしているのか、と私自身が怖くなるほどでした。
読書文化の復活を通して日本人の美質を取り戻すことができる、というのは藤原先生の教育者としての実践に裏打ちされた確信でもあったのです。
以上、ざっと本記事について説明してきましたが、参考までに小見出しを挙げておきます。ぜひ実際の誌面を通して、藤原先生の提言を噛みしめてみてはいかがでしょうか。
◇日本には世界に誇るべき美質があった
◇西洋思想に飼い馴らされた日本のインテリたち
◇人権思想と日本の美徳の根本的な違い
◇武士道精神を叩き込まれた人生の原点
◇武士道を体現した先人たち
◇読書文化の復興が欠かせない
◇読書を通して人としてのあり方を学ぶ
◇日本の美質に世界が注目する時代が来る
取材を通して、一つ感じたことがあります。日本を代表する知識人でありながら、そのお話がとても分かりやすいことです。卓越した語学力をお持ちなのに横文字を使用されることがとても少ないのです。日本語をこよなく愛する先生のこれもこだわりなのか、そのことを聞いてみました。「ええ。日本語(祖国語)にはとてもこだわっています。英語が苦手な人に限って難しい英語を使いたがるんですよね」。そうにこやかに話される姿が印象的でした。
本号を通して一人でも多くの人に、藤原先生の想いに触れていただきたく思っています。
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