2025年01月22日
◎最新号申込受付中! ≪人間力を高める2025年のお供に≫戦火の中のイランに生まれ、幼少期を孤児院で過ごしたサヘル・ローズさん。八歳の時に養母であるフローラさんと共に来日。現在は俳優・タレントとして幅広く活躍、難民などの国際人道支援活動にも尽力するサヘルさんに、壮絶な人生の歩みを交え、一人ひとりが心豊かに、幸せに生きるヒントをお話しいただきました。サヘルさんが語る、誰もが幸せに生きていける温かい社会とは──。
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自分が信じるからこそ相手に信じられる
──運命的な出会いでしたね。児童養護施設を出てからは、どのように歩んでいかれたのですか。
<サヘル>
フローラの生家は裕福な家系でしたから、孤児の私を養子にすることに反対でした。その反対を押し切ったことで、フローラは一時家族に絶縁されてしまいます。それで当時、留学で日本に暮らしていた旦那さん(義父)を頼って来日することになったんです。1993年、私が8歳の時でした。
私は小学2年生から埼玉県内の学校に通い、フローラと義父との新しい生活が始まりました。でも、義父が私に暴力を振るうようになったことで、フローラは私を連れて家を飛び出したんです。しばらく公園の土管で寝泊まりして学校に通う日々が続きました。
──その厳しい状況はどのように乗り越えていかれたのですか。
<サヘル>
その頃はまだスマートフォンも普及していない、人と人との関係がとても近いアナログな時代で、お互いに助け合っていくお節介文化が地域に根づいていました。
ですから、お腹をすかせた私たちがスーパーの試食コーナーに行くと、店員の方も見慣れない外国人の親子がいつも来ている、きっと事情があるに違いないと気づいてくれたのだと思います。ある日、店員の方が、何も詮せん索さくせずにおかずがたくさん入った袋をすっと差し出してくれたんですね。
外国人だからとレッテルを貼らず、同情ではなく同じ人間として見て、自然な形で自分のできる手助けをしてくれた。心救われましたし、アナログほど人間を救うものはないと実感させられました。
──心温まるお話です。
<サヘル>
やっぱり、人間は同情の眼差しを向けられると、逆に自尊心が傷つくものなんです。このことは、いま難民の方々の支援の際に忘れないようにしています。
あと、もう一人手を差し伸べてくれたのが、学校の給食のおばちゃんでした。
下校する時に「大丈夫?」と声を掛けてくれ、私が一所懸命「パーク(公園)」と伝えたところ、事情を察してくれたのか、自転車の後ろに私を乗せて自宅まで連れて行ってくれました。
最初は誘拐されたと思いましたが(笑)、合鍵を持たせてくれて、母と一緒に1か月半も自宅に住まわせてくれたんです。さらに日本で生活する上で必要な手続きを手伝ってくれただけでなく、アパートを借りる保証人にまでなってくれました。
──素晴らしい方ですね。
<サヘル>
おばちゃんも周りから「そんなことして大丈夫なの?」と心配されたそうです。
でも、おばちゃんは「困っている人を助けるのは当たり前」「自分が信じるから相手も信じてくれる」と言って、私たちを助けてくれた。おばちゃんも、シングルマザーで苦労して子育てをしてきた方でしたから、私たちを放っておけなかったのかもしれません。
人を疑うのは簡単なことですけれど、人を信じるためには、自分の中にすべての責任を受け止める覚悟と、周りに流されない確かな基盤がなければできないことです。自分自身を信じ愛しているからこそ、他人を信じ愛することもできる。おばちゃんとの出会いを通じてそのことを教えられました。
また、おばちゃんは、イラン人だからとか、主語を大きくして一括りにせず、「私とあなた」の関係で私たちに接してくれました。
皆さんも「日本人は……」って一括りにされると、「自分は違う」と思うでしょう? ですから、何事も主語を小さくする訓練、習慣づけをしていくことが、誰もが幸せに生きていける温かい社会に繋がっていくのだと思うんです。
(本記事は月刊『致知』2025年1月号 特集「万事修養」より一部を抜粋・編集したものです)
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◆忘れられていく人々の声なき声になる
◆養母・フローラとの運命的な出会い
◆自分が信じるからこそ相手に信じられる
◆無条件の肯定が人の心を癒やし励ます
◆あらゆることに感謝して生きる
◇サヘル・ローズ(サヘル・ローズ)
1985年イラン生まれ。幼少期から孤児院で暮らし、7歳でフローラの養女として引き取られる。8歳でフローラと共に来日。高校時代から芸能活動を始め、俳優としても映画やテレビで活躍。主演映画『冷たい床』は様々な国際映画祭で正式出品され、イタリア・ミラノ国際映画祭にて最優秀主演女優賞を受賞。また、過去には国際人権NGO「すべての子どもに家庭を」の活動にも参加し、親善大使を務め、私的にも国内外の子供たちや難民たちの援助を続けている。アメリカの人権活動家賞受賞。著書に『Dear16とおりのへいわへのちかい』(イマジネイション・プラス)『これから大人になるアナタに伝えたい10のこと:自分を愛し、困難を乗りこえる力』(童心社)など。現在初監督作品『花束』が公開され、大きな話題を呼んでいる。