「矛盾極まりない行為に成長の可能性がある」——立川談志の無茶ぶりから学んだこと

「天才」「鬼才」「異端児」……。落語の常識を覆す語り口で一世を風靡し、数々の異名を取った稀代の落語家・立川談志。談志の18番目の直弟子にして、数多の著作で師の教えを伝承する立川談慶氏に、過酷な修業時代を振り返っていただき、人生・仕事の支えにしてきた立川談志の教えについて伺いました。

◎最新号申込受付中! ≪人間力を高める2025年のお供に≫
各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。

1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

「修業とは不合理、矛盾に耐えること」

──談志師匠との出逢いについてお聞かせください。

〈談慶〉
1987年、落語研究会に所属していた大学時代に出逢ってしまったんです。談志の落語を初めて生で見た時、「なんだこの人」って強く心を揺さぶられました。

『権兵衛狸』という狸が恩返しに来る他愛もない話なんですけど、そこに文明批判や動物から見た人間への痛烈な目線が織り込まれていて、枕では時事問題にも大胆に切り込む。当時は就職活動の真っ最中で、「これから社会の歯車になるのか」とマイナスな思いを抱いていただけに、一切物怖じしない毒舌に惚れてしまったんです。

──談志師匠の達人芸、歯に衣着せぬ物言いに魅せられたのですね。

〈談慶〉
そうですね。大学卒業後は衣料品メーカーのワコールに入りましたが、談志の弟子になりたいという思いは募るばかり。3年間のサラリーマン生活に終止符を打ち、立川流の門を叩きました。1991年、25歳の時です。

「殺しはしませんから」

入門前に両親揃って面談した際、談志が親父に放ったひと言です。いい言葉ですよね、最低限の生命保障はするという意味ですから。続けて私にもこんな言葉をくれました。「君が落語家になりたいという夢を俺は否定できないんだ」。ああ、やさしい師匠でよかったと心底思いました。蓋を開けてみれば大きな間違いでしたが(笑)。

──過酷な修業が始まった。

〈談慶〉
落語界には「前座」「二つ目」「真打」「大看板」という身分制度があり、入門後の第一目標は芸名をつけてもらうことです。私は1年2か月を要した末に「立川ワコール」と命名され、落語家として認められる2つ目への昇進を目指す日々が幕を開けました。
前座修業は師匠の傍につき、着物の片付けやお茶出しなどの雑用をこなしながら、合間で稽古を受ける基本無給の生活です。談志が「修業とは不合理、矛盾に耐えること」と言明していた通り、稽古では一挙一動、ひと言発する毎に「違う、もう一度」の繰り返し。何度も罵詈雑言を浴びせられます。さらには「近所の農家からキャベツをもらってこい」をはじめ、数多の無茶振りが飛んできました。

──そういった無茶振りは舞台に繋がってくるのですか。

〈談慶〉
ええ、全部繋がっています。中でも私は調べ物要員の役割を担っていました。師匠に「この本やるから読んどけ」と言われたら、渡された本を徹夜で速読する。そしてその内容を師匠が受け止めやすい言葉に翻訳し、逐一レポートにまとめて説明していました。

当時はその意図を理解できませんでしたが、一連のプロセスを経たことで、古典落語をただ漫然とやるのではなく、現代人に伝わるように言葉を書き換えるセンスが身についたと実感します。これは本を書く際にも役立っています。

いまつくづく思うのは、無茶振りは落語家として大事な要素を学ぶことができた、未来の可能性を高めてくれた行為だということです。昨今の社会ではパワハラという言葉で処理されていますけど、一見すると不合理で矛盾極まりない行為の中に、成長の可能性が含まれているのではないでしょうか。


(本記事は月刊『致知』20251月号 特集「万事修養」より一部抜粋・編集したものです)

~本記事の内容~
◇天才落語家の教えを受け継ぎ自らの手で栽培していく
◇回り道がすべて芸の幅になる
◇人生の師との別れ 立川談志が貫いた信念

本記事では全4ページにわたって、談慶さんの修業時代を振り返っていただきました。談慶さんの辛酸を嘗めながらも前進し続けた修業時代のエピソードと人生・仕事の支えにしてきた談志師匠の教えの数々には、希望を見失うことなく、人生を発展させていく秘訣が凝縮されています。【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】

 

◇ 立川談慶(たてかわ・だんけい)
昭和40年長野県生まれ。63年慶應義塾大学卒業後、ワコール入社。3年間のサラリーマン生活を経て、平成3年立川流Aコースに入門。「立川ワコール」を名乗る。12年二つ目に昇進を機に、立川談志による命名で「立川談慶」に改名。17年真打昇進。現在は落語のみならず、著作や講演活動を通して立川談志の教えを広く伝えている。著書に『落語を知ったら、悩みが消えた』(三笠書房)『武器としての落語:天才談志が教えてくれた人生の闘い方』(方丈社) など多数。

◎最新号申込受付中! ≪人間力を高めるお供に≫
各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。

1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

閉じる