【取材手記】服部真二会長に聞くセイコーグループ飛躍の鍵(服部真二×藤間秋男)

~本記事は月刊『致知』2024年12月号 特集「生き方のヒント」掲載対談の取材手記です~

銀座のシンボル・セイコーハウスにて

セイコーといえば、日本が誇る世界的時計メーカー。明治の創業から143年の歴史を刻んだ今日では時計だけでなく、システム開発など幅広い社会の需要に応えるソリューションカンパニーとして大きく発展を続けています。東京・銀座4丁目の交差点にあるセイコーハウス(時計塔)は同社だけでなく、銀座のシンボルとして人々に親しまれてきたことは言うまでもありません。

『致知』12月号の表紙を飾っていただいたのは、会長としてこのセイコーグループを率いる服部真二氏。銀座の大通りを行き交う人や車を見渡すことができ、創業当時のアンティークな面影を残すセイコーハウスの応接室にて、取材は行われました。服部氏の対談のお相手は慶應義塾高校、慶應義塾大学の同期生であるTOMAコンサルタンツグループの藤間秋男氏です。

対談はお二人の学生時代の思い出に始まり、趣味の音楽やスポーツの話から徐々に経営や人生の本質に迫っていく展開となりました。湘南で育った藤間氏が主催する「サザンオールスターズ以外は歌ってはいけない」というユニークなカラオケ大会に、服部氏も夫婦で参加。以来すっかり打ち解け親しくなったという微笑ましいエピソードも紹介されています。

~本記事の内容~
◇旧交を温め続けて
◇ソリューションカンパニーとして社会課題を解決
◇会社のパーパスをいかに人生と結びつけるか
◇日本一多くの百年企業を創り続ける
◇一営業マンとして知った現場の心
◇数々の改革で経営を改善に導く
◇経営者の心得を教えられた松下幸之助の言葉
◇逆風の中で取り組んだよき社風づくり
◇百年企業になるために大事な要件
◇日本文化の根源は「時」と「自然」と「道」

伝統を重視した社風づくり

心に残ったのは、服部氏がセイコーグループ143年の歴史を担いつつも、新たな時代に対応できる経営改革や社風づくりに邁進されている姿でした。
 
誌面では不採算事業会社の改革などご自身の取り組みについて詳しく述べられていますが、最初は相手にされなかった高級ブランド「グランドセイコー」を海外に普及させた逸話も服部氏の手腕を物語るものといえるでしょう。

〈服部〉
改革と言えばもう一つ、私が2010年セイコーホールディングス(当時)の社長になって本格的に取り組んだことがあります。

海外販売を本格化したものの、それまで当社の時計は普及価格帯が主力だったために、高級ブランド「グランドセイコー」を海外の高級店に置いてもらえなかったんです。セイコーというブランドは海外でも知名度ナンバーワンでしたが、普及品のイメージでした。

そこで私は数年後、リスクを覚悟で戦略を大きく転換しました。グランドセイコーをセイコーブランドから切り離して、独立したブランドにする決意をしました。

具体的にはグランドセイコーの文字板からセイコーを消して、海外にグランドセイコー専門の会社を設立、販売ルートも別にしました。社内では大反対を受けましたが、この戦略は「グランドセイコーはセイコーとは別ブランド」という強いメッセージを海外の消費者に与え、グランドセイコーの飛躍の大きなきっかけとなったようです。

そんな服部氏の信条を示す言葉があります。

〈服部〉
私は経営者として決して忘れてはいけないのが、創業者・服部金太郎の精神だと思っています。創業者は社訓こそ残さなかったものの、「時代の一歩先を行け」とよく口にしていたと伝えられています。

私はかつて他に先駆けてカラープリンターを事業化しようとして失敗した経験がある。マーケットでのソフトウェアのインフラがまだ整っていなかったためですが、これは私にとって時代の二歩先を行ってしまった失敗の大きな教訓なんです。

やはり、大切なのは時代の一歩先を読む先見性を身につけ、挑戦心を持って着実に歩むことなんです。

創業者・服部金太郎氏の人生

セイコーグループ143年の歩みを語る上で絶対に欠かせない人物。それこそが創業者である服部金太郎氏です。紙幅の制限もあり今号では詳しくご紹介できませんでしたが、2024年6月号にて作家の楡周平氏が服部金太郎氏の人生についてお話しされています。

ここでは楡氏のお話の中から創業者のお人柄が分かる幼少期(奉公時代)のエピソードを一つだけ引用してみたいと思います。

辻屋を出た金太郎少年は最初に日本橋の亀田時計店に、2年後には上野の坂田時計店に入店し、時計の修理や販売について熱心に学びました。

ところが、坂田時計店の店主は事業に失敗し、店を倒産させてしまう。この時、金太郎少年は修業中にコツコツと貯めていた給金を店主・坂田久光に渡して恩に報いるんです。

これには久光も感激のあまり涙したと言われていますが、金太郎氏の私心のない生き方を何よりも物語っているように思います。

創業者の不撓不屈、そして感動的な人生に触れることで、きっとセイコーという会社をより身近に感じることでしょう。

楡氏のお話は〈致知電子版〉でも全文読むことができます。(下記バナーをクリック↓)

12月号の特集テーマは「生き方のヒント」。最新号の対談を通して、セイコーグループの伝統と革新の歴史から見えてくる経営や生き方のヒントを掴み取っていただけたら幸いです。


◇服部真二(はっとり・しんじ)
昭和28年東京都生まれ。慶應義塾高校、慶應義塾大学経済学部を卒業。昭和50年に三菱商事に入社。59年に精工舎(現セイコータイムクリエーション)入社。平成15年にセイコーウオッチ社長に就任。22年にセイコーホールディングス(現セイコーグループ)社長に就任。24年に代表取締役会長兼グループ最高経営責任者(CEO)に就任。29年には一般財団法人服部真二文化・スポーツ財団を設立し、世界に挑戦する音楽家とアスリートに服部真二賞を授与している。令和5年春の叙勲において旭日中綬章を受章。

◇藤間秋男(とうま・あきお)
昭和27年東京都生まれ。慶應義塾高等学校、慶應義塾大学商学部卒業後、大手監査法人勤務を経て、130年続く藤間司法書士事務所の新創業として社員数ゼロで、57年藤間公認会計士税理士事務所を開設。 平成24年分社化し、 TOMA 税理士法人、TOMA社会保険労務士法人などを母体とする200名のコンサルティングファームを構築。 創業35周年を機に会長に就任。その後TOMA100年企業創りコンサルタンツを設立。著書に『永続企業の創り方 10ヶ条』(平成出版)『中小企業の「事業承継」はじめに読む本』(すばる舎)『社員を喜ばせる経営』(現代書林)『100年残したい日本の会社』(扶桑社)など多数。

▼『致知』2024年12月号 特集「生き方のヒント」
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