【編集長取材手記】100歳現役 塩瀬総本家・川島会長が語る「人生で一番大事なもの」

~本記事は月刊『致知』2024年12月号 特集「生き方のヒント」掲載インタビューの取材手記です~

「温故知新」創業675年を誇る老舗の流儀

日本の饅頭の元祖として創業から675年の歴史を紡ぐ塩瀬総本家。時代の風雪に耐え、代々の当主たちが暖簾を大切に守り続けてきました。

その起源は貞和5(1349)年、中国から来日した林浄因が奈良で饅頭をつくったことに遡ります。寺院に集う上流階級の人たちの心を射止め、やがて宮中に献上され、歴代将軍の催事に重用されるようになりました。

「材料を落とすな。割り守れ」の教えの通り、昔から配合やつくり方は一切変えていないといいます。普通の饅頭は小麦粉に膨らし粉を入れて皮をつくりますが、塩瀬は小麦粉も膨らし粉も使いません。

職人が毎日一つずつ大和芋の皮を剥いてすり潰し、お米の粉とお砂糖を混ぜた木鉢にそれを入れ、丹精込めて練り上げていく。固すぎず柔らかすぎず、ちょうどいいところでこね終える。その日の気温や湿度、お芋の個体差によっても微妙に変わってきます。だから、日が経ってもパサつかない。しっとりしておいしい独特の饅頭に仕上がるのです。

一方、百貨店への出店をはじめ、売り方やデザインといった部分は時代に合わせて変化させていく。暖簾を守り続けるには伝統を踏襲するだけではなく、日々創業の心意気で時代の流れを読んで絶えず新しいことに挑戦し、革新しているといいます。

そんな「温故知新」を大切にする塩瀬総本家の第34代当主を務めた会長の川島英子さんは今年満100歳を迎え、その矍鑠たる姿、淀みのない語り口はまさに圧巻です。

時に優しく時に力強く、幾多の山坂を越えてきた人生体験を交えながら語る「人生百年時代を溌剌と生き抜くヒント」とはいかなるものでしょうか。

月刊『致知』最新号(2024年12月号)特集「生き方のヒント」に川島英子さんのインタビュー記事が掲載されています。テーマは「我が百寿の人生を歩み来て~利をはなれ 心のすべて 無なる時 有を生ずる 世とぞ知りたり~」です。

 

生涯現役を貫く100歳、その健康の秘訣

10月8日(火)、秋雨の降りしきる中、東京築地にある塩瀬総本家本店を訪ねました。ショーケースに並ぶ美しくておいしそうなお菓子や店内にある茶室を眺めていると、今年百寿を迎えた第34代当主の川島英子さんは愛嬌溢れる笑顔で私たちの前に姿を現しました。

『致知』にご登場いただくのは12年ぶり。お目にかかったのはその時以来ですが、印象は12年前と全く変わらず、老いを感じさせないほど意気軒昂で驚嘆しました。

「川島会長、お目にかかれて光栄です。素敵なお着物姿ですね」と最初に申し上げると、明るく大きな声でこうおっしゃいました。

「本当にありがたいことに、この歳になっても年中お客さんがいらっしゃって、『会長さん元気?』『会いたいわ』とか『長生きをもらいたいから握手して』って(笑)。
そんなことでいつ誰が訪ねてくるか分からないから、変な格好をしていられないのよ。朝起きて寝間着のままでいたんじゃ、だらしなくて目が覚めない。
やっぱり着物に着替えて帯を締めて髪を結うと身も心もシャキッとする。これは昔から習慣になっています」

見られている意識を持つこと、適度な緊張感や刺激を持つこと。自分のことは自分でやるという習慣を持つこと。これが健康の秘訣であると教わりました。

「いつの間にか100歳になっちゃった」と笑いながら回顧されていましたが、100歳にも拘らず、そこから取材時間は1時間半にも及び、その内容を凝縮して誌面7ページ、約7,000字の記事にまとめました。主な見出しは下記の通りです。

◇健康の秘訣は日常の習慣にあり
◇和歌を詠むことが生きるしるべ
◇「遊」の境地で仕事を楽しむ
◇働き者の両親が教えてくれたこと
◇塩瀬の歴史を変えた決断 その拠り所になった思い
◇伝統を守りつつ挑戦する「温故知新」こそ老舗の道
◇こだわらない、握らない 放すことで運が開く
◇すべてに感謝する ご先祖様を大切にする

菓子商初の宮内省御用達店であり、室町時代より675年もの歴史を有する老舗の暖簾をいかに守ってきたのか。生涯現役で健康に生きる秘訣とは何か。軽妙洒脱な語りにどんどん惹き込まれるでしょう。

こだわらない・握らない・放すことで運が開く

このインタビュー記事の読みどころはどこかと聞かれれば、間髪を容れずに「全部です」と言いたいところですが、とりわけ心に響いたのは、「幾多の山坂を越えて百歳を迎えられたいま、人生で一番大事だと思うものは何でしょうか」との質問に対する回答です。

「こだわらない、握らないことですね。握らないっていうのは欲をかかないこと。握ろうとすると逃げるの。だから、握らない。追いかけない。放すことです」

川島さんはさらにこう続けます。

「こだわりすぎると運は開けません。私がつくった和歌に『利をはなれ 心のすべて 無なる時 有を生ずる 世とぞ知りたり』とあるけど、生き方のヒントはそれです。
仏教に無常という言葉がありますね。人生は常ではない。浮き沈みがある。これが当たり前なのよ。だからいい時はいいように、悪い時は悪いように、それなりに生きていけばいいんです。気楽なもんでしょ(笑)。

家訓の一つに『繁盛するに従つて益々倹約せよ』とあるように、調子のいい時でも決して驕らず、沈む時に備えて蓄えておく。反対に調子の悪い時には決して腐らず、いまは沈んでいても後々必ず浮く時が来ると信じて、『無理なることをすまじき事』で慎ましく暮らす。ただし、歩みを止めない。どんなことがあっても絶対に投げ出したり諦めたりせず、やめないで細々とでも続けることです」

川島さんが百寿の人生を歩み来て掴まれた「生き方のヒント」には、私たちの日常の仕事や人生に活かし、発展繫栄へと導いてくれる秘訣が凝縮されており、興味は尽きません。ぜひ本誌のインタビュー記事をお読みください。


◇川島英子(かわしま・えいこ)

大正13年東京生まれ。昭和55年社長に就任し、第34代当主を継ぐ。60年中国杭州市の聚景園に始祖・林浄因の記念碑を建立(平成7年に林浄因の先祖の墓がある西湖国立公園孤山に移転)、11年会長に就任。著書に『まんじゅう屋繁盛記~塩瀬の六五〇年~』(岩波書店)がある。

▼『致知』2024年12月号 特集「生き方のヒント」
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