「人の倍の汗をかき、あとは神様に任せる」──創業者・神田正が語る〝日高屋〟の原点

首都圏を中心に「日高屋」「来来軒」をはじめとした中華料理チェーンを約450店舗展開するハイデイ日高。同社を裸一貫で立ち上げ、一代で東証プライム上場の大企業へと発展させたのが神田 正氏、83歳。いまなお経営の第一線を走り続ける氏の底知れぬ情熱はいかにして育まれたのでしょうか。紆余曲折を経て、天職に巡り合った若かりし歩みにその答えを探ります。

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ラーメン屋との邂逅

ラーメン屋の商売と出合ったのは22歳の頃だった。職を転々としていた時、見かねた友人に誘われ、浦和のラーメン屋で出前持ちを始めた。こう言うとラーメンの神様に叱られるが、どうしてもしたかったわけではない。もしあれが寿司屋だったら、寿司の世界に入っていたかもしれない。

ただ、しばらくして「こんなにいい商売はない」と直感した。ラーメンや炒飯の調理はさほど難しくない。加えて、すぐにお客様から現金がいただける。食材の支払いは月1回の後払いでいい。貧しい家庭で育った私の目には夢のような商売に映った。初めて飽きることのない仕事に出合い、この道で生きていこうと決心したのだ。

その後はラーメン屋を数店渡り歩き、技術を覚えていった。転機が訪れたのは、27歳の時。縁あって埼玉県岩槻市内のラーメン屋で働き始めたのだが、店の立地が悪く1年後には閉店した。

途方に暮れ、東京で調理師会にでも入ろうかと考えていた矢先、潰れた店の家主から「私が保証人になるから、君がラーメン屋を続けないか」と声を掛けられたのだ。それまでの私は金持ちの家主が好きではなく、挨拶もろくにしなかった。けれども家主は、私がラーメンをお客様に売り込み、食べ終えた後には熱心に感想を聞く姿をいつも傍から見ていたという。

「一所懸命やるのは間違いない。君は必ず成功できる」。その胸中を知り、自らの幼稚な態度を恥じた。そして家主の期待に応えたいと思い、私が店主としてリニューアルオープンしたのである。

とはいえ、立地は変わらないゆえにそう上手くいくはずがない。この状況を打開するには待っているだけでは駄目だと、タクシー運転手をしていた弟を呼び寄せ、デリバリーを始めた。さらに深夜営業を開始。朝9時から深夜3時まで、ぶっ通しで店に立ち続ける。しかも、夜10時以降は私一人。寝る間も惜しんで働いたものだ。

年中無休で働き続け、1年半が経った頃だろうか。当時は深夜まで営業している飲食店がほとんどなかったため、ラーメンの提灯に引き寄せられるように、地元の工場で仕事を終えた人々が来てくれる。評判が評判を呼ぶ形で、少しずつ経営は軌道に乗っていった。

やはり、口にはしないだけで一所懸命な姿を見ている人は必ずいる。人の倍の汗をかき、あとは神様に任せる。そうした心意気で一つひとつの仕事に向き合っていれば、自ずと道は開けるのだろう。


(本記事は月刊『致知』202411月号 連載「二十代をどう生きるか」より一部抜粋・編集したものです)

~本記事の内容~
◇母の後ろ姿に学んだ幼少期
◇15回を超える転職の末に
◇20代は失敗したほうがいい
◇夢は見るものではなく語るもの

本記事では全3ページにわたって、神田氏の若かりし歩みを振り返っていただきました。幾多の山坂を乗り越えてきた神田氏の足跡には、あらゆる年代に通ずる仕事・人生の要諦が凝縮されています。【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】

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◇ 神田 正(かんだ・ただし)
昭和16年埼玉県生まれ。中学卒業後、15回以上の転職を重ねた末、ラーメン業界に足を踏み入れる。48年「来々軒」開店。53年日高商事(現・ハイデイ日高)を設立。平成14年「日高屋」開店。18年東証一部上場。21年より現職。著書に『熱烈中華食堂日高屋:ラーメンが教えてくれた人生』(開発社)がある。

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