相田みつをが『致知』に語った、苦しみを超える方法


観音経には「遊」という字が3回出てくる。観音さまは遊びながら、楽しみながら人を救う。それが本当の在り方だ──「書家」「詩人」として、多くの人たちに感動を与えた相田みつを氏と、同氏と深い交遊のあった感性の哲人・行徳哲男氏が語る「楽」の本質。
(本文は1989年掲載当時のものです)

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「いま ここ 自分」

〈相田〉
私は、今度、ある人から頼まれた本の題を『いま ここ 自分』としたんですが、「いま」「ここ」「自分」。これしか、命は与えられていないわけですね。

過去の命はない、明日は来てみないとわからない。「ここ」が充実しない限り、一生、充実しないんですよ。

「ここ」を中途半端に生きると一生が中途半端なんです。「ここ」で愚痴や泣き言をいっていると、一生、愚痴や泣き言の連続。「いま」「ここ」「自分」が輝いていれば、一生、輝いている。

これが、私はお釈迦さまの説かれた仏教だと思うんです。

そして、それを実践しているのが、行徳先生だと思います。そういう点が波長が合うんですね。

なりきれば苦しみを忘れる

〈行徳〉
この間、お聞きしたら、「いま ここ 自分」という字を書くのに夜中の2時、3時まで、100何十枚も書かれたとか。

〈相田〉
あのね、人にみせるんでもなければ、何でもない。自分が納得できないんです。自分の感情が治まらないで、これでもか、これでもかと書くんです。うんうん、うなりながらね。嘘や偽りや湿り気があったら、充実したものは書けないですからね。

〈行徳〉
そうですね。

〈相田〉
いま、泣き言をいっている自分、からからと笑っている自分、しょげ返っている自分、いろいろな自分があるでしょう。私がいま書くのはね、最高に燃焼している自分でないとね。だから、書きまくるんです。自分自身をわき立たせる。それでないと書けない。

〈行徳〉
それが非常につらいけれども、また楽しいという……(笑)。

〈相田〉
それがね、なりきる世界だからです。なりきれば、苦しみを忘れるんですよ。

〈行徳〉
「対象と一つになりきったときに、心自ら歓喜す」という教えが、ありますね。なりきったときに、歓喜がわき上がってくる。

〈相田〉
そうですよ、まったく。本腰を入れてやったときというのは、実に気持ちがいいです。


(本記事は月刊『致知』1989年7月号 特集「道を楽しむ」より記事の一部を抜粋・編集したものです)

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◇相田みつを(あいだ・みつを)
大正13 年栃木県足利市生まれ。昭和17 年栃木県立足利中学校卒業、同年秋、曹洞宗の禅僧・武井哲應老師に出会う。以来、武井老師を“人生の師”として仰ぎ、在家のまま師事して仏法を学ぶ。

◇行徳哲男(ぎょうとく・てつお)
昭和8年福岡県生まれ。35 年成蹊大学卒業、46 年日本BE研究所設立、行動科学、禅、感受性訓練などを融合した訓練により、感性を取り戻す研修を行い、1 万人以上の体験者を送り出している。

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