「自ら限界をつくらない」——自動車開発の要・フォースの創業の原点(平尾孝志社長)

本記事は月刊『致知』2024年5月号掲載記事を一部編集したものです~

ハンドワークにこだわり続けて

〈平尾〉
開発段階の自動車の金属パーツを、ハンマー1つで設計図通りの複雑な形状に仕上げていく。これが当社で手がける仕事の起源です。

誤差0・5ミリ以内という厳しい合格基準をクリアするには、磨き上げた職人の手技が不可欠です。私は長年の経験から、どんなに時代が進んでもハンドワークの需要は絶対になくならないと確信しています。同業者は次々と撤退し、非効率と揶揄されることもありましたが、逆に当社の希少性は年々高まり、2018年には経済産業省から「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選出していただきました。本年創業20周年の節目を迎え、経験豊富な社員7名で当社なりに勝負できる土俵は創れたと思います。

私がこの業界に入ったのは約40年前。同じ仕事を手がけていた父の元で2年間修業し、その後紆余曲折を経て試作鈑金の会社に入社。経営幹部として尽力していましたが、業績の拡大に伴い徒に機械化を推し進める社長を再三諫めたことで確執が深まり、解雇されてしまったのです。

「よし、ならば俺たちで会社をやろう!」

私についてきてくれた仲間と4人で、地元滋賀県にて当社を立ち上げたのは2004年、40歳の時でした。社名の「フォース」には「前へ進もう!」との意気込みを込めました。

とはいえ当初はもちろん仕事はゼロ。皆に給料を支給するプレッシャーは相当なものでした。前職のお客様を頼り営業に伺ったところ、前の社長に話を通してから来るようにと言われ、不承不承それに従い取り引きを始めていただきました。未熟者の私に筋を通すことの大切さを諭してくださったそのお客様は、当初から現金払いを続けてくださり、当社を支え続けてくださった大恩人です。

技術を伝承する学校をつくり、業界の未来に貢献したい

〈平尾〉
思えば妻には随分苦労をかけてきました。突然会社を解雇され当社を立ち上げた時、リーマンショックで売り上げが激減した時、「あなたなら何とかしてくれる」と私を信じ、愚痴一つ言わずに支え続けてくれた彼女の存在が、どれほど大きな力になったことでしょう。

名言好きの彼女は、経営の糧になる先人の言葉を目に留めては教えてくれました。誠実であることや他人を慮ることなど、人の道を子弟に説いた旧薩摩藩の出水に伝わる「出水兵児修養掟」もその1つです。10年前に社内木鶏会を導入して社員と共に『致知』に学び、社風を大きく改善できたのも、そうした下地があったからだと思います。

社員には常々、自分たちの仕事は救急救命士のようなものだと説いています。他社にできない高難度の仕事をやり遂げ、お客様から「助かった」と喜んでいただくところにこそ当社の存在価値がある。自ら限界をつくらず、どんな仕事も正々堂々受けて立とう。創業時より貫いてきたこの精神を、これからも社員と共に堅持していく考えです。

私の願いは、培ってきた技術を絶やさず伝承していくための学校設立です。今後とも一企業の枠を超え、業界全体の未来に貢献していく所存です。


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