6歳で旅立った小児がんの娘が教えてくれたこと――30万人が感動した「いのちの授業」

ご長女の小児がん発病を機に、小児がんの支援活動・いのち授業などに取り組むようになった鈴木中人(なかと)さん。自らの体験をもとに、メルマガ「いのちの授業 あの日から」の配信や全国で講演活動を行い、これまで30万人を超える聴衆に深い感動を与えてこられました。その鈴木中人さんが、子どもたちのために熱い想いをもって綴られた感動実話子どもための「いのち授業」』~小児がんの亡き娘が教えてくれたこと~ より、一部抜粋してご紹介いたします。

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娘のがんが発覚した日

この日、地元で夏祭りがありました。家族みんなで、浴衣を着て出かけました。会場には、たこ焼き屋さんや金魚屋さんなどが並び、3歳の景子も1歳の康平も
「あれ、何?」「あれ食べたい!」と大はしゃぎでした。私がソフトクリームを買ってもどると二人が大泣きしていました。

「オオカミさんが来た……」

突然、オオカミのぬいぐるみがあらわれて、頭をなでられてびっくりしたのでした。妻の淳子も苦笑いです。子どもはかわいいなぁ」と思いました。

会場は、たくさんの家族連れでいっぱいでした。私たちも、そんな普通の家族として暮らしていました。お盆前になると、景子はどうも元気がありません。
遊んでいても、すぐペタンとすわってしまうのです。近くの病院に連れて行きました。

「夏かぜです」。

医師の言葉に、「薬を飲んで、病院に通えば大丈夫だな」と安心しました。数日後、私が会社にいると、病院に行った淳子から電話がありました。
淳子は泣いていました。

「景子ちゃんのお腹に腫瘍がある。すぐ総合病院に行くように言われた」

「腫瘍? がん? そんなバカな……」。

私は急いで家に帰りました。

翌日、総合病院に行きました。診察室に入ると、医師の表情にただならぬものがあると直ぐに分かりました。医師は景子のお腹をさわって言いました。

「腫瘍があります。小児がんかもしれません──」

その瞬間、何も感じませんでした。まるでドラマの中にいるようで現実に思えません。私と淳子は、一言も話しませんでした。入院の準備のため家にもどりました。

「なんで景子ちゃんが……。 どうして自分がこんなことになるんだ」。そればかりを思い、何も手につきません。でも、しなくてはいけないことが一つありました。入院のことを景子に話すことです。入院となると、淳子と景子は病院に、康平は私の実家に、私は自宅にとバラバラになります。入院の前夜、景子に言いました。

「景子ちゃん。景子ちゃんのお腹に 悪い虫さんがいるから、明日から入院だよ。 でも、お父さんお母さん、いつもいっしょだから。 ひとりぼっちじゃないからね」

景子は、たった一言聞きました。

「康ちゃんは?」

いつもいっしょにいる康平が一人になってしまい、どうなるかと心配したのです。私は、家族がいっしょにいることを当たり前だとずっと思っていました。その当たり前のことが、どんなに素晴らしいことかに初めて気づきました。淳子は、いつもいっしょにいた景子と康平とはなればなれになってしまうことが、本当に切なく悲しく感じたそうです。

私は、景子の寝顔に向かって手を合わせて祈りました。

「景子ちゃんの病気、どうか治りますように……」

「わたし、天国に行っちゃうの?」

大学病院の小児病棟に入院しました。まず検査のために採血をしました。小さい子どもは、注射が怖いので暴れてしまいます。看護師さんが三人来て、景子をバスタオルで巻いて体をおさえつけました。私と淳子は部屋から出されました。

「針、いやだぁ! お母さん! お母さん!」

部屋の中からは、景子の泣き叫ぶ声が聞こえてきます。淳子は、廊下でずっと泣いていました。部屋にもどると、景子は淳子の手をにぎって涙を流しながら言いました。

「針、いやだよ。お母さん、お家に帰ろう、お家に帰ろう」

抗がん剤という薬の治療が始まりました。抗がん剤を投与すると、激しいはき気やおうとがおそいます。一時間に、10回以上もはいたこともありました。最後は、胃液も出ません。淳子は「大丈夫だよ、大丈夫だよ」と言って、景子の背中をずっとさすり続けました。そして、髪の毛は抗がん剤の副作用ですっかりぬけてしまいました。

ある日、景子がポツリと淳子に言いました。

「わたし、天国に行っちゃうの?」

淳子は、何を言っているのか分かりませんでした。よく聞くとずっとそう思っていたそうです。淳子は優しく答えました。「みんな、おじいちゃん、おばあちゃんになって死ぬんだよ。景子ちゃんは、まだ死なないよ」三歳の子どもが死ぬなんて考えるはずがない。私はそう思っていました。

そうではありませんでした。本能で感じるものでした。

その日から、治療のことを話すようにしました。痛いか痛くないか、お母さんもいっしょにいるかなどです。景子は、痛いと聞くともう涙が止まりません。でも暴れることはなくなりました。治療が終わると、「わたし、がんばったから。がんばったから」と言いました。泣き虫の景子は、いつのまにか、がんばり屋さんになっていました。

景子が入院した小児病棟にはベッドが40ほどありました。小学生や中学生の小児がんの子どもたちが、たくさん入院していました。何ヵ月も入院している子ども何年も治療をくり返している子どももいました。子どもたちは、いつもパジャマ姿です。食事も、テレビを見るのも、絵本を読むのも、宿題をするのも、いつもベッドの上でした。子どもたち同士は、みんな仲の良いお友だちでした。お母さんやお父さんは、24時間、子どもに付きそっていました。夜は小さな簡易ベッドでねむりました。何日も何カ月も。病室は、それぞれの家族にとって生活の場所でもありました。

今、小児がんは、70~80%は治る病気になっています。しかし、亡くなっていく子どもたちもたくさんいます。景子の入院中にも、一人、また一人と亡くなっていきました。病棟の廊下には、子どもたちがかいた絵が貼ってありました。ある日、その絵の中に亡くなった子どもかいた絵を見つけました。家族旅行に行ったときの絵でした。みんな笑顔いっぱいです。

でも、その子の笑顔はもうありません。
ふと涙がこぼれました……。

本記事の内容は、『子どものための「いのちの授業」』(鈴木中人・文/葉祥明・絵)より抜粋しています。
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◎鈴木中人さんは『致知』2023年4月号にご登場‼

「人生の四季」には、春夏秋冬の時が移り変わる四季、そして喜怒哀楽を経験する中で深まりゆく心の四季がある——。愛する娘の死、首の骨を折る大怪我……様々な人生の四季、悲嘆の時を乗り越え、講演活動を通じて命の大切さ、尊さを多くの人々、子供たちに語り続けているのが鈴木中人氏と腰塚勇人氏。命の大切さを伝えるという使命に生きるお二人に、一度きりの人生を悔いなく生きる要諦、心の持ち方を語り合っていただきました。

〈致知電子版〉では全文お読みいただけます

◇鈴木中人(すずき・なかと
昭和32年愛知県生まれ。56年、デンソー入社。平成4年、長女の小児がん発病を機に、小児がんの支援活動やいのちの授業に取り組む。17年、会社を早期退職して、いのちをバトンタッチする会を設立。21年、ライフクリエイト研究所を設立。いのちのバトンタッチをテーマに、いのちの輝き、家族の絆、生きる幸せ・働く喜び、良き医療などを全国に発信する。生きる幸せをみつめる会報「いのちびと」の編集発行にも取り組む。いのちの授業や研修には25万人が参加。いのちの授業は、小学校・道徳の教科書にもなる(平成30年度より)。著書に『6歳のお嫁さん』(実業之日本社)『6さいのおよめさん』(絵本/文屋)など。

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