2024年10月18日
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
かつてない長寿時代、果たして幸せな生き方とは何か、幸せな死に方とは何かが強く問われています。がん治療の最前線にいた帯津良一医師は、1987年に〝ホリスティック医学〟――体・心・命が一体となった、人間まるごとを対象とする医学――と出逢って感銘を受け、独自の養生(ようじょう)論を提唱してこられました。2024年10月号で幕を閉じた連載〈現代の養生訓〉では、自身が体験した患者との出逢い・別れ、日本に脈々と伝わる養生法、そして日々の生活での心がけといった視点を交えて、養生の指針を綴っていただいています。その中から、第1回(2023年10月号)の内容をご紹介します。
1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
ホリスティック医学との出逢い
〈帯津〉
がん治療の現場でホリスティック医学を追い求めて37年目に入りました。
ホリスティック医学とは、体・心・命が一体となった人間まるごとを対象とする医学です。ホリスティック(Holistic)の語源はギリシャ語のHOLOS。全体を意味する語で、これから派生した語に、Whole、Holy、Healthなどがあると言われています。
そして、このホリスティックという語の哲学的背景として、南アフリカ連邦の哲学者で政治家のジャン・クリスチャン・スマッツ(Jan Christian Smuts/1870~1950)の提唱する「全体論」、即ち、全体は部分の総和としては認識できず、全体それ自身としての原理的考察が必要であるとする考え方が横たわっています。
さらに、がん治療の現場で働く者にとっては、がんは体だけの病気ではなく、心にも命にも深くかかわった病気である、という認識がありますから、米国から入って来たホリスティック医学にすぐに靡いて、1987年に日本ホリスティック医学協会を立ち上げたことは、ごく自然の流れなのです。
すわ! ホリスティック医学で! と思ってみたものの、まだ一定の方法論というものはありませんでした。しかし、患者さんは待ってはくれません。そこで私の場合は、
①体に働きかける治しの方法。主として西洋医学
②心に働きかける方法。各種心理療法を用いながら患者さんと心を一つにする
③命に働きかける癒しの方法。主として各種代替療法と養生法
この中からいくつかの戦術をピックアップして個性的な戦略を組み立て、これを用いる。というところから開始しました。
先人の叡智に学ぶ 健康の極意
ここで養生法の初登場です。まずは養生についての知識と見識とを深めようとしましたが、養生書なるものは世にごまんとあります。
そこで江戸時代の三大養生書、
①貝原益軒の『養生訓』
②白隠慧鶴の『夜船閑話』
③佐藤一斎の「言志四録」
を座右の書としました。この3冊の中から、我が琴線に触れた文章を列挙してみましょう。
① 『養生訓』
〇人生の幸せは後半にあり
〇人生の三楽
・道を行い、善を楽しむ
・健康で気持ち良く楽しむ
・長生きして長く久しく楽しむ
〇家業に励むことが養生の道
〇好きなものを少し食べるのが食養生
〇酒は天の美禄なり
〇冬に温めすぎてはいけない
②『夜船閑話』
〇呼吸法・仙人還丹の秘訣
「皆の者、この秘要を励み怠らなければ、禅病を克服し疲労を取り去るのみにあらず、禅の修行が進み、抱き続けた大疑が忽然として氷解し、手を打ち大笑するような大歓喜を得ることになるだろう」
〇「四弘誓願」による菩提ぼだい心を奮い起こし、菩薩の威儀に学び、仏法の教えを説き、虚空に先立って死なず、虚空に遅れて生まれないというほどの、不生不滅であって虚空と同じ歳といった境地、不退堅固の真の仏法の姿をこの身をもって体現しようではないかと。
③「言志四録」
〇学は一生の大事
少にして学べば、則ち壮にして為すこと有り。壮にして学べば、則ち老いて衰えず。老いて学べば、則ち死して朽ちず。
〇養生の秘訣は敬に帰す
道理は往くとして然らざるは無し。敬の一字は、固と終身の工夫なり。養生の訣も亦一箇の敬に帰す。
……といったところですが、兄たり難く弟たり難し、いずれも劣らぬ佳い文章ですね。
養生とは、生命を正しく養うことだと『大漢語林』(大修館書店)にあるくらいですから、養生について語る文章にも自ずから風格というものが出てくるでしょう。
そして我が養生論の双璧として取り上げたのが、「老化と死とをそれとして認め、受け容れた上で、楽しく抵抗しながら自分なりの養生を果たしていき生と死の統合を目指す」という〝ナイスエイジング〟と、「日々命のエネルギーを勝ち取りながら、死ぬ日を最高に、その勢いを駆って死後の世界に突入する」という〝攻めの養生〟でした。この双璧の上に築かれたのが、私の細やかな養生論です。
◉「致知電子版」では、本連載の全回をご覧いただけます!!◉ 詳細はこちら
◇帯津良一(おびつ・りょういち)
昭和11年東京都生まれ。東京大学医学部卒業後、同医学部第三外科、都立駒込病院勤務を経て57年埼玉県川越市に帯津三敬病院を設立(平成13年より現職)。日本ホリスティック医学協会名誉会長、日本ホメオパシー医学会理事長。『帯津三敬病院「がん治療」最前線』(佼成出版社)など著書多数。