2024年10月06日
脳神経外科医として世界初の「脳低温療法」を確立、さらに脳科学を生かして多数の五輪メダリストを育成してきた林成之氏と、専門外から幼児教育の道に入り、大人でも難しい古典・名文を園児がすらすら読みこなす、卒園児の平均IQが120という稀有な幼稚園をつくり上げた小泉敏男氏。 人育てという普遍のテーマに挑む両氏に、「本能の鍛え方」について語り合っていただきました。
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勝手に本能が育つ〝心のプレート〟づくり
<小泉>
先生は本能を鍛えることが潜在能力を高めるとおっしゃいました。すると実際にはどの本能を鍛えればいいのでしょう。
<林>
人間の本能の中で、特に強い力を持っているものがあります。
1、生きたい
2、知りたい
3、仲間になりたい
4、伝えたい
5、自分を守りたい
です。前半の3つは、脳を構成し、互いに繋がり合って情報を処理する脳神経細胞がもともと持っているもの。
残りの2つは、既に説明した〈ダイナミック・センターコア〉の働きで生まれてくる本能です。
問題になる「自分を守りたい」は「生きたい」に根差していて、決して悪者ではありません。
これをうまく克服して、美しい本能を発揮することが大事なんです。
<小泉>
先ほど空間認知能の話がありましたよね。
当園では、毎朝の教室での活動の初めに3分、必ず時間をとって「立腰」と「瞑想」をするんです。姿勢と脳って実際、どんな関係があるんですか。
<林>
姿勢が崩れたらおしまいです。情報が入ると空間認知能が働いて「気持ち」が動くんですよ。
姿勢が悪ければ空間認知も歪むので、気持ちが落ち着きません。
<小泉>
やっぱり。
姿勢の悪い子は授業でもキョロキョロしてしまって集中できません。
当園では、まず教室で子供たちに正座してもらって、菱木秀雄さんの詩「腰骨を立てる子」を皆で唱和するんです。
下腹に力を入れて
腰骨をシャンと立ててごらん
肩や胸に力を入れないで
あごを引きましょう
素晴らしい姿勢です
元気な体の基です
頭が澄んできます
あなたのわがままに克てる姿勢です
あなた自身を見直せる姿勢です
きびしい世の中を乗り切る姿勢です
唱和が終わったら目を閉じて、瞑想です。
それでも、やっぱりソワソワしてしまう子がいるので、心の落ち着く音楽を小さい音量で流す。
するとそういう子も自然に耳を傾けて、皆と一緒に座ってくれるんです。
<林>
うまいですね。
<小泉>
初めはできない子がいますけど、そっと背中を擦って正してあげて、全員整ったら先生も一緒に取り組む。
これを毎日続けると、4~5歳の頃にはもう立派な姿勢が当たり前になって、自制心が働く素直な子に育ってくれます。
<林>
褒め方も大事ですよね。
<小泉>
大事ですね。
うちの先生が実践しているのは〝具体的に褒める〟ことです。「□□君、背筋がしっかりと伸びて、格好いいですね!」と。
家庭でもそうで、子供は何となく褒めるだけでは伝わりません。
具体的に言うから嬉しくなって、習慣になるわけです。
<林>
いい姿勢が整ってくると「負けたくない」という気持ちが育ちます。
子供の場合、何に取り組むにも簡単に諦めない、粘ばり強い子に育ってくれるでしょうね。
僕は美しい姿勢を「心のプレート」と呼んでいますけど、美しい姿勢は、本能を勝手に鍛えてくれる素晴らしい基盤になるんです。
(本記事は月刊『致知』2024年10月号特集「この道より我を生かす道なしこの道を歩く」より一部抜粋したものです)
◉『致知』10月号 特集「この道より我を生かす道なしこの道を歩く」◉
対談〝「人間の可能性をこうして花開かせてきた」〟
林 成之(スポーツ脳科学者)
小泉敏男(東京いずみ幼稚園園長)
↓ 対談内容はこちら!
◆脳科学と教育の交差点で
◆本能という基盤を鍛えて伸ばす
◆「あなたは1人で4人分、頑張って」
◆語彙が乏しいことの悲しさ
◆幼児教育にはびこる先入観との闘い
◆脳を前向きな気持ちで動かす
◆ほんの少しの工夫が潜在能力を発現させる
◆勝手に本能が育つ〝心のプレート〟づくり
◆潜在能力を引き出す言葉の使い方
◆いいところを摘んで、喜ぶ
◆人育てという国育ての道を歩く
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◇林 成之(はやし・なりゆき)
昭和14年富山県生まれ。日本大学医学部、同大学大学院博士課程修了。マイアミ大学医学部、同大学救命救急センターに留学。平成3年日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター部長に就任。27年より同大名誉教授。脳低温療法を開発し、医学界に貢献する傍ら、トップアスリートの指導に関わる。著書多数。『運を強くする潜在能力の鍛え方』(致知出版社)を刊行予定。
◇小泉敏男(こいずみ・としお)
昭和27年東京都生まれ。大学在学中に小泉補習塾を運営、卒業後の51年父と共にいずみ幼稚園を創設し、副園長に就任。石井式漢字教育、ミュージックステップ音感教育など画期的なプログラムを早期に導入。平成7年より園長。16年第13回音楽教育振興賞を幼児教育界で初めて受賞する。近刊に『国語に強くなる音読ドリル』(小泉貴史氏と共同監修/致知出版社)がある。