叱責や体罰は要らない——。〝子育てブラックジャック〟奥田健次流・独創的教育法

不登校や暴力など、我が子の問題行動に手を焼き、悩みを抱え込む親に対し、「行動の問題なら必ず変容できる」と、これまでの30年で実に2万数千件の相談に応じてきた奥田健次さん。近年、私財を投じて学校法人西軽井沢学園を創設されました。誰にも忖度せず、理想の教育ができる学校をつくりたい……その思いでこの春自ら開校した私立「さやか星小学校」(長野県)で実践されている斬新な教育について、紹介されています。

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叱責や体罰は要らない

誰にも忖度することなく、理想とする教育ができる学校を自分でつくってしまおう──。

どこの大学、病院、施設にも属さない〝流し〟の臨床家だった僕が、長野県御代田町に保有していた別荘の真ん前、5,000坪の敷地を購入し、学校法人を設立。大赤字も構わず2018年に設立したサムエル幼稚園では、日本で初めて「行動分析学」を基盤にした理想の教育を形にし、全国から教育関係者の視察が後を絶たない園になりました。

そしてこの春、佐久市の廃校を活用して開校した「さやか星小学校」は1学期を終えたところですが、既に僕の想像を超える成果を上げています。1年目の児童数は22名、定型発達の子が通う私立小学校ですが、いわゆるギフテッドと呼ばれる子も通っています。

その中に、ひときわ「拗ね」がひどい男の子がいました。数ある子どもの問題行動の中でも特に習慣化しやすく、放置すると社会不適応を起こしやすいものの一つが拗ねです。たまに、そんな態度を許容する人がいるものですから、たいていは長く続く問題ですし、専門家も「性格」のせいにして治し方を知りません。

課題が多いと聞いていた彼と対峙したのは6月頭、アメリカ出張から帰った直後です。理事長である僕は出校日、皆を喜ばせようと、お土産に買った「I♥NY」の文字の入った鉛筆を、一人ずつ配っていた、その時です。彼だけが「要らない」と言わんばかりに顔を背け、片手でズイッと鉛筆を返してきたのです。

普通の学校の先生なら「何で要らないの?」とあれこれ理由を聞いて渡そうとするかもしれません。行動の原理で言うと、最悪です。ますます反発を呼び、拗ねや抵抗する行動を〈強化〉するからです。ただ、これを見過ごしても大人の負けです。

僕は他の児童が「やった~!」と喜ぶ中、彼の鉛筆を無言で回収し職員室へ直行。考えを巡らしました。本校は行動分析学に基づいて子どもを伸ばす学校です。日常の些細な出来事が、教育の絶好のチャンスになるのです。

彼が好きなものは、有名なアニメ映画に登場する乗り物でした。僕は遊び用に買った家庭用クレーンゲームを倉庫から引っ張り出し、その乗り物の写真を大量にカラー印刷して景品カードに加工。ありあわせのキャンディなども投げ込んで、教室に戻りました。

「皆、UFOキャッチャー持ってきたで!」。

もちろん、もともとこんな指導をする予定はなかったのですから、すべてアドリブです。勝負はここから。

「遊べるのは、NYの鉛筆を持っている人だけです」と発表しました。

その瞬間、大好きな景品を獲得できると思っていた彼の顔に焦りが浮かびました。そして彼の順番が回ってきた時、「あれっ、鉛筆は? 持ってないのか、そりゃ残念やなあ」と次の子に飛ばしました。

彼の顔には後悔と涙が滲んでいました。

これぞ〝奥田流・ドラマの姑的介入法〟。意地悪に見えるかもしれませんが、本当にそうでしょうか。叱りも体罰も、一切使っていません。この子が大好きなものを得る権利を喪失したのは他でもない、自分の行動によってです。

円滑な人づきあいをする上で、「後悔」は大事な経験の一つです。一般的な家庭や学校では、後悔させるのは可哀想だからと、いろいろな説明や説得をしています。それはその子の成長の機会を奪っているに等しい行為です。僕たちは彼に損をさせて「あげた」のです。

彼の親御さんにも指導し、治すには長くて6年、卒業までかかるかもしれないと話しましたが、2週間後の出校日、目を疑いました。あれだけ酷かった拗ねや拒否が消え、別人のように素直に挨拶し、お話ができる彼がそこにいました。

行動の原理に従えば、子どもの行動はこのように思わぬ早さで変容するものです。


(本記事は月刊『致知』2024年10月号 特集「この道より我を生かす道なしこの道を歩く」より一部抜粋・再編集したものです)

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◆意に沿わなくても〝父親〟に従う
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◇奥田健次(おくだ・けんじ)
昭和47年兵庫県出身。専門行動療法士、臨床心理士。大学院在学時より出張教育相談を開始。平成11年、内山記念賞(日本行動療法学会)を受賞。15年、日本教育実践学会研究奨励賞受賞。20年、第4回日本行動分析学会賞(論文賞)を受賞し、行動科学系の二大学会で初の両賞受賞者となる。24年大学を早期退職し、私財を投じて長野県に学校法人西軽井沢学園を創立。30年4月、サムエル幼稚園を開園。令和6年4月、さやか星小学校を開校。著書に『メリットの法則』(集英社新書)ほか多数。

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