2024年08月12日
レストランやカフェ、居酒屋をはじめ、多種多様な飲食店を次々立ち上げ、2010年には業界初の「100店舗100業態」を達成した「DDグループ」。同社を徒手空拳で創業し、今日の繁栄を築いてきた松村厚久氏は、若くしてパーキンソン病を患います。氏はなぜ、難病と闘いながら経営の第一線に立ち続けるのか。告知を受けた当時を振り返っていただきました。
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全身全霊で打ち込める仕事があるという幸運
──経営に打ち込む中で、転機になったことはございますか。
〈松村〉
立地や時期に合わせて都度出店していた折、メディアシークの西尾直紀さんに出逢ったことは分岐点になりました。痺れましたね、会社設立から僅か9か月という世界最速の上場話には。私も世界一に挑戦したいという思いが、沸々と湧き上がってきたんです。
では、当社にしかできないことは何か。それは一店舗一店舗、全く違う店をつくり上げることだと思い至り、「100店舗100業態」を目標に掲げました。
当時(2005年1月)の出店数は僅か8店。周りからは「無理だ」と揶揄されましたが、そう言われると燃えるんですよ。文字通り不眠不休で仕事に没頭しました。
ところが、38歳になった2005年の春、右肩が上がりづらく、首が痛く固まるようになったんです。
当初は早い四十肩かと思ったのですが、指圧を受けても改善されず、みるみる悪化していく。ついには左手をぶらりと垂れ下げ、腕を振ることができなくなっていることを母に指摘されました。病院で検査を受けた結果、パーキンソン病だと診断されたんです。
──目標に走り出した矢先に……。
〈松村〉
パーキンソン病は、中脳の黒質ドパミン神経細胞が減少することによって手足の震え、筋肉の強張り、動作の緩慢などの病状が現れる難病です。進行を遅らせたり、病状を緩和させたりする薬はあるものの、薬を飲み始めて5年経つと効果が出にくくなる。現代医学をもってしても、完治の治療法は確立されていません。
この病気は50歳以上で起こることが大半ですが、私の場合は若年性といって、40歳以下で罹る稀なケースだと告げられました。
──突然の告知をどのように受け止められましたか。
〈松村〉
パーキンソン病と言われても、どんな病気か分からなかったですし、何かの間違いじゃないのかと思いました。何一つ実感を持てなくて、懸命に仕事をしている時にどうしてそれを阻まれるのか、なぜ俺なんだと、やり場のない不安と怒りが込み上げましたね。
暗い洞窟に落ちていく私にとって、微かな希望になったのは5年という時間でした。5年は進行を遅らせることも、薬の効果も期待できる。自分にはまだ5年もの時間があるじゃないか、5年あれば目標の多くを達成するに足る時間だと考えるようになったんです。
だったら、こんなところで倒れるわけにはいかない。走り続けなきゃ、急がなきゃ、突き進まなければならない。その一心で必死に自分自身を駆り立てました。
──病を前に進む原動力にされた。
〈松村〉
要は自分がぶち上げた「100店舗100業態」に向かい突き進むだけだと、目の前にある仕事に縋ったんです。すると、深刻になる時間がもったいなくて、不安や怒りを忘れることができた。全身全霊で打ち込める仕事があるという幸運が私にはありました。
(本記事は月刊『致知』2024年8月号 特集「さらに前進」より一部抜粋・編集したものです)
【本記事の内容】
▼コロナ禍の逆境を乗り越え これからは快進撃の始まり
▼原点となったサイゼリヤでのアルバイト
▼「100店舗 100業態」をかくして実現した
▼神様は乗り越えられない試練は与えない
本記事では全4ページにわたって、「飲食業界の革命児」との異名を取る松村さんの体験談をお話しいただきました。若年性パーキンソン病を患う逆境に直面しながらも、経営の第一線を走り続ける松村さんの生き方から見えてくる、道なき道を拓いていく要諦とは。【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】。
〈致知電子版〉でも全文お読みいただけます
◇ 松村厚久(まつむら・あつひさ)
昭和42年生まれ、高知県出身。64年日本大学理工学部卒業後、日拓エンタープライズ入社。日焼けサロン経営を経て、平成13年銀座に「VAMPIRE CAFE」を開業。22年「100店舗100業態」を達成。27年東証一部(現・プライム)上場。同年に発売された小松成美氏のノンフィクション『熱狂宣言』(幻冬社)の中で、若年性パーキンソン病であることを公表。現在も病と向き合いながら、300店以上の飲食店を運営すると共に、アミューズメント事業やホテル・不動産事業を手掛ける。
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