クジラ産業の復活が日本を救う?? 反捕鯨活動と闘う映画監督・八木景子さんに聞く  

和歌山県太地町の伝統的なイルカ漁を主に取り上げ、日本の捕鯨文化を批判した『ザ・コーヴ』が第82回アカデミー賞の授賞式で「長編ドキュメンタリー賞」を受賞し、大きな話題になりました。しかし、その『ザ・コーヴ』に疑問を感じ、たった一人で立ち上がったのが映画監督の八木景子さんです。八木さんは私財を投じて反証映画『ビハインド・ザ・コーヴ ~捕鯨問題の謎に迫る~』を制作、同作は世界から高い評価を受けました。さらに2023年に公開されたドキュメンタリー『鯨のレストラン』も大きな反響を呼び、2024年には一般社団法人鯨食復興研究所を設立するなど日本の鯨文化を守るべく奮闘を続けています。なぜ日本人は鯨文化を守らなくてはいけないのか、八木さんに語っていただきました。

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日本文化と密接に関係する鯨

<八木>

……反捕鯨団体の活動家たちが日本を批判する際に持ち出す論点は、主に次の三点があると思います。

一つ目は、イルカや鯨は知能が高く、海難事故に遭った人間を救うこともあるのだから、商業捕鯨や鯨食は反人道的だということです。反捕鯨活動家にとって彼らは家族であり、また神聖な生き物だと捉えているのです。

しかし、特定の種だけを保護するのは自然界のバランスを崩すことに繋がっていきます。この事実を彼らに理解してもらう必要があります。

二つ目は、すべての鯨が絶滅の危機に瀕しているという誤った情報からくるものです。確かに、かつて欧米による商業捕鯨が鯨の乱獲を招き、シロナガス鯨など一部の大型鯨が絶滅の危機に瀕しました。

しかし、ミンク鯨に関しては、現在では自然界のバランスを崩すほど増え過ぎていると言われています。この資源数の多いミンク鯨を日本が獲ることにすら反対されているのです。この種ごとの資源数についても情報を発信し理解を求めていく必要があります。

そして三つ目は、日本は豊かな国であり、食料はいくらでもあるのだから、わざわざ鯨まで食べる必要はないし、鯨を食べたいと思っている日本人もそこまで多くない、というものです。

しかし、これも日本人が以前より鯨を食べなくなったのは、食べたくないからではなく、そもそもIWCの「商業捕鯨モラトリアム」などにより、鯨肉の流通量が大きく減ったからなのです。

また、鯨を食べる習慣は、戦後の食糧難の時代だけのものだと思っている日本人も多いようですが、日本と鯨の繋がりは縄文時代から続いているもので、『古事記』の中でも神武天皇が鯨について詠っています。

そして、鯨は単なる食材の一つに留まらず、縁起物としても扱われていました。鯨という文字は、魚偏に右は大きいものを意味する「京」の文字。子供が大きく育ちますように、商売が繁盛しますようにとの先人たちの願いが込められているのです。

こういった食材や縁起ものとしての他にも髭や骨、油などを無駄なく使い、煙草入れや髪留め、三味線の撥、提灯、肥料など、生活の様々な場面で活用してきたのです。このように、私たち日本人は鯨と多様な繋がりを持ち、ともに歩んできた民族であることが分かります。

気になる鯨肉の栄養面においては、水銀は南氷洋から獲れるものにはほとんどなく、あっても自然浄化されます。そして他の動物よりも高タンパク、低コレステロール、多くのスタミナ源を含んでおり、生活習慣病や鬱病を防ぐ効果があることが分かっています。まさに現代の日本人に必要とされている成分がぎっしり詰まっているのです。

食糧自給率が4割を切っている現在においては、鯨が示す多くの事柄が日本に起きている様々な問題への一つの解を持っているように思われます。

国際的な問題において大事なのは、「あうんの呼吸」が通用しない国際社会に向け、日本の立場をしっかりと伝えるべく情報発信力を高めていくことです。

島国である日本は言葉の壁、ロケーションの壁があり、そして考え方や精神性においても他の国々と大きな違いがあります。その違いから世界の声を聞けず、とりあえず静かにしてやりすごしておこう、などということもしがちです。

また、今回、映画を通して感じたのは「よくつくってくれた」という日本人からの言葉や、実際に映画をご覧になった海外の多くの方も捕鯨に理解を示した方が圧倒的だということでした。海外の方はたとえ自分の考えとは違うとしても、相手の意見を聞くことを求めています。まずはこちらの考えを伝え、そこから物事が動き出したり、クリアになっていくことのほうが多いように思います。

実際、私が製作した映画が世界配信されると同時に、シーシェパード創立者であるポール・ワトソンが日本の南氷洋での調査捕鯨への妨害活動を一時停止し、また、太地町へのメンバー派遣も止めると宣言しました。2015年に海外の大手メディアが一斉に『ビハインド・ザ・コーヴ』のことを報じた際には、五分のダイジェスト版に15万人がアクセスし、反捕鯨キャンペーンのボランティアが集まらなくなったとシーシェパードのリーダーから連絡がきました。

これは、太地町に行くと逆撮りされる、とボランティアが警戒したのと、情報を発信したことによって反捕鯨活動家たちへの寄付がじわじわと減っていることが影響しているのだろうと思います。

今回の捕鯨問題もそうですが、メディアから流れる情報をそのまま鵜呑みにせず、受け取る側が「この報道は公平か、実際には何が起きているのか?」と想像力を膨らませることが重要だと考えています。

 ・  ・  ・


(本記事は2018年1月号 連載「意見判断」掲載記事から一部抜粋・編集したものです)

 

◇八木景子(やぎ・けいこ)  

昭和42年東京都生まれ。ハリウッド大手映画会社の日本支社勤務。退職後、「八木フィルム」を設立。捕鯨問題を取り扱ったドキュメンタリー映画『ビハインド・ザ・コーヴ ~捕鯨問題の謎に迫る~』を製作。初監督作品ながら世界八大映画祭の一つである「モントリオール世界映画祭」に正式出品されるなど、国内外で大きな反響を呼んでいる。2023年には食と科学としてのクジラを贅沢に語り尽くすドキュメンタリー『鯨のレストラン』を公開し、話題を呼んでいる。2024年には一般社団法人鯨食復興研究所(問い合わせ:yagifilmJAPAN@gmail.com)を設立。

 

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