「本来業務の継続・集中・徹底」——金融商品なし、預貯金と融資に特化し成長を続ける広島市信用組合の創業の原点

創業72周年を迎えた広島市信用組合。金融商品を扱わず、預貯金と融資に特化するという驚くほどシンプルなビジネスモデルで、令和5年度上半期の経常収益は過去最高の98億円超と、いまもなお成長を続けています。入社以来数々の改革を主導し、同組合の成長を牽引してきた山本明弘理事長に、創業以来のモットー、経営者としての歩みや心がけてきた姿勢について語っていただきました。

預金、融資に特化したシンプル経営を貫く

〈山本〉
私ども広島市信用組合(シシンヨー)は令和6年5月で創業72周年を迎えます。昭和27年の創業以来、「相互扶助」の精神の下、地域の方々から預金を預かり、中小零細企業、事業主の方に、必要な資金をタイムリーに融資させていただき、地元のお金を地元で活かすことでお客様と共に成長してきました。

ありがたいことに業績は右肩上がりで、令和5年度上半期決算では経常収益は98億円を上回り過去最高を更新。日本格付研究所の格付は「A+」に引き上げられ、見通しも「安定的」と高評価をいただいています。

他の金融機関から「どうすればこれほどの数字が出せるのですか」と尋ねられることも少なくありませんが、大きな要因の一つは預金、融資に特化したシンプル経営を貫いてきたことにあります。

当組合は投資信託や生命保険などの金融商品は取り扱わず、預金と融資の本来業務に特化したビジネスモデルを継続、集中、徹底してきました。「地元のお金は地元で活かす」が創業以来のモットーであり、それこそが地域金融機関が果たすべき使命と思うからです。

もっとも、私が理事長になった平成17年当時は、当組合でも他の金融機関と同様、様々な金融商品を取り扱っていました。しかし、私はこの創業の原点に立ち返って保有していた株を売却し、金融商品をすべて手放しました。本来業務に特化することで他行の手が届かないニッチな部分が見つかり、困っているお客様に融資の手を差し伸べられるようになったのです。

他にも当組合ならではの特徴として、営業店から上がってくる融資案件は原則即日、遅くとも3日以内に回答することが挙げられます。こうした他行にはない取り組みが大きなパワーとなって、業績を積み上げることができたと考えています。

是々非々をモットーに難しい状況に対応

〈山本〉
私は昭和43年の入組以来、融資一筋に歩む中で様々な改革にも取り組んできました。

お客様の資金ニーズに素早く応え、少しでも早く安心していただきたいという思いから審査部長となった平成6年、それまで長ければ1か月かかっていた融資の審査業務を3日以内にすると宣言し、それを断行しました。金融業界では誰もやったことのない取り組みだけに、「融資は時間をかけて慎重に審議すべきだ」との意見もありましたが、結果的にお客様には大変喜んでいただき、職員の働きやすさにも繋がりました。

日本がバブル崩壊による金融危機に直面したのは、私が管理部長に就任した平成11年。北海道拓殖銀行や日本長期信用銀行(現・SBI新生銀行)をはじめとする大手金融機関の破綻が相次ぐ中、当組合でも企業の倒産と、それに伴う不良債権が増加していきました。

「このままではシシンヨーは破綻する」と思った私はバルクセールという不良債権処理の方法を提案しました。これは不良債権をサービサー(債権回収会社)に一括売却するというものです。当時としては先駆的な方法であり、この時も多くの反対を受けましたが、私の考えがぶれることはありませんでした。このバルクセールを継続してきたことで不良債権比率は令和5年3月末現在で1・55%まで低下。トラブルは一件もありません。

不良債権に対する管理業務が大きく減ったことにより職員が後ろ向きの仕事から解放され、攻めの業務に集中できたこともまた、業績をここまで伸ばすことができた要因の一つだと思います。

私の座右の銘は「是々非々」です。それを踏まえ、経営に当たっても「お客様によくなってもらうにはどうしたらよいか」「職員が幸せになるにはどうしたらよいか」、この2点を判断基準としてきました。仕事を取り巻く様々な難しい状況に直面しても、この2点に照らし合わせることで、物事の是々非々、打つべき手が見えてきます。

審査を3日以内と決めた時も、バルクセールを取り入れた時も、是々非々という言葉を支えに自らを信じ、顧客目線、職員目線に徹することができたからこそ決断ができました。また、それを貫けたのは「明弘、嘘を言うなよ」が口癖だった父の影響が大きいと思います。誰が何を言おうが正々堂々、愚直に業務に徹することができたことを思うと、父には感謝しかありません。

徹底した現場主義で金融機関の未来をひらく

〈山本〉
金融機関として大切なことは、お客様から選ばれ、頼りにされる存在であり続けることです。それには誰よりもお客様を訪問し、お客様のことを知っていなくてはいけません。お客様との信頼関係を構築するため、当組合は現場を歩いて歩き抜くことに力を注いできました。お客様のもとに直接出向き、「フェイス・トゥ・フェイス」で会話を交わすことは文字通り最重点業務です。

繰り返し訪問することでお客様との信頼関係はより強化され、新たな融資案件の獲得に繋がっています。決算書だけでは分からない経営者の人間性や会社の持つ可能性を知ることができます。3日以内という圧倒的なスピードで融資の可否を下せるのも、現場を回ってお客様のことがよく分かってこそ初めて可能なのです。

店舗の新築移転開店に当たっては、事前に全支店長や得意先係によるローラー活動(融資開拓の一斉戸別訪問営業)を行い、大きな成果を挙げています。新築移転開店した店舗は当組合の業績に大きく貢献しており、今年、来年、それぞれ新たに2店舗、その後も1店舗の開店を計画中です。メガバンクや地銀をはじめ、多くの金融機関が店舗網を縮小する中、店舗の新築移転開店を計画的に実施し、差別化を図ることができるのも当組合の大きな強みと言えるでしょう。

また、そのためには融資によって地域に貢献できる「融資大好き人間」の育成が必要であり、様々な機会を捉えて取り組んでいます。融資で地域に貢献できる喜び、そのロマンを知った職員が成長を遂げていく姿を見ることは私の喜びでもあります。

私自身、理事長就任以降、今日までお取引先への訪問を継続してきました。現場主義の経営方針をトップ自ら実践し、その姿を見せると共に支店長会議、研修などを通して繰り返し伝えてこそ、役員、支店長から若手職員に至るまで現場主義の重要性を浸透させることができるのです。トップ自ら姿勢を正し、模範を示さなければ部下はついてこない。このことは私の一貫した信念です。

当組合はこれまで中小零細企業の方々に寄り添い、地域と共に歩み続けてきました。この経営理念は時代が変わっても変わることはありません。それを継続するためには何より「フェイス・トゥ・フェイス」と「フットワーク」を愚直に継続していくことが大事です。これからも徹底した現場主義によってお客様の期待に応え、地域と共に成長、発展していきたいと願っています。


(本記事は月刊『致知』2024年4月号掲載記事を一部編集したものです)

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