〝創造と貢献〟——『信長の野望』を生み出したゲームクリエイター「シブサワ・コウ」の原点

2023年、創業45周年を迎えたコーエーテクモ。『信長の野望』や『三國志』をはじめとした歴史シュミレーションゲームで知られる同社をゼロから立ち上げ、ゲームクリエイター「シブサワ・コウ」として数々のヒットタイトルを生み出してきたのが、創業者の襟川陽一氏です。しかしその道のりには染料工業薬品の家業再興に挑むなど、様々な困難があったといいます。そんな襟川氏に創業秘話をお話しいただきました。

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運命を変えた1台のパソコンとの出逢い

〈襟川〉
『信長の野望』や『三國志』をはじめとした歴史シュミレーションゲームに強みを持つコーエーテクモは2023年に創業45周年を迎え、売上高は過去最高の784億円を記録しました。

これも偏に国内外のお客様から熱く支持をいただけているがゆえの恩恵に他なりません。業績の伸びはもっと頑張りなさいという声援の表れと捉え、お客様の期待を上回る商品をつくり続けることこそが、当社の使命と心に深く銘記する今日です。

とはいえ、創業当初はゲーム業界に参入するなど夢にも思いませんでした。足利氏発祥の地として知られる栃木県足利市。この地で祖父が興した染料工業薬品の問屋の長男として生まれ、父から「おまえが三代目だ」と言い聞かされて育ったことで大学卒業後の1973年、家業の取引先に入社しました。

そうして4年が経ち、家業に戻る私を待ち受けていたのは厳しい現実でした。当時の繊維業界は過当競争によって斜陽産業と化し、家業も資金繰りに窮した結果、廃業という結論に達しました。「おまえに継がせたかったが申し訳ない」。私の手をグッと握り締め、無念の涙を流す父をいまも鮮明に覚えています。

半年間残務処理を行う中で「自分だったらこうしたのに」という思いが沸々と湧き上がってきました。自分なりに家業の再興に挑戦しよう。そう決意を固め、私と家内の貯金から搔き集めた200万円を元手に1978年、27歳の時に光栄(現・コーエーテクモ)を設立しました。事業は染料工業薬品の卸売り、家業で営業をしていた社員を1人採用しての、たった3人からのスタートでした。

ところが業界の低迷には抗えず、いくら工夫を重ねても報われません。私には経営者としての器量がないのかもしれないと思い倦ね、ドラッカーや稲盛和夫氏の本を必死に読み漁ったものです。

そんな折、30歳の誕生日に家内から1台のパソコンをプレゼントされたことが分岐点になりました。論理思考を好む私とパソコンとの相性は抜群によく、独学でプログラミング言語を習得しては、昼間は業務用ソフトを受託開発し、夜は趣味でゲーム開発に挑戦する。特に自作のゲームを遊ぶ喜びは他に代えがたいものでした。

そして創業3年目、土地柄ゆえ歴史好きだったことに加え、当時一世を風靡していたパズルや射撃要素の強い単純なゲームにはない、じっくり思考するゲームへの欲求を胸に開発した『川中島の合戦』の通信販売を決行。数十本売れれば御の字と思っていたところ、何と1万本以上を売り上げるヒットとなりました。配達員の鞄に収まりきらない現金書留が毎日届き、唖然とするほどでした。

家業の再興に奔走していた頃は「~ねばならない」という義務感に囚われ、達成感を味わうには至りませんでした。一方のゲーム開発では、自分が心の底から楽しんでつくることができた上に、それに対して「楽しかった」「今度は信長を出して」など、お客様から多くの声をいただけたことに大きな充実感を得ました。

いままでにない面白さを提供することで社会の役に立つことができる、これこそが仕事の原点、醍醐味ではないか。自分の人生を懸けてよい仕事だと思い至り、ゲームメーカーへと舵を切りました。パソコンとの出逢いが、当社の運命を大きく変えたのです。

「創造と貢献」─体験から生まれたこの言葉が私の座右の銘であり、当社の精神そのもの。心の中でいまなお息づいています。


(本記事は月刊『致知』20245月号 連載「私の座右銘」より一部抜粋・編集したものです)

本記事では他にも、直面した経営危機や今後の夢など、ゲーム業界を牽引してきた襟川氏の歩みを振り返っていただきました。経営に没頭してきた氏の足跡には、仕事・人生の要諦が凝縮されています。全文は本誌をご覧ください!【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】

 

◇ 襟川陽一(えりかわ・よういち)
昭和25年栃木県生まれ。48年慶應義塾大学商学部卒業。53年光栄設立。本業の傍らゲームソフト制作を始め、後に事業化。ゲームクリエイター「シブサワ・コウ」として数々のヒットタイトルを生み出す。平成21年にテクモと経営統合しコーエーテクモホールディングス設立。現在社長業の傍ら、同社ゼネラルプロデューサーも務める。

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