「災禍は変革の源」——死ぬ思いで奮闘した4年間で掴んだ〝人生の法則〟〈日本電子会長・栗原権右衛門〉

祖業である電子顕微鏡で世界トップシェアを誇り、ノーベル賞の陰の立役者と称される理科学・分析機器メーカー日本電子。現在会長を務める栗原権右衛門氏は電子顕微鏡を主力とする同社では異例、営業畑出身としてトップに就任し数々の経営改革を断行してきました。しかしその栄光は、社長就任後の過酷な4年間なしに語れません。どん底の時期を乗り越え、栗原氏が掴んだ人生の法則とは——。対談のお相手は、令和元年にリチウムイオン電池の研究と普及でノーベル化学賞に輝いた旭化成名誉フェロー・吉野彰氏です。

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災禍は変革の源である

<栗原>
実は私にも苦しい時期がありました。社長に就任したのが2008年、60歳の時です。

初めに申し上げたように、我われの業界はマーケットが小さく、入社以来30年余りの業績推移を見ると、売り上げは伸びてはいるものの、利益率は下がっていく〝長期低収益期〟でした。

私は7代目で、歴代社長は電子顕微鏡の開発技術者が続いていましてね。営業出身でしがらみに囚われず、社内論文などで忌憚なく意見を述べていたので選ばれたのかもしれません。ところが、そこにリーマンショックが襲ってきたんです。

<吉野>
ああ、就任とほぼ同時に。

<栗原>
初年度の決算は売上高839億円に対し、28億円の赤字。野球で譬えればバッターボックスに立って、さあ打つぞと意気込んだ瞬間、素振りもしないうちに「三振!」と言われた気持ちでした。しかも取引先の過半数が海外ですから、急激な円高で4年くらい苦しみ抜きましたね。

当時は何て運の悪い社長なんだろうと嘆きました。家内に言われますよ、夜中しょっちゅううなされていたと。外部から利益の出ていない事業はやめろと言われて、私が長く担当してきたNMRの部門も一旦、グループ外に切り離し、産業革新機構の出資を受けました。

でも、いまになって思うのは、死ぬ思いをしたあの4年間があったから会社の構造改革ができた。

だから私は「災禍は変革の源」だとよく言うんです。

追い込まれたおかげで関係会社5社の合併や、不採算事業からの撤退、海外工場の閉鎖などに踏み切れたと。以降、3年ごとに中期経営計画を策定し、全社の改革に取り組んできました。

<吉野>
そこから業績も回復されて。

<栗原>
いま、日本の半導体産業はダメだと言われているでしょう。だけどその半導体をつくる機械と部材の6割くらいは日本が持っていますね。当社の業績が大きく回復した背景に、まさにその半導体製造の要となる機械があります。

<吉野>
ロジック半導体ですか。

<栗原>
はい、電子機器の頭脳になる部分ですね。それらの生産に使われる電子ビーム描画装置です。

実はこの装置も往時は不採算で、金融機関等から事業撤退のプレッシャーを受けました。その時に、若手の頃創業者の著書を捲って出合った言葉が胸に蘇ったんですね。

「今や日本は、アメリカとともに高級理科学機器の世界の大国となって、成果の出るのはこれからであろうが、日本の青年を信頼し、青年に頼って立国の大業の成ることを、期して待とうではないか! 彼等に、われわれの遺伝子が伝えられていることを信じて!」

これを読む度に心が震えるんですが、私はいまの半導体での成功を予期していたわけではありません。電子ビーム描画装置は電子顕微鏡の技術を応用した、創業以来の遺伝子と言える事業でした。

だからいま儲かっていなくても、この遺伝子だけは絶対に守ろうと思ったんです。先生のランナーズハイと同じで、苦しみ抜いた結果、オーストリアの会社との産産連携が実現して世界随一の性能を持たせることができ、いまや世界中からお引き合いが絶えません。


本記事では、「立志に国境はないが国民には祖国がある」「日本の強みをどう生かすか」「2050年を見据え、連携を強めて動き出せ」など、立国の礎たる科学技術の活路、目指すべき立志のありようが熱く語られています。停滞著しい我が国の科学技術分野。しかし、そんな中にあって同分野の最前線に立つ両氏の対談には、我が国の未来に光を見る思いがします。

◉『致知』2024年2月号 特集「立志立国」◉
対談〝「科学技術こそ立国の礎なり」〟
吉野 彰(旭化成名誉フェロー)
栗原権右衛門(日本電子会長)

 ↓ 対談内容はこちら!
◆日本の大学では真理の探究ができない?
◆マーケットの創出が産業界の目下の課題
◆時代は変わった 必要なのは発想の転換
◆2050年を見据え、連携を強めて動き出せ
◆恩師に叩き込まれた古典的理論の大切さ
◆創業者の理念・哲学に共振して
◆脳裏に焼きついたランナーズハイ
◆災禍は変革の源である
◆日本の強みをどう生かすか
◆立志に国境はないが国民には祖国がある

 ▼詳細・お申し込みはこちら

◇吉野 彰(よしの・あきら)
昭和23年大阪府生まれ。47年京都大学工学研究科石油化学専攻修了後、旭化成工業(現・旭化成)に入社。60年リチウムイオン電池の基本概念を確立する。17年大阪大学大学院工学研究科にて博士号(工学)取得。29年から現職。令和元年リチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞受賞。

◇栗原権右衛門(くりはら・ごんえもん)
昭和23年茨城県生まれ。46年明治大学商学部卒業後、日本電子入社。取締役メディカル営業本部長、常務取締役、専務取締役を経て平成19年副社長、20年社長。令和元年6月より会長兼最高経営責任者、4年6月より会長兼取締役会議長。

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