2024年12月26日
◎最新号申込受付中! ≪人間力を高める2025年のお供に≫道場六三郎氏。この道一筋に歩み来て75年、和食の神様と称されます。この1月に93歳を迎えましたが、凛としたコックコート姿はいまも健在です。そんな道場氏が、独立前の逆境を乗り越える上で土台となったと語る、20代の頃のお話をご紹介します。
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「修業とは我を削ること」「環境は心の影」
<道場>
20代前半の時に、勤めていた神戸のホテルで板長から酷いいじめに遭ったことがあります。
調理場の準備はどんなに急いでも2時間かかるのに、開店1時間前まで中に入れてもらえないとか、「遅いぞ、ボケ」と怒鳴られ、殴られたり蹴飛ばされたり、つくった料理をひっくり返される。
辛くて心が折れそうな僕を支えてくれたのは両親の言葉でした。
先述した「石の上にも三年」もそうですし、とりわけ救いになったのは「鴨居と障子」の話です。
「何も分からないうちは我を出してはいけない。鴨居と障子がうまく組み合わさっているからスムーズに開閉できる。それが合わなくなれば、障子の枠を削る。上の鴨居を削ることはしない。鴨居とはお店のご主人で、六ちゃんは障子だ。だから修業とは我を削っていくことだよ」と。
──含蓄ある教えです。
<道場>
こういう言葉を自らに言い聞かせ、
「ここが踏ん張りどころだ。いま辞めてしまったらこれまでの努力が無駄になってしまう」「板長も何か訳があって意地悪をしているんだ。板長は鴨居、自分が変わろう」「これは神様が与えてくれた試練なのだから、逃げずにとにかく頑張ろう」と心を鼓舞し、いじめや理不尽にへこたれず毎日朝6時から夜11時まで一所懸命働きました。
すると次第に板長の態度が変わり、僕のことを認めてくれるようになったんです。
この時の経験から学んだのは、「環境は心の影」ということです。
──環境は心の影。
<道場>
自分の心のあり方が目の前の環境をつくっている。
他人や環境を直接的に変えることは難しいけれども、自分の心や物事の捉え方を変えることで、相手や周りの環境も自ずと変わっていくんです。
20代の時にそのことを経験していたからこそ、独立前の逆境を乗り越えることができたと思います。
(本記事は月刊『致知』2024年5月号 特集「倦まず弛まず」より一部を抜粋・編集したものです)
◉『致知』2024年10月号 特集「この道より我を生かす道なし この道を歩く」に道場氏がご登場◉
和食の神様・道場六三郎氏、93歳と世界のホームラン王・王貞治氏、84歳。料理と野球――それぞれの道一筋に歩み続けてきたお二人の人間学談義から「いかにして大成するか」「勝負を制する要諦」「逆境に処する心得」を学びます。
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◇小細工はしない 正々堂々と勝負する
◇見られている意識を常に持つ
◇結果ではなく過程を自らに厳しく問う
◇健康の秘訣は小さな勇気で一歩踏み出す
◇今日まで第一線で活躍し続けられている理由
◇〝世界のホームラン王〟はかくして生まれた
◇〝和食の神様〟が大切にしている原点
◇勝敗を分けるのは無心になれるか否か
◇逆境とはより高い頂に到達するための跳躍台
◇強いチームをつくるために監督として大切な心得
◇この道一筋に歩む中で掴んだ「人生で一番大事なもの」
◎道場六三郎さんは弊誌『致知』をご愛読いただいています。創刊45周年を祝しお寄せいただいた推薦コメントはこちら↓↓◎
私は92歳の現在、週に2回のゴルフと、ここ2年くらいはYouTubeで家庭料理を紹介しています。また、月替わりの献立作りもライフワークとして続けています。お客様の笑顔は、私の生き甲斐そのものだからです。
そうは言っても年齢は年齢です。最近支えの大切さを意識するようになりました。ゴルフで脚を鍛えているつもりでいても、階段では手すりを支えにし、疲れてくれば支えの壁も頼りにします。確かな支えの感触を確かめながら、こうして幾つも人様に支えられてきた道のりを思い出すとき、つくづく有難いと思うのです。時には弟子たちに頼られて自ら支えになったときもありました。
人は皆、支えによって救われます。私にとって『致知』は心の支え、人生まだ92年、幸せを生きる道途中です。
◇道場六三郎(みちば・ろくさぶろう)
昭和6年石川県生まれ。25年単身上京し、銀座の日本料理店「くろかべ」で料理人としての第一歩を踏み出す。その後、神戸「六甲花壇」、金沢「白雲楼」でそれぞれ修業を重ね、34年「赤坂常盤家」でチーフとなる。46年銀座「ろくさん亭」を開店。平成5年より放送を開始したフジテレビ『料理の鉄人』では、初代「和の鉄人」として27勝3敗1引き分けの輝かしい成績を収める。12年銀座に「懐食みちば」を開店。17年厚生労働省より卓越技能賞「現代の名工」受賞。19年旭日小綬章受章。著書に『91歳のユーチューバー 後世に伝えたい! 家庭料理と人生のコツ』(主婦と生活社)など多数。