電源コード用端子国内ナンバーワンシェアを誇る木谷電器が貫いてきた〝よりよいものづくり〟

 

大阪府枚方市に本社を構える木谷電器は本年設立60周年を迎えました。いまでは、祖業の電源コード用端子で国内シェアナンバーワンを誇る木谷電器が、創業以来貫いてきた信念とは。2001年、34歳で先代からバトンを受け継いだ木谷健一郎社長に、その足跡をお話しいただきました。

電源コード用端子で国内シェアナンバーワンに

〈木谷〉

当社は1963年の会社設立以来、国内シェア第一位を獲得した祖業の電源コード用端子、電源コード用端子の製造装置である自動圧着機、さらには太陽光発電関連機器の製造を手掛けてまいりました。日本のものづくりが衰退する中、国内製造にこだわり、高水準の技術を蓄積してきたことでお取引先の信頼を重ね、おかげさまで本年、設立60周年の節目を迎えることができました。

躍進の原動力となったのは、当社を設立した 私の父より引き継いだ「英知と創造と努力により良い製品を生み出そう」という経営理念です。厳しい経営環境や目まぐるしい社会変化の中、創業の原点ともいえるこの理念の下で果敢に業容を拡大してきた結果、現在年商約30億円、従業員数約90名、中国やラオスにも拠点を擁する中堅メーカーへと成長を果たすことができたのです。

当社の前身は、1918年に私の曽祖父が大阪で創業した船舶用ソケットの製造会社・木谷製作所です。親族として同社で働いていた私の祖父が早世したため、他家から嫁いできた祖母は随分肩身の狭い思いをしていたようです。その姿を目の当たりにしてきた私の父は、母親に楽をさせたい一心で、夜学に通いながら一所懸命に同社で働いてきた苦労人です。そして1963年、25歳の時に当社を設立したのです。 

当初は引き続き船舶用ソケットの製造を手掛けていましたが、あいにく需要が低迷。ある方からの助言をもとに、電源コード用端子の製造を主業務として手掛けるようになりました。

ひと口に電源コード用端子といっても、納入先によって求められる仕様は様々です。当社はそうしたニーズにきめ細かく対応した結果、トータルで200種類もの電源コード用端子をご提供するに至りました。さらに、端子の製造に必要な一連の工程をすべて自動で行える自動圧着機を開発したことにより、電源コード用端子においては国内シェア67割を占めるトップメーカーになったのです。

乗り越えられない試練は与えられない

〈木谷〉

私が他社勤務を経て当社に入社したのは1996年、29歳の時でした。後を継いでほしいと言われたことはありませんでしたが、日々経営に邁進する父の背中を見て、力になりたいという思いがいつしか芽生えていたのです。

父から学んだことは、とにかく何でもよいから自信をつけよということでした。自分も最初はすべてにおいて自信がなかった。しかし、何か一つでも得意なものを見つけたら、それを次に繋げていくことによって少しずつ自分の中で自信を育むことができたというのです。

当社においては、その得意なものが電源コード用端子の自動圧着機であり、そうした技術の蓄積があったからこそ太陽光発電という新しい成長分野への進出を遂げることができたといえます。

その父も、私が入社して5年後の2001年、62歳で他界しました。会社設立当初から、体調を顧みる余裕もないほどハードワークを重ねてきたことが禍し、長年持病と闘いながら経営の重責を担っていたのです。

その時私は34歳。父を失う日が確実に訪れることは覚悟していたものの、己の肩にのしかかってきた重圧は予想を遥かに超えるものでした。

後継社長として何を為すべきか──。足元の経営施策については先輩役員と共に合議制で決めていくとして、まず何をおいても自分の中に社長としての精神的な柱を打ち立てることが重要と考え、松下幸之助さんや稲盛和夫さんなどの名経営者の本を読み漁りました。

そんな時期に、お世話になっていた税理士の方からご紹介いただいたのが『致知』でした。記事の一字一句がすべて新鮮で、不安でいっぱいだった私の心を読む度に明るく照らしてくれました。

『致知』を通じて得た一番の学びは、神様はその人が乗り越えられない試練は与えないということです。それまでの自分は、経営の重責に押し潰されそうな自分を不幸者と思い込んでいました。

けれども『致知』を読むことで、自分の境遇を前向きに受け止めることができるようになったのです。

山高ければ谷深し 決して危機感を失うな

〈木谷〉

社長就任後、当社はITバブルの崩壊、リーマン・ショック、東日本大震災、コロナ禍等々、これでもかというくらいに次々と厳しい試練に見舞われてきました。しかし、その都度不思議な追い風に恵まれて窮地を脱してこられたのも、そうした学びのおかげかもしれません。

特に2008年のリーマン・ショックは、当社の新しい経営年度がスタートする前日に発生したため、赤字額は過去最大に膨れ上がりました。ところが半年経った頃、FIT(Feed In Tariff:再生可能エネルギーの普及を目的とした固定価格買取制度)がスタートしたおかげで、当社の太陽光関連事業に特需が起こり、土壇場で赤字を一気に解消することができたのです。

その後太陽光関連事業は、日本政府が発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」を追い風にさらに拡大しており、当社事業の大きな柱になっています。

私はこうした体験を踏まえ、平素からよいものづくりに真摯に取り組んでいれば、どんなピンチに陥っても必ずチャンスが巡ってくることを確信しています。同時に、仮に業績がよくても「山高ければ谷深し」と決して危機感を失うことのないよう全社を、そして自分自身を戒めています。

10年前の2013年に設立50周年の節目を迎えた時、私は次なる100周年の節目を見据えつつ、まずは翌年の51周年を無事に迎えようと社員に呼びかけました。その時から毎年掲げるようになったのが「リ・スタート」というスローガンです。社会の変化は年々スピードを増しており、きょうの正解が明日の正解であり続ける保証は決してありません。過去の成功体験に胡座を掻くことなく挑戦を続け、51周年の次は52周年、53周年と、一年一年を大切に積み上げてきた結果、冒頭に記したように本年60周年の節目を迎えることができたのです。

その一環で、部門の垣根を越えたアイデア会議を定期的に開催し、次代の核となる新しい事業の柱を模索。その一例が防災分野です。ソーラー浄水システム・SOLAMIZUは、災害時に川などの水をポンプで汲み上げ、フィルターを通して飲料用に浄水できるシステムです。ポンプや浄水の電源として太陽光を使用しているため、非常用の電源も確保できることに注目が集まり、これを受けてさらに試作・改良を重ねています。

これからも当社は、「英知と創造と努力により良い製品を生み出そう」という創業の原点のもと、よりよいものづくりを一日一日、一年一年誠実に積み重ね、道を切り開いてまいります。


(本記事は月刊『致知』2023年8月号掲載記事を一部編集したものです)

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