安倍晋三元総理が日本人に残したもの【安倍晋三×中條高徳×石原慎太郎】

傑出した指導力で日本の発展繁栄に力を尽くされた安倍晋三元総理が凶弾に倒れてから3年。その後の日本は激動する世界の中で進むべき道を見失っているように思います。安倍元総理が私たち日本人に残したものは何か――今は亡きアサヒビール名誉顧問・中條高徳さんと石原慎太郎さん共に、政治家としての信念、思いをご紹介いたします。
(本記事は月刊『致知』2011年8月号 特集「リーダーの器量」より一部抜粋・編集したものです)

悲願の憲法改正

〈安倍〉
……いずれにしてもいま石原さんがおっしゃったことこそがまさに戦後日本の精神構造なんですね。敗戦のショックと進駐軍のマインドコントロールで60年以上歩んできたわけです。

日本国憲法の制定過程はだんだん明らかになってきましたが、僅か25人に、たかだか8日でつくらせたものです。特に前文は日本人の牙を抜くための屈辱的な内容ではないですか。「われらは、平和を護持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」。自分たちの理想を語るのではなく国際社会に褒めてもらおうという、いじましい敗戦国の詫び証文となって今日に至ったわけですね。

〈中條〉
6年8か月の占領政策は巧妙を極めました。日本のよい歴史を否定し、2000年余り磨いてきた日本人の美質、とりわけ紡いできた絆というものをズタズタにしてしまったんです。占領軍の手に成った憲法を66年経って一行たりとも改正し得ないようでは、このすさまじい国際社会間を生きていくことはできないでしょう。

〈安倍〉
憲法改正の一つのチャンスは59年前に独立を果たした時に現憲法を破棄することでした。それをいま破棄するのは政治的に難しいでしょう。一歩として憲法九十六条の3分の2条項を改正する。これがいまできることです。

〈中條〉
憲法を改正するには全議員の3分の2の賛成で国会がこれを発議して、国民の承認を経なければならない、という内容ですね。

〈安倍〉
これを変えないと、国会議員は真面目に取り組まないんですね。「3分の2などどうせ無理だろう」と言って。

〈中條〉
安倍さんは憲法改正にも熱心だったが、他の総理だとどうして進まないんですか。

〈安倍〉
それはやはり本人に改正の意思があるかどうかだと思います。憲法を本気で改正しようと思えば困難は多いし、敵をつくることになる。だから自民党も最初から綱領はあっても50年間ほとんど動こうとはしませんでした。

綱領ができた当初は、屈辱を経験した人がいたんです。これは何とかしなくてはいけないと。ところが日本は経済成長第一主義に走って、憲法論議は後回しになってしまいました。

ただ、3分の2条項の改正については賛同者が集まりつつありますから、国会で発議できれば、相当のインパクトになると思います。

日本のリーダーに求められる哲学

〈安倍〉
私はリーダーには哲学が必要だと思います。今回の震災を通して日本人は家族や国、地域のコミュニティの絆の大切さを確認しました。そのベースには先祖代々日本人が守ってきた鎮守の森があった。そのことを決して軽視すべきではありませんね。ですからリーダーたる人たちはコミュニティの大切さを哲学として学ぶべきでしょう。

今回の震災に際して天皇陛下が発せられたお言葉は本当に素晴らしいものでした。私はそのコピーを毎日持ち歩いているのですが、特に「自衛隊、警察、消防、海上保安庁をはじめとする国や地方自治体の方々」と自衛隊を最初に挙げられたところに心打たれました。

先ほども申し上げましたが、自衛隊の姿は、損得だけを価値基準にしてきた戦後の日本人にとって命を懸けても守るべき家族や地域、国の大切さを示してくれたのではないでしょうか。


(本記事は月刊『致知』2011年8月号 特集「リーダーの器量」より一部抜粋・編集したものです)

◇安倍晋三(あべ・しんぞう)
昭和29年生まれ。52年成蹊大学法学部卒業。神戸製鋼所、外務大臣秘書官を経て平成5年衆議院議員初当選。森内閣や小泉内閣で内閣官房副長官を務め、15年自由民主党幹事長に就任。第三次小泉内閣の内閣官房長官を経て18年第90代内閣総理大臣に就任。翌年辞任。創生「日本」会長。著書に『美しい国へ』(文春新書)など。

◇中條高徳(なかじょう・たかのり)
昭和2年長野県生まれ。陸軍士官学校(第60期)に学ぶ。終戦後、旧制松本高校から学習院大学へ。27年アサヒビール入社。平成2年アサヒビール飲料代表取締役会長を経て、10年よりアサヒビール名誉顧問。著書に『立志の経営』『おじいちゃん戦争のことを教えて』『子々孫々に語りつぎたい日本の歴史(共著)』など。最新刊に『日本人の気概』(いずれも致知出版社)。

◇石原慎太郎(いしはら・しんたろう)
昭和7年兵庫県生まれ。31年一橋大学卒業。同年『太陽の季節』で芥川賞を当時史上最年少で受賞。43年衆議院全国区でトップ当選。50年都知事選挙に出馬するも落選。翌年国政に復帰し福田赳夫内閣で環境庁長官、竹下内閣では運輸大臣に就任。平成7年議員を辞職し、11年都知事選挙に出馬。現在4期目。著書多数。近著に『真の指導者とは』(幻冬舎新書)『再生』『生死刻々』(ともに文藝春秋)など。

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