努力と根性は最高の言葉——日本プロ野球界の名将・工藤公康さんの強さの原点

現役時代はピッチャーとして224もの勝星を重ね、11度の日本一に貢献。さらに監督としても7年間でチームを5度日本一へと導いた球界の雄・工藤公康さん。工藤さんの選手、そして指導者としての強さを養ったものは何か――原点となるエピソードをご紹介します。対談のお相手は、手術成功率98・7%を誇る小児心臓外科医の高橋幸宏さんです。

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努力と根性は裏切らない

〈高橋〉
プロになることを意識されたのはいつ頃ですか。

〈工藤〉
最初はプロを目指してはいなかったんですよ。

小学校の作文では「プロ野球選手になりたい」と書いていたんですけど、高校で夢と現実とのギャップに気づいて、就職して社会人野球でプレーできればと考えていました。ところが西武ライオンズ(現・埼玉西武ライオンズ)から熱心に説得されて結局入団を決意したんです。

しかし最初はかなり落ち込みましたね。あぁ何でこんな大変なところに入ってしまったんだろうと。

僕と一つか二つしか違わない先輩でも、比べものにならないくらいに足が速く、球が速く、変化球も鋭い。僕が必死で走っている横で、笑いながら走っているし、打てば僕のイメージを遥かに超える打球をかっ飛ばす。衝撃でした。

〈高橋〉
そこからどのようにして頭角を現されたのですか。

〈工藤〉
入団3年目に、アメリカのマイナー・リーグへ留学させていただいたことが転機になりました。

当時監督だった広岡達朗さんは、練習中は大体一軍選手のバッティング練習を厳しい目で見ていらっしゃいましてね。僕が「これからアメリカへ行ってきます」と挨拶に行っても無言のまま。仕方なく引き下がろうとしたら、「おまえは俺の期待を裏切ったんだ。アメリカでしっかり修業してこい」と。

〈高橋〉
アメリカのマイナー・リーグはいかがでしたか。

〈工藤〉
僕のように高卒でプロに入った場合、日本ではすぐに芽が出なくても5年くらいは面倒を見てもらえるんですが、アメリカはすごく厳しくて、1週間とか10日でクビになるんです。

「ハンバーガー・リーグ」とも言われているんですけど、選手たちの収入は少なく、粗末な食事に耐え、使い古したグローブを使って死に物狂いで頑張っている。マイナーは上から3A、2A、1Aに分かれていて、普通一番下の1Aでクビになったらやめるだろうと思っていたんですけど、どの選手も「俺はこんなところで終わる人間じゃない」と、自分の可能性を全く疑うことなく挑戦を続けているんです。

彼らの姿を見ていて、自分の甘さを大いに反省しましてね。日本に帰って必死で練習し始めたんです。周りがサボろうが、遊びに行こうがそっちのけで、ひたすら練習を続けたら、3か月で10キロも速い球を投げられるようになったんです。そこから自分を変えていくことができたと思っています。

〈高橋〉
帰国後の練習では、どんな工夫をなさったのですか。

〈工藤〉
ただ与えられた練習をこなすのではなく、自ら工夫した練習が必要だと考えました。アメリカで特に実感したのは、パワーの違いでした。そこで向こうの選手に負けない体をつくるため、ひたすらウエイトトレーニングを行いました。

全身のトレーニングをした後も、一キロのダンベルを持ってピッチングのように振り続ける。疲れて倒れるまでやりましたね。その頃結婚した妻も、料理に工夫を凝こらして僕の健康を一所懸命支えてくれました。

こうした経験を通じて実感するのは、自分の限界を超えていくには、努力と根性以外にはないということです。もうダメだと思ったところからさらに一歩踏み出すことで成長できる。

努力と根性というといまは敬遠されがちですが、何がいけないのか僕には分かりません。「俺は誰よりも努力した」と思えるくらい練習に耐え抜いてこそ、マウンドの上で自信を持って投げられます。こういう姿勢に欠ける選手は、どんなに素質があってもプロでやっていくのは難しいでしょう。努力と根性は最高の言葉だと僕は思います。


(本記事は月刊『致知』2022年9月号 特集「実行するは我にあり」から一部抜粋・編集したものです)

◉本対談では、

 「若手を自分より早く成長させるのが上司の役目」
 「ひたすら繰り返すことの大切さ」
 「努力と根性は最高の言葉」
 「頭で考える前に体が動くようになれ」
 「優勝するチームはどこが違うのか」

など、自らの実力を磨き高めるヒント、指導者として組織や人材を伸ばしていく要諦が満載です。いま求められるのは、人間力――9ページにわたる白熱の対談をぜひご覧ください。詳細・ご購読はこちら【全文は致知電子版でもお読みいただけます】

~王貞治さんに『致知』へコメントを頂戴しました~

『致知』を愛読して10年以上になる。本当に世の中に必要な月刊誌だと思う。私は選手時代から監督時代まで、勝つためのよりベストな方法を常に考え続けてきたが、『致知』を読み続ける中で自分を高めること、人の生き方に学ぶことがいかに大切かを教えられてきた。他人を慮ることが難しくなったいまの時代だからこそ、人間学のエキスとも言える『致知』をもっと多くの人たちに読んでいただきたい。


◇高橋幸宏(たかはし・ゆきひろ
昭和31年宮崎県生まれ。56年熊本大学医学部卒業後、心臓外科の世界的権威と呼ばれた榊原仟氏が設立した榊原記念病院への入職を希望するも、新米はいらないと断られ、熊本の赤十字病院で2年間初期研修。58年榊原記念病院に研修医として採用。年間約300例もの心臓血管手術を行い、35年間で7000人以上の子供たちの命を救ってきた。手術成功率は実に987%を誇る。平成15年心臓血管外科主任部長、18年副院長就任。医学博士。著書に『7000人の子の命を救った心臓外科医が教える仕事の流儀』(致知出版社)。

◇工藤公康(くどう・きみやす
昭和38年愛知県生まれ。名古屋電気高等学校(現・愛知工業大学名電高等学校)卒業。56年ドラフト6位で西武ライオンズ(現・埼玉西武ライオンズ)に入団し、エースとして活躍。その後、福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)、埼玉西武ライオンズを経て、平成23年現役引退。24年から3年間、野球解説者・野球評論家として活動し、26年には筑波大学大学院に入学。27年福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。令和3年退任。現在は野球解説者として活動。著書に『折れない心を支える言葉』(幻冬舎文庫)『55歳の自己改革』(講談社)など。

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