【追悼】「終身の計は人を樹うるに如くは莫し」——ウシオ電機創業者・牛尾治朗氏のメッセージ

ウシオ電機創業者の牛尾治朗さんが、2023年6月13日にお亡くなりになりました。92歳でした。牛尾さんは対談やインタビュー、連載「巻頭の言葉」の執筆等、30年以上にわたって弊誌『致知』を応援してくださいました。牛尾さんへの感謝の思いを込めて、ご生前最後となった弊誌への寄稿文をご紹介いたします。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
(本記事は月刊『致知』2020年1月号「巻頭の言葉」の一部抜粋・編集したものです)

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忘れ得ぬ人忘れ得ぬ言葉

早いもので、『致知』とのお付き合いももう30年以上になります。

昭和59年、祖父の代からご縁を賜っていた安岡正篤先生の追悼号で原稿の依頼を受けたのを機縁に、しばしばインタビューや対談の機会をいただくようになり、平成10年からはこの「巻頭の言葉」欄への寄稿も始めました。おかげさまで、読者の皆様から毎回多数の賛同や励ましの言葉をいただき、連載は思いがけず21年の長きに及んでいます。

仕事で地方へ赴く度に感激するのは、熱心な読者からしばしば声を掛けられることです。誌面に名を連ねる私に、同志のような親近感を覚えてくださっているようなのです。

『致知』の影響力の大きさを実感すると共に、私自身もいつしか『致知』に自分の身内のような親しみを覚えるようになりました。

『致知』との縁がここまで深まったのは、人間学という唯一無二のテーマを中心に据え、日本人の尊い美質に光を当てる一貫した編集方針に深い共感を覚えるからです。加えて、私と縁のある先輩方も多数登場し、そこで語られる箴言に貴重な示唆を与えられてきた実感があるからです。

『致知』では、私と同様に安岡先生のもとで学んでおられた住友生命元会長の新井正明さん、野村證券元会長の田淵節也さんとそれぞれ対談の機会を得、また東京電力元会長の平岩外四さんには登場される誌面を通じて大きな刺激をいただきました。

新井さんは、先の戦争で隻脚となりますが、そのハンディを逆手に人物を磨き、経営再建に見事な辣腕を振るわれました。田淵さんとは経済同友会で共に汗を流した間柄で、証券業界には珍しい深みのある人間性が印象的でした。平岩さんとは毎年数回お目にかかり、時局や注目する人物について論じ合うのが楽しみでした。

平岩さんの執務室には、安岡先生の揮毫された「四耐四不訣」の書が掲げてありました。

「冷に耐え、苦に耐え、煩に耐え、閑に耐え、激せず、躁がず、競わず、随わず、もって大事を成すべし」

これは中国清代の政治家・曾国藩の言葉です。平岩さんは、安岡先生から贈られたこの箴言を心の支えに、数々の経営の難題に処してこられました。その威厳に満ちた風貌と、謙虚で誠実なお人柄は、「四耐四不訣」の書と共にいまも深く印象に残っています。

人物を見出し育てることの大切さ

かつてはお三方のように、安岡先生の感化を受けた優れたリーダーが多数存在し、我が国の繁栄に重要な役割を果たされていました。私自身も安岡先生をはじめ、多くの先輩方の感化を受け、育てられてきたという実感があります。

この頃は、一昔前までのような風格ある人物が少なくなったという声をよく耳にします。しかし、いつの時代にも優れた人物は必ず出てくるものであり、見どころのある人を見出し、育てていくことが上の世代の重要な役割だと私は考えます。

『管子』には、

 一年の計は穀を樹うるに如くは莫く、
 十年の計は木を樹うるに如くは莫く、
 終身の計は人を樹うるに如くは莫し

と説かれています。人を育てることの大切さを説いた名言ですが、私自身も半世紀以上にわたる経営人生を通じて、とりわけ人を育てることの尊さは深く実感してきました。ゆえに自分が様々な公職を歴任するようになってからは、世代の異なる若い方々と積極的に交わることを心掛けました。見どころのある方には、その天分を社会のために発揮していただけるよう助力してきたのです。

『致知』のもとにも、志の高い方が多数集まっています。安岡先生のもとから多くの優れたリーダーが育ったように、この『致知』からも次代を担う優れた人物が次々と育ち、日本の将来を牽引していかれることを、私は心から願っています。


(本記事は月刊『致知』2020年1月号「巻頭の言葉」の一部抜粋・編集したものです)

◎牛尾治朗氏と『致知』◎

 道元禅師に「霧の中を行けば、覚えざるに衣しめる」という言葉がある。見識のある志高い人に接すると、自ずと自分の志も高くなるという教えである。
『致知』はこの言葉のように、自分を高める様々な学びと縁をもたらしてくれる。一つの雑誌が40年もの歴史を刻むことは希有なことであるが、『致知』にはここで立ち止まることなくさらに前進を続けてほしい。
私も次の50周年まで現役を貫き、この雑誌と共に学び続けていきたいという心意気である。


◇牛尾治朗(うしお・じろう)
昭和6年兵庫県生まれ。28年東京大学法学部卒業、東京銀行入行。31年カリフォルニア大学政治学大学院留学。39年ウシオ電機設立、社長に就任。54年会長。平成7年経済同友会代表幹事。12年DDI(現・KDDI)会長。13年内閣府経済財政諮問会議議員。著書に『わが人生に刻む30の言葉』『わが経営に刻む言葉』『人生と経営のヒント』(いずれも致知出版社)がある。

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