「怒れる人間」が会社の存亡を決める!? ダイソー創業者・矢野博丈が語る経営の要諦

100円ショップの先駆けであり、業界トップの規模を誇る「ザ・ダイソー」の創業者・矢野博丈さんと、福岡ダイエーホークスの経営によって球団を取り巻く街全体を大きく変えた故・髙塚猛さん。消費者の新しいニーズを的確に捉え、成功を収めてきたお二人に、激動の21世紀を生き抜くための経営者の要諦を語り合っていただきました。※記事の内容は掲載当時のものです

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怒れる人間がどれだけいるか

〈髙塚〉
先ほど、私が100円ショップでついついまとめ買いをしてしまうと言いましたが、お客さんは、1つの商品でもちょっとした違いがあると手に取るから、やっぱりいろんなものを揃えておかないといけないんでしょうね。

〈矢野〉
お客様は、選びたいんですよ。これはイトーヨーカ堂の鈴木敏文会長がよくおっしゃるんですが、昔はワイシャツも大・中・小しかなかったじゃないかと。

つまり、昔は売る側の立場が強くて一億一色だったのが、次第に買う側の立場が強くなって十人一色になり、一人一色になった。いまでは一人百色です。これはまさに時代変革です。これまでの否定をしなければならなくなったということです。

鈴木会長なんか、セブン-イレブンの商品を1年で7割も変えるそうです。7割変えるということは、2年もしたらもういまのセブン-イレブンじゃなくなるわけです。あれだけ売れているのに変えていくんです。

〈髙塚〉
ほう。

〈矢野〉
これまでは、必勝の方程式を1つ作って、それをあっちにもこっちにもはめ込んでいった。ですけど、21世紀は逆に、過去の成功例を否定していかないといけないんです。

そのためには、会社にどれだけ怒れる人間がいるか。これが生きるか死ぬかの分かれ道になると思うんです。

〈髙塚〉
怒れる人間ですか。

〈矢野〉
ええ。いいものを作ろうという情熱を持った人間とも言えますね。

先日そういう話を、流通評論家の緒方知行先生としていたら、緒方先生は鈴木会長と面会された時のエピソードを明かしてくださいましてね。

2人で話している最中に、鈴木会長は何を思ったのか突然セブン-イレブンのパンのバイヤーを呼ばれて、「おい、このカレーパン、美味しくもなんともないじゃないか!」と怒られたそうです。

バイヤーが、「お言葉を返すようですが、あのカレーパンは大変よく売れています」と答えたら、

「バカヤロー! 美味しくもないものが売れるなんてとんでもない話だ。すぐ全店にファックスして全部破棄しろ!」

と激怒されたんだそうです。

その時のカレーパンというのは、パンがカレーの水気でひっついて平たくなっていました。私はカレーパンというのはそういうものだと思っていたんですが、それから2か月半くらい経ってお店に行ってみると、新しいカレーパンが店頭に並んでいましてね。

「具が大きくなってグンとおいしくなりました」というシールが貼ってあったんです。見ると真ん中が膨らんでいて、それまでとは比べものにならないくらいおいしい。

しばらくしたら他のスーパーも膨らんだカレーパンを出すようになって、もう以前売っていたような平たいカレーパンはほとんど見かけなくなりました。

鈴木会長が怒ったことで、日本中のカレーパンが変わったんです。

〈髙塚〉
それはすごい話ですね。

〈矢野〉
もしあの時、鈴木会長が「売れているならいいわ。だが、もっと美味しいものを作っておけ」とおっしゃっていたら、絶対にカレーパンは変わらなかったでしょうね。

いまは肯定論じゃダメです。否定力が必要なんです。


(本記事は月刊『致知』2004年4月号 特集「修養する」より一部を抜粋したものです)

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◇矢野博丈(やの・ひろたけ)
昭和18年広島県生まれ。41年中央大学卒業。学生結婚した妻の実家のハマチ養殖業を継いだが、3年で倒産。その後9回転職を重ね、47年矢野商店創業。52年大創産業設立。62年より「100円SHOPダイソー」の展開に着手。平成11年に年商1000億円達成後、現在は年商3000億円を突破。年間優秀企業家賞。

◇髙塚猛(こうつか・たけし)
昭和22年東京都生まれ。都立一橋高等学校卒業後、43年日本リクルートセンター(現・リクルート)入社。週刊就職情報誌の創刊や月刊住宅情報事業責任者として実績を挙げる。52年倒産寸前の盛岡グランドホテルの総支配人として赴任し、わずか1年で黒字転換。平成3年㈱岩手観光ホテル代表取締役就任。11年には福岡ドーム、福岡ダイエーホークスの代表取締役に就任。

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