「朝の読書」はこうして始まった——大塚笑子さんが語る「読書の力」

2018年時点で「朝の読書」を導入している小・中・高校は全国で27000校にのぼるといいます。そのスタートは1988年に始まった千葉県のある私立女子高校での小さな取り組みからでした。教師として「朝の読書」を推進し、朝の読書推進協議会理事長を務める大塚さんは、どのような思いでこの活動に取り組んでこられたのでしょうか。(本記事は『致知』2018年10月号 特集「人生の法則」より一部抜粋したものです

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「朝の読書」を支える4つのシンプルな原則

現在(2018年)、「朝の読書」を導入している小・中・高校は全国で27,000校にも上るそうです。そしてこの活動に繋がる取り組みをしていたのが、当時体育教師だった大塚笑子さんでした。

「ある時、私は2年生の生徒たちに将来の進路を考えさせる目的で履歴書を書かせてみました。ところが、見てみると名前と住所しか書いていない。クラブ活動も資格・検定も趣味も何もなし(笑)。

これは何とかしなくてはいけない、せめて読書くらいは身につけさせようと思って、読書に力を入れるようになりました。手始めに『走れメロス』や『蜘蛛の糸』などを読んであげると、大変喜びましてね。そこで私は私費で小説や伝記などいろいろな本を150~160冊ほど取り揃えて教室の書棚に並べ、読書指導をするようになりました。

当時、学校では週1回のロング・ホームルームというものがあって、この時間は何をやろうと自由でした。そこで読み聞かせや黙読をしたところ、驚くことに生徒たちの成績がグングン伸びていったんです」

もっとも、大塚さんの取り組みが学校で取り入れられるまでには紆余曲折があったようですが、実際に「朝の読書」が始まると、学校は大きく変わったと言います。

「私たちが最初に驚いたのは遅刻者が大幅に減ったことでした。それまで1日に50人、100人の遅刻者がザラだったのが、姿を消したんです。その理由の1つは、この 『朝の読書』が無理なく生徒たちに受け入れられたためだと思います。朝の読書はとてもシンプルな読書なんです。

4つの原則があって、

一、毎日やる

二、皆でやる

三、好きな本でよい

四、ただ読むだけ

と、たったこれだけのことです。しかし、その効果は大きく、生徒に集中力がつく、自信と思いやりの気持ちが芽生える、教師や生徒、両親の間の会話が増えるなど劇的ともいえる変化が見られるようになりました。私は週1回のロング・ホームルームでの読書で生徒たちの成績を上げてきましたが、『朝の読書』にはそれとはまた違った効果があることを実感したんです」

「本は苦しい時にこそ読むものだ」

こうした成果をもとにして、「朝の読書」は全国へと広まっていくわけですが、そこには大塚さんの読書に対する原体験が大きな力になっていました。

「私は子供の頃から陸上が得意で、中学生の時には三種競技で全国4位になりました。将来のオリンピック候補とテレビでもチヤホヤと持ち上げられていたんです。ところが、高校時代、練習で股関節を外す怪我をしてからというもの、鳴かず飛ばずの状態になってしまいました。期待されていただけに落ち込みも激しく、死にたいな、生きているのが辛いなとそればかりを考えて生きる毎日でした。実際、胃潰瘍で3か月入院したこともあります。 

そういう時、兄が病院に見舞いに来て、宮澤賢治の詩集と石川啄木の歌集を置いていってくれました。賢治が死にゆく妹の姿を綴った『永訣の朝』の詩と、啄木の『死ぬことを持薬をのむがごとくにも我はおもへり心いためば』の歌に触れた時、それまで死にたいと思っていた私が、『世の中にはもっと大変な人がいる』と気づかされたんです。窮地から這い上がることができたのは、そこからですね」

自らも読書で人生が変わったと語られている大塚さん。お兄さんからの「本は暇な時に読むものではない。苦しい時にこそ読むんだ。自分で自分を高めなくて誰が高めてくれる」という言葉も、深く心にとどめてこられたそうです。

「私が好んで読んできたのは、山岡荘八や山本周五郎、杉本苑子の歴史小説でした。徳川家康などの主人公の生き方もそうですが、その当時、必死で生きてきた女性たちに思いを馳せ、『この人たちにできて私にできないはずがない』と自身を奮い立たせてきたんです。人生というのは何が起きても自分で立ち上がるしかありません。本は私にその力を与えてくれました」


◇大塚 笑子(おおつか・えみこ)
昭和21年岩手県生まれ。東京女子体育大学卒業後、千葉県の私立高校の体育教師となる。学級活動で取り組んできた読書活動を63年以降、「朝の読書」として全国的に推進。退職後の現在は朝の読書推進協議会理事長として啓発活動に尽力している。

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