人間は一人では生きられない——余命3日と宣告された闘病生活(音無美紀子×安奈淳)

宝塚歌劇団のトップスターとして活躍後、演劇や歌を中心に様々なステージに立ちながらも膠原病をはじめ幾多の難病に打ち克ってきた安奈 淳さん(左)。女優として数々のテレビドラマや映画に出演する傍ら、子育て中に突然見つかった乳がん、そしてその後発症したうつ病を乗り越えた音無美紀子さん(右)。「病をしたからいまがある」と当時を笑顔で振り返るお二人の話には、病に限らず、逆境や試練に直面した際の心の持ち方のヒントが詰まっています。

様々な病との闘い

〈音無〉 

私たちは共に病気やそれに伴ううつ病を経験しているけど、美樹ちゃんの場合は幾つもの病気を患っていますよね。

〈安奈〉 

30代でC型肝炎や髄膜炎、40代で指先が真っ白になるレイノー症状、手首や指が腫はれる全身関節痛に悩まされて、一番大変だったのが50代の時の全身性エリテマトーデスと呼ばれる膠原病の一種の難病です。この話をし出したら3日くらいかかるけど(笑)、でもさっきも言ったように人間って嫌なことを忘れる優れた才能を持った生き物なんですね。ものすごく大変でしたけど、半分くらいは忘れていて、一番辛かった時の記憶は断片的にしかありません。

とにかく周りに迷惑をかけられないから休んじゃいけないと思って、不調を我慢して我慢しているうちに病が進行し、2000年、53歳で緊急搬送された時は、心臓や肺など体中に水が溜まって、あと1時間遅かったら呼吸ができず確実に死んでいたと言われるほどでした。

いま考えたらバカだなと思うんだけど、体中が浮腫んで、足は象の足のように膨れ上がって靴が入らないのに、普通の衣装は着られないから着物と草履ぞうりでごまかしながら舞台に立ち続けていました。

〈音無〉 

私それすごくよく覚えてる。ディナーショーか何かに出演していた美樹ちゃんをエレベーターの前で待っていたら、美樹ちゃんが「靴が履けないのよ~」なんて言いながら現れて、ソファーに持ち上げた足を見て、「えっ、こんなに腫れるの?」と驚いたんです。

〈安奈〉 

そんなことがあったことももう忘れちゃってる。何しろ電柱みたいな足をしてたし顔も浮腫んで目も開けられなかったから。

緊急搬送されて、10日間かけて体中にたまった水を徐々に抜いたら、それまで60キロあった体重が38キロになっていました。

〈音無〉 

それだけ体の中に水が。

〈安奈〉 

もう溺れてアップアップしている感覚。何度も危篤状態になって、「余命は3日」「お葬式の用意をしてください」とまで言われていたようです。

全身性エリテマトーデスと診断されても、いまでも原因不明の難病なので、的確な治療法が確立されておらず、まな板の上の鯉のように先生方にされるがままでした。

〈音無〉 

闘病はどのくらい続いたの。

〈安奈〉 

2か月入退院を繰り返して、仕事復帰ができたのは1年半後。でもその間に薬の副作用でうつ状態になって、自殺未遂を3回しているんです。10日くらい眠れなくて睡眠導入剤を飲むんだけど、もうずっと悪い夢というか、頭の中に数字や文字がガーっと24時間渦巻いている状態。「1+1」も数えられなくなって、お礼状を書こうとは思うんだけど、言葉が出てこない。死ななくちゃと思ってベランダに行っても、フェンスをどう乗り越えればいいのか分からない。そんな思考回路がズタズタな状態が1年くらい続きました。

麻雀が好きで、お友達がお見舞いに来て皆で一緒に麻雀をしてくれるんですね。ああ、嬉しいと思いながらも、どうやって遊ぶゲームなのか忘れている。でもそれを悟られちゃいけない、気づかれたら私は死ぬしかないんだという恐怖感を常に抱いていました。後から聞けば、皆私がそういう状態だったことを知った上で接してくれていたそうです。そういう人たちに支えられて、何とか生き延びることができました。やっぱり人間って一人では生きられないんだね。


★(本記事は月刊『致知』2023年3月号「一心万変に応ず」一部抜粋・編集したものです)

◎音無美紀子さんと安奈淳さんの対談には、

・宝塚のトップスターが誕生するまで

・女優としての出世作にして、人生の出発点になった作品

・子供の難病に乳がん、そしてうつ病の発症

・自分で治りたいと思わない限り、心の病は治らない

・生きていることは、当たり前じゃない

など、人生の山坂を越えていく中で掴んだ、よりよく生きるための法則を語り合っていただいています。本記事の詳細・ご購読はこちら「致知電子版」でも全文をお読みいただけます】

 

◇音無美紀子(おとなし・みきこ)

昭和24年東京都生まれ。41年劇団若草に入団し、4217歳の時に『でっかい青春』でドラマデビュー。46TBSテレビ小説『お登勢』の主演で一躍脚光を浴び、数々の映画、TVドラマ、舞台、CMで活躍。62年乳がんを患い左乳房を全摘出。その後、うつ病にも苦しむが家族の支えによって立ち直る。著書に『がんもうつも、ありがとう! と言える生き方』(青春出版社)など。

◇安奈淳(あんな・じゅん)

昭和22年大阪府生まれ。本名は富岡美樹。40年宝塚歌劇団に入団し、星組・花組の男役トップスターに。50年『ベルサイユのばら』のオスカル役を演じ、第1期ベルばらブームを築く。5330歳で退団後、持ち前の演技力と歌唱力を活かし舞台などで活躍。平成12年に膠原病となり生死の境を彷徨い、長い闘病期間を経て奇跡的に復帰。著書に『70過ぎたら生き方もファッションもシンプルなほど輝けると知った』(主婦の友社)など。

◎各界一流の方々の珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数NO.1(約11万8000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。

たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら
購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 10,500円(1冊あたり875円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 28,500円(1冊あたり792円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる