〈井村雅代×宇津木麗華〉まずは言葉で主張する。頂点に輝く選手とチームの共通項

ハンガリー・ブダペストで開催された2022年世界水泳選手権。日本のアーティスティックスイミング界を牽引し、昨夏の東京オリンピックで勇退した名将・井村雅代さん〈写真左〉が指導するエース乾友紀子選手が見事、日本勢初の優勝を掴み取りました。世界を舞台に活躍する日本選手の姿は勇気を与えてくれます。井村さんを尊敬し、東京オリンピックで世界一に輝いた女子ソフトボール日本代表の監督を務めた宇津木麗華さん〈写真右〉と井村さんの白熱した対談をお届けします。(本記事は月刊『致知』2022年4月号 特集「山上 山また山」より一部を抜粋・編集したものです)

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

乾友紀子選手も持つ強さの原点

〈宇津木〉
何かあった時、嫌だなと思ったら顔に出してとも伝えています。上野(由岐子)なんかは結構あるんですけど、言葉にならなくても「えっ」と態度で出してくれたら、私がちゃんと気づいて変えるようにしています。

〈井村〉
それはすごく大事ですね。日本人って変に我慢するでしょう? 納得していないのに何も言わずに黙って従う。

私は中国代表コーチとして戦っていた時、中国の選手たちがすごく大好きだったんです。なぜかといえば彼女たちは嫌なことは嫌とはっきりと主張するから。練習方法で意見が分かれた時には、彼女たちの主張と私の方法を両方試して、私のほうがいいと納得すると、その後はぐちぐち言わずに従いますよ。

〈宇津木〉
顔に出したり、意見を述べてくれれば、解決しますから。

〈井村〉
そう。一緒に考えられる。

私はいま、日本の絶対的エース・乾友紀子のソロのコーチを担当していますが、彼女も言葉に出してきちんと主張ができますね。

〈宇津木〉
私が2016年に全日本の監督に再就任した後、最初に行ったのも選手たちに発言させることでした。

ミーティングで私が話した後、「何かある?」と聞いても誰も何も言わない。皆喋れないんですね。そこで毎回テーマを決めて、自分の意見を2~5分で述べてもらう訓練をしていました。

その結果、東京オリンピック直前の合宿では私が質問した瞬間に皆が手を挙げるようになりました。「何のため、誰のためにソフトボールをやるのか」といった深いテーマについて共に語り合ったことで、お互いの気持ちがより一つになっていったと思います。

〈井村〉
私もこのコロナ禍で、ミーティングの重要性を感じました。新型コロナウイルスという前代未聞の危機が訪れ、誰も正解の分からない状況に陥りました。

その時に、選手たちの声を、不安を徹底的に聞いてあげ、そのマイナスな気持ちを取り除くことが私の役割だと思っていました。

最後は指導者が責任を負う

〈宇津木〉
選手の声を拾い上げることは骨が折れますが、本当に大事なことですよね。

私は練習への参加も選手の主体性に任せています。選手が練習に行きたくないと感じたら、自己責任で休ませることもあります。調子が悪いのに練習に来てズルズルと長引かせるより、一日しっかり休んで次の日から元気に練習できるほうが何倍もいい。

〈井村〉
麗華さん、全くその通りです。オフの日が何のためにあるのかといえば、前日よりも心身共にリフレッシュして、やる気に満ち溢れた状態で再び練習に臨むためです。

日本人は往々にして休んだら駄目になると思い込んで、休みの日にやらなくてもいい練習をするんです。そして疲れた体のままで練習に現れる。一人時間の練習はもちろん大切ですけど、自分の体力をきちんと把握した上でのオンとオフの使い分けが重要です。

でも、麗華さんのように選手の意見を聞き入れられるチームは稀ですよ。選手に意見を言わせず、上から指示するだけというのが日本のスポーツチームの現実です。

麗華さんが選手の意見を聞き入れられるのは、しっかり自分の指導に自信を持っているからです。

(宇津木)妙子さんもそうでしたし、私も自分ですべて責任を取るタイプですので、私たちは似た者同士で特殊な女性です(笑)。きょうここで共感し合っていることは、きっと世の中の一般認識とは異なっていると思います(笑)。


◎井村さんも、弊誌『致知』をご愛読いただいています。創刊46周年を祝しお寄せいただいた推薦コメントはこちら↓↓◎

会いたい人に会える本、あの人はどのような考えをされたのだろうと頭をよぎった時にその人の考えに触れられる本、人生で行き詰まった時に次への行動のヒントを感じ取ることができる本、静かに脈々と日本のロングセラーになっている本、それが『致知』である。

 

◉『致知』2022年4月号には、井村雅代さんと宇津木麗華さん(女子ソフトボール日本代表監督)の貴重な対談を掲載。東京オリンピック秘話、世界一を掴み取る指導者論、強い選手を育てる秘訣など、学びが満載です。詳細はこちら

『致知』2022年4月号|対談「世界の頂点への道のり」井村雅代×宇津木麗華

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。

◇井村雅代(いむら・まさよ)
昭和25年大阪府生まれ。中学時代よりシンクロナイズドスイミング(現・アーティスティックスイミング)を始める。選手時代は日本選手権で2度優勝し、ミュンヘン五輪の公開演技に出場。天理大学卒業後、大阪市内で教諭を務める傍ら、シンクロの指導にも従事。53年日本代表コーチに就任。平成18年より中国、イギリスの指導を経て、26年日本代表ヘッドコーチに復帰。28年リオ五輪ではデュエット、団体とも銅メダルを獲得。令和3年の東京五輪では4位入賞。五輪でのメダル獲得数は通算16個。著書に『井村雅代コーチの結果を出す力』(PHP研究所)など。

◇宇津木麗華(うつぎ・れいか)
中国名・任彦麗(ニン・エンリ)。昭和38年中国北京生まれ。女子ソフトボール中国代表チームでキャプテンを務めるも、18歳から宇津木妙子氏と交流を続けてきたことから、63年25歳の時に来日し、日立高崎入団。平成6年日本に帰化、宇津木麗華に改名。8年アトランタ五輪代表チーム入りするが、帰化問題から出場を取り消される。12年シドニー五輪では主砲として活躍し、銀メダル獲得に貢献。14年から監督を兼任。20年の北京五輪で悲願の金メダルを獲得。24年、26年の世界選手権で連覇。令和3年の東京五輪で金メダル獲得。

1年間(全12冊)

定価14,400円

11,500

(税込/送料無料)

1冊あたり
約958円

(税込/送料無料)

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

人気ランキング

  1. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】ふるさと納税受入額で5度の日本一! 宮崎県都城市市長・池田宜永が語った「組織を発展させる秘訣」

  2. 人生

    大谷翔平、菊池雄星を育てた花巻東高校・佐々木洋監督が語った「何をやってもツイてる人、空回りする人の4つの差」

  3. 【WEB chichi限定記事】

    【編集長取材手記】不思議と運命が好転する「一流の人が実践しているちょっとした心の習慣」——増田明美×浅見帆帆子

  4. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】持って生まれた運命を変えるには!? 稀代の観相家・水野南北が説く〝陰徳〟のすすめ

  5. 子育て・教育

    赤ちゃんは母親を選んで生まれてくる ——「胎内記憶」が私たちに示すもの

  6. 仕事

    リアル“下町ロケット”! 植松電機社長・植松 努の宇宙への挑戦

  7. 注目の一冊

    なぜ若者たちは笑顔で飛び立っていったのか——ある特攻隊員の最期の言葉

  8. 人生

    卵を投げつけられた王貞治が放った驚きのひと言——福岡ソフトバンクホークス監督・小久保裕紀が振り返る

  9. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】勝利の秘訣は日常にあり——世界チャンピオンが苦節を経て掴んだ勝負哲学〈登坂絵莉〉

  10. 仕事

    「勝負の神は細部に宿る」日本サッカー界を牽引してきた岡田武史監督の勝負哲学

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

閉じる