堅忍不抜の精神で適正価格へ挑戦——もやし栽培業を営む飯塚商店社長・飯塚雅俊

埼玉県深谷市で60年にわたってもやし栽培業を営む飯塚商店。社長の飯塚雅俊さんは大量生産・流通されるようになった1袋数十円のもやしにより、倒産寸前に追い込まれましたが、その苦境にも屈せず、〝細長くて根の張った〟本来のもやし栽培を一貫してきました。艱難辛苦を乗り越えた足跡とその中で掴んだ仕事・人生の要諦をお話しいただきました。

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手作業でもやし本来の旨みを引き出す

〈飯塚〉
万事休す。様々な策を講ずるも自己資本が底を尽き、いよいよ倒産も免れない状況に陥ったのは2008年のことでした。

もやし専門の生産者として父が埼玉で創業して半世紀。高度経済成長期の流れでもやし産業の機械化・合理化が進む中でも、すべて手作業でもやし本来の旨みを引き出す生産を貫き通していたことが時代遅れになったのでしょう。価格、見た目重視で1袋数十円で販売されるもやしには、敵いませんでした……。

もやしは特殊な野菜で、太陽光や肥料を必要とせず水と豆本来の生命力だけで成長します。また、生産量を管理しやすい上に、ビタミン、食物繊維など栄養が豊富です。戦後に生産が急増し、1990年頃から発芽を促すホルモン剤を使用するなど効率が求められ、〝太くて短い〟いま一般的に販売されるもやしが市場を占めるようになりました。

ですから、私が生産している〝細長くて根の張った〟本来のもやしを知っている人は少なくなりました。当社では栄養豊富な地下水を使用し、もやしの傷みを最小限にするため、収穫、洗浄、袋詰めまですべて手作業で行います。価格は一般の10倍の200円。それでも真っ白に光り輝くもやしを食べた方から「旨みが全く違う」「普通のもやしに戻れない」と感動の声が寄せられますし、製作工程をご覧になった方々からは「200円でも安すぎる」と言われます。

この生産方法は、創業者である父の時代から変わらぬ伝統です。生産者の都合ではなく、もやしの都合に合わせて栽培をする。いわば赤ん坊を育てるのと同じで、もやしの状態を常に観察しながら、水やりや温度調節などをしていくのです。深夜1時頃から起床し水やりをするのは当たり前。豆の発芽から出荷までは約一週間ですが、その間1日でも放っておけば駄目になります。両親は休みなく働き通し、私は幼い頃から家族旅行に出掛けた記憶がありません。中学の頃から手伝い始め、高校卒業と同時に家業に入りました。

ところが、先述のように消費者受けのよい太いもやしの台頭により、窮地に追いやられていくのです。1998年に最大の卸先であったスーパーから取り引きを断られ、その後1社、また1社と次々に取引先が去っていきました。

悪いことは重なるもので、その3年後には体を酷使してきた父が脳梗塞で倒れます。私が社長を継ぎ、初めて帳簿を見た時に言葉を失いました。工場の設備投資や機械の借り入れなどによる借金の累計が1億円もあったのです。当時の業績からして、その金額は途方もない数字でした。

自分が正しいと信じる道をとことん貫き通す

〈飯塚〉
希望の光を見出せないまま販売量が最盛期の5分の1にまで激減するも、市場の流れに迎合するつもりは一切ありませんでした。自分たちがつくる、おいしく栄養価の高いもやしに対する絶対的な自信があったのです。

転機になったのが、倒産が頭を過ぎり始めた2008年、地元の農産物直売所で初めて店頭販売をしたことでした。ここで売れなかったらもう手を引こう、本気でそう考え臨んだところ、お客様は生産者である私の話に真剣に耳を傾けてくださり、つくったもやしが飛ぶように売れたのです。

そこで初めて分かりました。それまで私は小売店のバイヤーの声しか聞かず、価格競争の波に翻弄されていましたが、お客様は本当によい食材を欲し、生産者の生の声を聴きたいと考えていたのです。

本当によいものをつくれば、分かる方には分かっていただけるのだ──。その直売所でお話しした消費者は10数人です。しかしそのたった10数人の言葉が希望の光となり、再び立ち上がる私の背中を強く、強く押してくれたのでした。

それ以降、ただスーパーの棚に陳列するだけではなく、もやし本来のよさを伝えていく重要性に気がつき、もやしの絵本の制作、もやしカフェや収穫祭、お化け屋敷ならぬ〝もやし屋敷〟の実施、量り売り、栽培キット販売、思いつく限り何でも実行しました。

こうした取り組みを地元メディアが取り上げてくれたおかげで、全国ネットでも注目を浴びるようになり、いまでは百貨店にも卸せるようになりました。借金もコツコツ返済できるようになり、気がつけば目の前にあった霧は消え、空が晴れ渡っていました。

苦境の中でも自分が信じるもやしの販売を続けられたのは、幼い頃から汗水垂らして働く両親の後ろ姿を見てきたことが一つ。それから、死闘が繰り広げられたインパール作戦の生き残りである父が、ある時何気なく呟いたこの言葉が常に胸にありました。

「人間、食えなくなったらおしまいだ。あれが食えねえ、これが駄目と不平不満を言っている奴から死んでいった」

もやし市場が合理化・機械化されていこうとも、取引先がなくなっていこうとも、自分が本当においしいと信じるもやしをつくり続けよう。そう鼓舞されました。父は寡黙な人でもやしのつくり方こそ教えてくれなかったものの、本当に大切な生き残り方を身を以て教えてくれたのです。

自分が正しいと信じる道をとことん貫き通せるというのは、実は幸せなことです。その幸せを掴むためには時に生活レベルを下げるなど泥水を啜るような辛酸を嘗めることがあるかもしれません。しかし、真っ当なことを一所懸命やり続けていれば必ず誰かが助けてくれる。世の中はそういうものなのだと思います。


(本記事は月刊『致知』2022年11月号「致知随想」より抜粋・編集したものです)

◇飯塚雅俊(いいづか・まさとし)
昭和38年埼玉県深谷市生まれ。地元の高校卒業後、家業であるもやし栽培業の有限会社飯塚商店に入社。平成14年より、代表取締役社長。著書に『闘うもやし 食のグローバリズムに敢然と立ち向かうある生産者の奮闘記』(講談社)がある。

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