哲人・森信三の言葉は、なぜ人々の心に響くのか《貴重》生前インタビュー

哲人・森信三先生の没後30年を記念し、発売された『森信三 運命をひらく365の金言』。16万部を超えるベストセラー『修身教授録』や先生が自ら「宿命の書」と名付けた全5巻の大作『幻の講話』、新刊『続・修身教授録』など、弊社から刊行した30冊にも上る書籍から「人間、いかに生きるべきか」を示唆する金言を365篇、精選したものです。

「仕事の手順」「恋愛と結婚」「読書の目的」「時間と人生」など、誰もが直面する人生の課題に対する普遍の哲理を、一日一語ずつ読み進めることができます。森先生の著書を座右に置く経営者も多く、哲学者でありながら教育者として多くの人々に影響を与えてきました。
森先生の言葉は、なぜ人々の心に響くのか――。生前、『致知』に掲載されたインタビューをお届けします。
(本記事は月刊『致知』1985年11月号 特集「言葉が運命を制す」掲載 森信三氏の「わが言葉の人間学」より一部を抜粋・編集したものです)

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雑事をいかに巧みにさばくか

――先生は90歳になられ、3年ほど前には脳血栓で倒れられたと聞いていますが、見た目には非常にお元気そうですね。

〈森〉
いや、もう手がきかなくなってね、いまはハガキを書くのも不自由な右手でね、書いてる(笑)

――いまでもお書きになる?

ええ、1日に3枚くらいは書いているね。

――そういえば、先生はハガキ道というか、「ハガキの活用度いかんで、その人の人生の充実度がわかる」「ハガキ活用の達人たるべし」と、ハガキの活用をすすめられていますね。

たった一枚のハガキで、しかもたった一言の言葉で人を慰めたり、励ましたりできるとしたら、世にこれほど意義のあることも少ないですからね(笑)

――しかし、普通はなかなか億劫がって書かないですね。

参考までにいいますとね、手紙の返事はその場で片付けるが賢明です。ていねいにと考えて遅れるより、むしろ、拙速を可としたほうがいい。

――なるほど。

それと、人間、億劫がる心を、刻々と切り捨てねば、ね。年をとるほど、それがすさまじくならねば、と思います。

――あぁ、年をとればとるほど。

80歳を境にして、私が実践面で第一に取り組むことにしたのは、日常生活におけるその挙止動作の“俊敏さ”です。

――ほう。

日常の雑事雑用をいかに巧みに要領よくさばいていくか――そうしたところにも、人間の生き方の隠れた呼吸があるということです。

真理は現実の唯中にあり

――先生は80歳のときに、西洋哲学と東洋哲学を融合した「全一学」を提唱された。先生の言葉を借りれば、真にその人の命に溶け込んで人生を生きる真の“力”になる哲学。簡単にいえば、人間の生き方に関係のない学問はいかんのだ、と。

〈森〉
それをいい続けてきた(笑)

まぁ、私が生涯を通して求めてきたものは、『人間はいかに生きるべきか』という人生の根本問題です。だから、それが哲学にせよ、宗教にせよ、このいかに生くべきかという人生の根本問題に対して無関係な学問はまったく無縁のものだということです。

で、哲学という言葉の代わりに、もっとしっくりとくる言葉はないかと思いましてね、『全一学』と名付けた。

――提唱されたのは80歳ですが、その目覚めはもっと以前からあったわけですね。

ええ。

――先生は西田幾多郎門下生として京都大学で学んでいたが、かねがね日本の学問の現実遊離性に疑問をいだいていた。それで、33歳の頃、『二宮翁夜話』の巻頭の言葉、「まことの道は天地不書の経文を読みて知るべし」によって開眼した、といわれてますね。

そうです。その意味では、尊徳は私にとって“開眼の師”です。

一代の哲学者・西田幾多郎先生に8年も師事しながら、最後のところで尾骶骨のように残っていた大学的アカデミズムから、完全に開放せられたのは、その『天地不書の経文を読め』の一語によるものだったからです。

つまりね、それまでの私はいわゆる哲学書の中にこそ、絶対の真理はあると考えていたのに、それとは逆に、真理はこの現実の天地人生の唯中に、文字ならぬ事実そのものによって書かれており、しかもそれは刻々時々に展開しつつあることに開眼せしめられたわけです。

――真理は現実の唯中にあり、ですか。

そうです。いいかえれば、真理は現実を変革する威力をもつものでなければならぬ、ということです。そしてこの2つが、私の学問論の根本になっているわけです。

言葉は命

――一つの言葉との出合いが先生の一生を決定したともいえますね。その意味では「言葉」というのは大事ですね。

〈森〉
それを真っ先に説いたのは教典ではキリスト。ヨハネ伝にある。初めに言葉ありき、言葉は神なり、といってる。あれは神の内容をいっている。言葉がなければ、神の内容はわからんからね。神の説明は言葉によるしかない。そしたら言葉は神。

――先生の例のように感じる人が感じれば、言葉がその人の命になる。

そうそう、命という言葉のほうがわかりやすいね。神よりも。言葉は、端的に命だね。

道元は『愛語、よく回転の力あるを知るべきなり』といってる。

これは言葉は命だというよりも、もっと強い。

要するに、人を生まれ変わらせる。回転の回というのがね、展開される、おまけにそれが絶対性を持っているということが回転。

――愛語は人を生まれ変わらせる力がある、ということですね。

その通りです。まぁ、道元に限らずね、古来、傑出せる人ほど、言葉の慎みをとくに重視していますね。

良寛にも『戒語』があるし、また葛城の慈雲尊者は十善法語の十戒中、言葉の戒めが4か条を占めています。

参考までにいいますとね、不妄語(でたらめをいうな)、不悪口(人のわるぐちをいうな)、不両舌(人を仲たがいにするようなことをいうな)、不綺語(お上手ごとをいうな)。

――言霊(ことだま)って言葉がありますね。あれはどういうふうに解釈されますか。

文字通り、魂の根本は言葉だ、ということでしょうね。

大体、古代語は単純明快ですな。細工が入らん。いいかえると、論理が入らん。

――逆にいうと、真理ってのは単純なんでしょうね。

そうです。真理ほど単純明快なものはない。


(本記事は月刊『致知』1985年11月号 特集「言葉が運命を制す」掲載 森信三氏の「わが言葉の人間学」より一部を抜粋・編集したものです)

◉『森信三 運命をひらく365の金言』◉
 森信三・著/藤尾秀昭・編 定価=各2,300円+税

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・時間と人生

……など、誰もが直面する人生の課題に対する普遍の哲理を、一日一語ずつ読み進めることができます。

「いやしくも人間と生まれて、多少とも生き甲斐あるような人生を送るには、自分が天からうけた力の一切を出し尽くして、たとえささやかなりとも、国家社会のために貢献するところがなくてはならぬでしょう(後略)」
(4月11日、ローソクを燃やし尽くす)

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◇森 信三(もり・しんぞう)
明治29(1896)年~平成4(1992)年。愛知県生まれ。大正11年広島高等師範学校卒業。15年京都大学哲学科卒業。昭和14年旧満洲の建国大学教授、28年神戸大学教授。「国民教育の師父」と謳われた在野の教育者・哲学者であり、その教えはいまなお多くの人々の人生の糧となっている。

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