なぜ東京ディズニーランドは人々を圧倒的に惹きつけるのか 牛尾治朗×加賀見俊夫

2023年に開業40周年の節目を迎え、世界中から人々が集まる夢のテーマパーク・東京ディズニーランド。なぜ東京ディズニーランドは魅了し続けるのでしょうか。創設期から経営に携わったオリエンタルランドの加賀見俊夫さんと、日本経済界を牽引してきた牛尾治朗さんに語り合っていただきました。

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権限委譲で人は伸びる

(牛尾) 
学生アルバイトの方も随分活躍なさっているようですね。

(加賀見) 
うちは圧倒的にアルバイトが多いんです。嬉しいことに、就職活動の時にうちでアルバイトをしていたというと高く評価されて、採用される人がたくさんいるんです。

(牛尾) 
ある方から伺った話では、その方が東京ディズニーシーに遊びに行っていた時に東日本大震災が起こったのですが、現場の学生アルバイトの皆さんの見事な判断のおかげで、来園者の安全が守られたようですね。

(加賀見) 
あの時は園内に7万人近い方がいらっしゃったんですが、幸い怪我をなさった方はゼロでした。けれども交通機関が麻痺して2万人くらいの方が夜になっても帰れない。気温は4℃くらいでしたから、皆さんに何とか暖を取ってもらうために、毛布など売店の売り物で利用できるものはすべてご提供し、レストランで温かいコーヒーやスープをおつくりし、最後はバックヤードにあったダンボールまで支給しました。

これは全部現場が判断してやってくれたことで、私たち幹部は後から報告を受けただけなんです。

うちは平素から現場にすべてを任せていて、お客様に対して各々が1番よいと思うことを実行するようにしていますし、お客様の喜びが自分の喜びというスタンスが徹底しているんです。

(牛尾) 
そういう人材をどのように育てていらっしゃるのですか。

(加賀見) 
ディズニー社のマニュアルを参照してつくったものは一応ありますが、そこで謳っているのはSCSEという行動基準だけです。Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)の頭文字を取ったもので、特に安全については徹底して教育していますが、あとはその基準に基づいてほとんど各自の裁量に任せています。

うちは現場の権限が非常に強いんです。ある意味、一番権限のないのは私かもしれません(笑)。極端な話、会長の私が入園しても、現場の責任者にOKをもらわないと乗り物にも乗れませんからね。そのくらい現場に権限を委譲しているんです。人を伸ばすには権限委譲するのが一番だと考えていますからね。

2度の試練を乗り越えて

(牛尾) 
傍目には順調に成長を果たしてこられたように映りますが、特に厳しかったことはありますか。 

(加賀見) 
2回あります。1回目は東京ディズニーランドがオープンした直後でした。1年目に目標だった1000万人のご来園を何とか達成することができたのですが、これをいかにキープするかが大きな問題でした。特に3年目は相当厳しかったですね。 

(牛尾) 
どのようにして乗り越えられたのですか。 

(加賀見) 
やはり鍵を握るのはサービスでした。サービスの質さえ落とさなければ大丈夫だと考えて、1000万人を達成しても決して気を緩めることなく、もう1度原点に戻って誠実にお客様1人ひとりをお迎えしました。それをお客様も評価してくださったのだと思います。 

2回目の試練は、2001年に東京ディズニーシーを開園した時でした。あいにく当初は思うように客足が伸びなくて、コンセプトを変えてディズニーランドに戻すかという意見も出たんです。けれども私は最後まで反対して、東京ディズニーシーのコンセプトを貫いたんです。 

(牛尾) 
2つのパークはコンセプトが違うんですね。 

(加賀見) 
基本は同じなんですが、お客様の受ける印象が全然違うんです。東京ディズニーランドのほうは、創設者のウォルト・ディズニーが描いた夢に基づいてアトラクションができているのに対して、東京ディズニーシーは世界初の海をテーマにしたディズニーパークでしてね。ベニスとか地中海とか、世界各地の素晴らしい場所を想起していただけるようなアトラクションになっているんです。 

前駐日米大使のキャロライン・ケネディさんにお越しいただいた際も、園内のケープコッドというエリアに立ち寄られて「懐かしい」と大変喜んでくださいました。 

(牛尾) 
しかし、客足が伸びない中でよく耐え抜かれましたね。 

(加賀見) 
失敗したら辞める覚悟でやっていました。 

実は、アメリカから最初に提案されていたのは、ハリウッドの映画スタジオをテーマにしたものでした。しかし、これは日本人には向かないと考えて、土壇場で引っ繰り返した経緯もありましてね。 

海をテーマとする東京ディズニーシーのコンセプトは、周りを海で囲まれた日本に相応しい素晴らしいコンセプトだという思いがありましたから、これは絶対に変えてはならないという信念で取り組みました。 

(牛尾) 
本家のアメリカもやったことがないオリジナルなことに挑戦するわけですから、思うような結果が出なければ当然迷いも出てくるでしょう。加賀見さんがそういう中でも初志を貫かれたのは大変なことだと思います。 

といって、顧客に通じないアイデアを頑固に押し通せば倒産です。加賀見さんは、最初のコンセプトを守りながらも、ダメなところは適宜改善を加えてこられましたね。社内の意見にもしっかり耳を傾けていなければできないことだと思います。 


(本記事は月刊『致知』2019年5月号特集「枠を破る」から一部抜粋・編集したものです。)

◎本記事では他にも「与えられた仕事でベストを尽くす」「交渉は肚を据えて本気でやるんだ」「常にいまが一番大変な時」等、経営の枠を破り、数多の苦難を乗り越えて掴んだお二人の経営哲学が詰まっています。

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◇加賀見俊夫(かがみ・としお)  
昭和11年東京生まれ。33年慶應義塾大学法学部卒業、京成電鉄に入社。47年京成電鉄を依願退職し、オリエンタルランドに改めて入社。56年取締役総務部長兼人事部長。その後常務、専務、副社長を経て、平成7年社長に就任。17年会長兼CEO。著書に『海を超える想像力』(講談社)がある。

牛尾治朗(うしお・じろう)  
昭和6年兵庫県生まれ。28年東京大学法学部卒業、東京銀行入行。31年カリフォルニア大学政治学大学院留学。39年ウシオ電機設立、社長に就任。54年会長。平成7年経済同友会代表幹事。12DDI(現・KDDI)会長。13年内閣府経済財政諮問会議議員。著書に『わが人生に刻む30の言葉』『わが経営に刻む言葉』『人生と経営のヒント』(いずれも致知出版社)がある。

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