2023年01月06日
日本料理・龍吟と銀座・小十――。ともに東京の中心地にミシュランの星を輝かせる日本料理の名店です。それぞれの代表を務める山本征治さんと奥田透さんは若き日、同じ料亭で修行し、意気投合した盟友です。お互いに切磋琢磨しながら料理の道を歩むお二人に、仕事と向き合う姿勢や理想の指導者としてのあり方を語り合っていただきました。〔写真 左が山本さん、右が奥田さん〕
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
夢を形にする方法を考えに考え抜く
〈奥田〉
山本さんはスタッフを育てる時に何を一番心掛けているんですか。
〈山本〉
何より思いを共有することですね。僕は日本料理の魅力を毎日スタッフに語って聞かせてもなお、語り足りないくらい料理が好きなんです。
日本料理の魅力とは何か、この先どのような可能性があるのか、外国の人たちにこんなこともアピールしたい、あんなことも知らせたい、といったことを周りにいつも語っています。
そのことによってスタッフは僕の考えをよりリアルに感じてくれるでしょうし、感じてもらえるには語り続ける以外にないと思っているんです。
包丁の使い方が違うとか、この食材はこの大きさに切ったほうがいいという技術的問題はこの10年でクリアしたつもりなので、これからは僕の描いている夢をよりリアルに見せていく、そのことでより理想的なチームをつくっていきたいと思っています。
奥田さんはどうですか?
〈奥田〉
僕の場合は、スタッフに日頃から「決して諦めるな」と言っているんです。
いまはできなくても諦めないでやり続ければ、何事もできるというのが僕の考えです。同じ課題でも1年後にできる人がいれば2年後にやっとできる人もいる。その間に優劣や順番がつくかもしれませんが、それでも決して諦めないことです。
僕自身、自分の人生をとおしてそれを証明したいと思って、ここまで歩いてきましたからね。
できない問題はできる方法が見つかるまで考えるほかないんですね。なんでできないのかとずーっと考えていると、できる方法が一つか二つ、必ず見つかります。
大切なのはそれを形にしていくことです。反対に「これでいいや」と妥協したり諦めたりした瞬間に、そういう思考回路に入ってしまうと思います。
〈山本〉
全くそのとおりで、例えば1を2にしたり、2を5にしたりというのは比較的簡単なんです。
でも夢をリアルにするのは0を1にするのと同じです。無の状態から有を生み出さなくてはいけない。それをどう実現できるかを毎日毎日考え続けてアイデアを生み出す。これがまさに仕事の醍醐味かもしれないですね。
〈奥田〉
それと関係することだけど、僕は指導者には2つのタイプがあると思っています。
1つは「こうだ。こうでなくてはならない」という基準を定めて、厳しく周囲を律していくタイプです。料理や物づくりの場合、ちょっとした違いが完全に品質を落としますから、これは物凄く大切になってきます。
そしてもう1つは、従業員の力量を基準にして物事を進めていくタイプです。
前者の場合、行きすぎると基準に合わないスタッフに「おまえら、駄目だ。もう要らない」と言いかねない。後者の場合は個人の技量に合わせるがゆえに、自分がつくりたいものがつくれなくなるというリスクがあります。
で、僕自身はというと、この2つのうち後者に近いと思っているんです。
〈山本〉
ああ、後者にね。
〈奥田〉
この従業員はいまはできなくても、いつかはできるはずだ。それならできるまで僕も付き合おうと、そう考えるんです。
全員が全員スーパースターなんてどこの社会もあり得ないんですよ。なぜかデコボコなんですね。
うちの店も三つ星店と言われていますが、だからといって物凄い人だけを集めてスーパーチームをつくっても、それだけでは絶対にまとまらないし勝てない。
1番が10人集まると、その中に必ず10番ができてしまう。社会とはそういうものだと思います。
〈山本〉
そのように考えていくと、上に立つ者の姿勢はとても大切になってきますね。
経営者は自分のプロジェクトに対して、ありとあらゆる決断をしていかなくてはいけないわけだけど、その決断がどこかで間違ったりすると、とんでもないことになる可能性もある。
実際、5年先、10年先のことはどれだけ綿密に考えても、どこかでずれていく危険性が常にあります。ですからより慎重に状況を分析して判断しないといけないし、より大きな責任が生まれてくると思います。
(本記事は月刊『致知』2014年2月号 特集「一意専心」より一部を抜粋・編集したものです)
★〝私の二十代は、やりたいことをやりたいだけやり抜いた10年間でした〟
『致知』2022年9月「実行するは我にあり」の人気連載「二十代をどう生きるか」に、山本征治様が登場。一度しかない人生を後悔することなく全うするために、何をどう目標にし、夢を実現していくか、熱いメッセージと共に語っていただきました。ぜひご覧ください。【「致知電子版」で全文をお読みいただけます)】
◇山本征治(やまもと・せいじ)
昭和45年香川県生まれ。平成5年四国の料亭に弟子入り。15年東京・六本木に「日本料理・龍吟」を開店。16年スペインの世界料理学会に日本代表として出場。19年ミシュラン二つ星、23年三つ星に選ばれる。25年「アジア50ベストレストラン」第2位、「ワールド50ベストレストラン」に4年連続入賞。
◇奥田 透(おくだ・とおる)
昭和44年静岡県生まれ。高校卒業後、静岡、京都、四国の料亭で修業。平成11年に独立し静岡で居酒屋を開店。15年東京・銀座に「銀座・小十」を開店。4年後にミシュラン三つ星に選ばれる。25年パリに「奥田―OKUDA―」を開店。著書に『世界でいちばん小さな三つ星料理店』(ポプラ社)がある。
◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。 たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
※購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください