「躓いて転んだとしても、また歩けばいい」——俳優・竹原芳子(どんぐり)が〝自分探しの旅を続けて掴んだもの〟

57歳の時に映画『カメラを止めるな!」出演で一躍脚光を浴び、その後も俳優の道を実直に歩まれる竹原芳子(どんぐり)さん。50歳で吉本興業の芸人養成所NSCに入所するまで、証券会社や裁判所など様々な仕事を経験した竹原さんが、人生を懸けて探し求めた「自分ならでは」、その道のりで掴んだよりよい人生を生きるヒントを語っていただきました。(写真撮影:宮本信義)

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年齢を言い訳にしない

〈竹原〉
まるで夢の中にいるようでした──2022年5月に開催された第75回カンヌ国際映画祭オープニングで、私の出演した『キャメラを止めるな!』が上映されたのです。

憧れのレッドカーペットを歩き、上映後は5分間に及ぶスタンディングオベーションで歓迎を受ける奇跡のような経験をさせていただき、運命の不思議、人のご縁に感謝するひと時でした。

しかし私が俳優という道に辿り着くまでには、たくさんの紆余曲折がありました。

1980年の春、20歳で短大を卒業した私は、大阪の証券会社への就職を控えたごく普通の女の子でした。子供の頃からお笑い番組が大好きだったこともあり、就職前に吉本興業が芸人養成所を開校すると知った時には、進路に迷いましたが、「私が合格したということは不合格になった人もいる。石の上にも3年やと思って頑張ろう」と、証券会社に行くことにしました。

入社後は、一生分の営業をしたと断言できるほど朝から晩まで電話を掛け、街を駆け回る毎日でした。辛いことも多々ありましたが、人に出会える仕事が楽しくて堪りませんでした。ただいくら仕事が楽しくても、好きなのはお客様との対話で、データ分析は苦手のまま。それにこの仕事は定年すれば続けられません。

「自分ならでは」を身につけて生涯現役で働き続けたい。この想いがだんだん強くなり、1992年、33歳の時に証券会社を退社しました。

以後、「自分ならでは」を探し求めて銀行の事務仕事や雑誌の販売促進、裁判所臨時的任用事務官など、様々な仕事を経験しましたが、手に職をつけるという想いに届くものはありませんでした。

転機が訪れたのは2010年、50歳になった時でした。昔見た大河ドラマ『秀吉』で、織田信長が「人間50年」と言い、炎の中を舞いながら亡くなるシーンがふと脳裏に浮かんだのです。

それで「自分が信長やったらもう死んでいる歳。本当にやりたいことをやろう」と一念発起し、周りからは「そんなん甘い!」「歳いってんのにいい加減にしとき!」など散々反対されましたが、若い頃憧れた芸人を目指そうと、吉本興業の芸人養成所NSCへの入所を決意したのです。

すべての点が繋がっていまがある

〈竹原〉
同期はほとんど10代から20代で、私は完全に浮いた存在。ダンスの授業など体力的に苦しいものもありましたが、多くの同期が辞める中、1年間めげずに通い続け、無事卒業することができました。

卒業後は芸人活動に加え、アマチュア落語家としても活動、2015年には落語大会で賞を受賞しました。その際、審査員の方から「表現者の中には、『この人にしかないもの』を持つ人がいます。あなたにはそれがある」という言葉をいただき、次第に表現者になりたい、お芝居の世界に挑戦したいと考えるようになりました。

そして、思い切って友人たちと連絡を絶ち、本気で俳優を目指す覚悟を決めました。私の人生は私のもの──この覚悟が自分の気持ちに正直に生きる支えとなりました。ちょうど55歳の時です。

その後、1年間俳優養成所に通い詰め、演技の勉強に無我夢中で取り組みました。

そんな時、たまたま見かけたチラシに案内が出ていたオーディションに応募し、映画初出演となったのが、のちにアカデミー賞受賞監督ミシェル・アザナヴィシウスによってリメイクされ、まさに冒頭の出来事に繋がる上田慎一郎監督作『カメラを止めるな!』だったのです。

撮影が始まると、監督は初めてのことばかりで戸惑う私に、「そのままでいい」と声を掛けてくださいました。

紆余曲折の歩みがあったからこそ、いまがある。その事実が何よりの原動力となり、そのままの私を懸命に表現しました。完成後、エンドロールに記された自分の名前を見た時、何とも言えない感動が込み上げてきました。

2018年に公開された本作は、口コミによる広がり、スタッフ一同での声掛けなど様々な要因が重なり、300万円という低予算ながら、興行収入30億円を突破する大ヒットに。

この作品を契機に、様々な仕事をいただけるようになり、長年追い求めた「自分ならでは」を掴んだのです。

私は57歳でようやく自分が本当に輝ける場所を見つけることができました。

「たくさんの挫折経験をされているんですね」とよく言われますが、一度も挫折したとは思っていません。自分の道はそれではなかったという「実り」がいくつも積み上がっただけ、この道ではないという標識が立ったに過ぎないのです。

躓いて転んだとしても、また歩けばいい。とにかくやってみる。その経験は何一つとして無駄ではなく、すべての点が繋がっていまがあります。起こることはすべて自分のためにあると受け入れ、いまに感謝して全力で生きることが、よりよい未来を引き寄せる力になると思います。

これからも自分の気持ちに嘘をつかず、まだ見ぬアツアツな体験を楽しみに、俳優道を突き進みます。


(本記事は月刊『致知』2022年12月号「連載 致知随想」より抜粋・編集したものです)

◇竹原芳子(たけはら・よしこ)
昭和35年大阪府生まれ。短大卒業後、証券会社で店頭営業職に就き、主任まで務める。40歳で裁判所事務官(臨時的任用)に。50歳で一念発起し、吉本NSCに入所。57歳のとき、ある映画の舞台挨拶に感銘を受け、ロビーに置いてあったチラシの「シネマプロジェクト」に参加し、映画『カメラを止めるな!』出演に繋がった。映画の大ヒット後、連続ドラマシリーズ『ルパンの娘』やバラエティ番組にも多数出演するなど、現在フリーで活動中。著書に『還暦のシンデレラガール やっと笑える自分になれた』(サンマーク出版)がある。

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