森信三『続・修身教授録』が教える、若き時代の生き方

平成元年の発売以来、16万部を超えるロングセラーとなっている『修身教授録』(致知出版社)。著者・森信三氏が没後30年を迎えた今年、その姉妹本にあたる『続・修身教授録』が発刊となりました。
前書同様、自身の起伏の大きい人生の中でも特に苦しかった時代、大阪天王寺師範学校の生徒に向けて説いた人生の教えから、私たちが学ぶべきものは少なくありません。森氏を師と仰ぐ「実践人の家」参与・浅井周英氏の語りでお届けします。

若人たちの将来への慈愛温情

『修身教授録』ならびに『続・修身教授録』は、森信三先生が大阪天王寺師範学校の教壇に立っていた昭和12年からの2年間の修身科の授業録です。前著が本科一部生(高等小学校卒5年制)対象のものであるのに対し、後者は本科二部生(中学校卒2年制)を対象に行われたものです。両著とも、師の言葉を一言一句漏らさず懸命に書き留めた生徒の筆録が底本となっています。

〔浅井〕
師範学校本科二部生は、既に中等教育を修了し、いろいろな分野に進路を求めることができる立場にありながら、何らかの事情で教育界に進路を求めてきた例が多くありました。

森先生は、一人ひとりの生徒にいかなる事情があるにしても、この二度とない人生を縁あって教育の道に踏み入れた以上、真に大志を立てて、生涯の終わりにあたって断じて悔いることのない道を歩んでほしいという願いを持って、彼らに真剣に語りかけ、本気になってその人間教育、人間啓発に取り組まれたのです。

『続・修身教授録』を読むと、全篇にわたって先生の烈々たる至情が溢れ出ていますが、先生の心の深奥には、この若人たちの将来を見通しての慈愛温情の思いが秘められていることは問うまでもないことです。

そして、人がこのように自己の志を立てるためには、卓れた先人たちの伝記を読み、それを我が身の現在に照らしてみること。特に卓れた先人たちが現在の自分と同じような年頃に、一体いかなることをされていたかを知ることは、自分の怠惰と無自覚を覚醒させる点で、この上ない好刺激になると述べておられます。

先生は一人の人間の心の眼が開かれるのに、師の人格の導きによることがいかに重大な力を持つかを繰り返し力説されました。二度とない人生を生きんがために、唯一の灯明台を求め、真に「あの人なら!」と心の底から尊敬できる師を選びなさいとおすすめになっています。それは同事に、生徒一人ひとりが優れた師となってほしいという願いでもあるのです。

人生行路を照らす導光の書

「人生二度なし」を根本信条としてきた森信三先生。そこから「人生をいかに生きるべきか」に話を展開するところに先生の講義の神髄があります。

教え子の魂を呼び覚まし、心に火を点ずるような教師を目指すとの志を立て、その志をどこまで実現できるかが即ち、その人の偉さであるといいます。そのために、真に自覚のある日々を送るようにと、日常生活の細部まで懇切を極めて説いているのです。

しかし、その教えは、単に教師を目指す人たちだけのものではなく、人生全般に通じる「生き方の法則」といえるものという特徴があります。

〔浅井〕
先生の思想の根底を貫いているのは「人生二度なし」ですが、私たちは、このことに本当に目覚めたならば、自分の人生への取り組み方が真剣なものにならざるを得ないのです。

一方で、それは我が身に余程のことが降りかかってこないと真の覚醒に至らないのもまた事実です。

ある意味で『修身教授録』『続・修身教授録』には人生の逆境にあえいでいる時、これを読んで人生の根本問題に覚醒させる力が秘められているといってもよいでしょう。先生の心の深奥から迸る森魂が人の魂に点火し、その心を揺さぶるのです。

いまや日本の危機的状況は、ますますその度合を強めつつあります。政治・経済・外交のみならず、少子化問題や高齢者福祉の問題、最も根幹をなす教育の問題等、憂慮を抱かざるを得ない状況です。我が国社会のあらゆる面における弛緩状況は止まる様子もなく、森先生が「いまや民族そのものの上に重大な質的変化が始まりつつあるのではないか」と危惧されたことがまさに現実化してきている感は否めません。

こうした時、日本人の原点回帰の願いを持つ人々の動きも、底流において澎湃(ほうはい)として起こりつつあります。

本書は年若い生徒たちに、人生の真意義を懇切丹念に説かれており、こういう時代だからこそ先生の人生に対する深い洞察と温かい励ましを、私たちの人生行路を照らす導光の書としてもお読みいただければと思います。

森先生が景仰してやまないのは、日本の先哲であり、中でも中江藤樹、石田梅岩、二宮尊徳、吉田松陰など日本精神を生活化して生きてこられた方々です。先生はこれらの方々から深く学ばれ、その日本魂を若人たちに伝え続けてくださっています。

そのこともまた私たちは真摯に受け止めながら、心身共に健全な国民の育成に寄与しようではありませんか。


(本記事は月刊『致知』2022年10月号 特集「生き方の法則」掲載 浅井周英氏の「森信三『続・修身教授録』に学ぶ生き方の法則」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇森 信三
明治29(1896)年~平成4(1992)年。愛知県生まれ。大正11年広島高等師範学校卒業。15年京都大学哲学科卒業。昭和⑭年旧満洲の建国大学教授、28年神戸大学教授。「国民教育の師父」と謳われた在野の教育者・哲学者であり、その教えはいまなお多くの人々の人生の糧となっている。

◇浅井周英(あさい・しゅうえい)
昭和11年和歌山県生まれ。35年和歌山大学卒業後、教師となる。50年和歌山市教育委員会に入り、平成4年同教育長、8年より同助役を務める。18年森信三師が創設した「実践人の家」理事長。25年退任。

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