名だたるトップ女優のスタイリストを務めた永川雅代さんが教える、幸せな人生を送る秘訣——テーブル茶道で心を整える

名だたるトップ女優から指名を受け、スタイリストを務めてきた永川雅代さんは、トップで活躍している人たちにはある共通点があることに気づきます。それは、どんな時も前向きに仕事に打ち込めるよう心を整えているということです。現在は、これまでの経験を生かし、ファッションコンサルティングや主宰する「抹茶楽道」での茶道イベント等を通じて心を整える大切さを伝えています。そんな永川さんにこれまでの人生の歩みと共に幸せな人生を送る秘訣をお話しいただきました。

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思いがけずスタイリストの道へ

(永川)

茶筅を振る小さな音、鼻腔を擽る抹茶の香り。一服のお茶を点(た)て喉を潤すと、日常の諸事に煩わされた心も落ち着きを取り戻し、静かに整ってきます。裏千家の講師を務めていた母の手ほどきで若い頃に茶道を嗜んでいた私が、この静かなひと時を取り戻すまでには長い歳月を要しました。

私は20年以上にわたり、スタイリストという仕事を生業としてきました。テレビや映画、雑誌などに出演する方のファッションコーディネートが主業務ですが、実のところ、自分がこの道に入ることなど考えも及びませんでした。

大学時代は海外留学して経済を学び、卒業後は一般企業に就職するつもりでいました。ところが帰国して就活のタイミングを計っていた折、近所でスタイリスト事務所を営む女性から、「人手が足りないので手伝って」と声をかけられ、いきなりテレビでもお馴染みのトップ女優さんのもとへ連れて行かれたのが始まりでした。

最初は、就職するまでの間だけでも力になれればという軽い気持ちでした。けれども社長に連れられて何度も現場へ足を運ぶうちに、言葉遣いがきちんとしているとのことで、皆さんから〝マーちゃん〟と呼ばれて可愛がられるようになり、気がつけば就活もそっちのけに夢中で取り組んでいたのです。

経験ゼロから始めた仕事だけに、一つこなしては反省を繰り返す毎日でした。衣装合わせの時に何とか一発OKをもらおうと、とにかく必死でした。仕事は多忙を極め、地方へ飛んで撮影をした後、都心へとんぼ返りしてまた撮影という日もざらでした。

それでも続けることができたのは、激務を上回るくらいにこの仕事が楽しかったからです。「マーちゃんでなきゃダメ」とご指名をいただくと、ならばこの人のために頑張ろうと一層力が入りました。

名だたるトップ女優さんたちと接してきて感銘を受けたのは、常にポジティブで、私たち裏方のスタッフにも「いつも綺麗にしてくれてありがとう」と、感謝の言葉を欠かさないことです。

また、やると決めたことは絶対にやり抜く意志の強さがあり、どんなに疲れて帰ってきても体のケアを怠らないなど、いつ声がかかっても最高の自分を表現できるよう徹底して準備を重ねています。

もう一つ学んだことは、どんな時も前向きに仕事に打ち込めるよう心を整えておくことの大切さです。トップで活躍している人は、そのためにヨガや瞑想など何らかの実践をなさっているものです。

心の持ちようがよき人生をつくる

(永川)

いま思えば、こうした一流の方々の姿が、私を再び茶道へ導いてくれたといえます。

スタイリストの仕事は、たとえ120%の準備をしても、相手に80%しか満足していただけないこともあります。私はそんな時、ことさらに自分を責めず、まずは頑張った自分を褒め、足りなかった20%は後で必ず挽回するようにして、なるべく早く気持ちを切り替えるよう努めています。その際に力をいただいているのが、茶道なのです。

しばらく遠ざかっていた茶道に再び立ち返るきっかけになったのは、友人に紹介されて出席した茶道のチャリティイベントでした。そこで会を主宰されていた裏千家正教授・米澤宗美先生のきめ細やかなおもてなしの心に、すっかり魅了されたのです。お庭に咲いた季節の花でさり気なく会場を彩り、大勢の参加者一人ひとりにしっかり目配りをして決して退屈させず、必要と見れば面識のない方同士をお引き合わせする。私もこんな素敵な女性になりたい、と熱望して学びを再開したのです。

茶道というと、堅苦しい作法がたくさんあり近寄りがたい印象を持たれる方もあるかもしれません。けれどもその大切な心を残しつつ、気軽に実践できる「テーブル茶道」というものがあります。

テーブル茶道とは、文字通りテーブルの上で短い時間にできる茶道です。私は粉末の抹茶と茶筅、お湯を入れた水筒を常に携行し、多忙な仕事の合間にも心静かにお茶を点てるひと時を楽しんでいます。

慌ただしい日常に流されがちな現代人には、ぜひともこうした心を整える習慣を持っていただきたい。そんな願いから、私は仕事の合間を縫ってテーブル茶道の指導者資格を取得。尊敬する米澤先生からも、「あなたがやっていることは、とても価値のあることなのよ」と励まされ、現在は教室を訪れる生徒さんと共に、茶道を通じて日本文化の奥深さを堪能し、非日常の日常を楽しんでいます。

スタイリストとして、長らく人の外見を整える仕事に携わってきたことから、最近は女性経営者からファッションコンサルティングのご依頼をいただく機会も増えました。どなたもメンタルが強く、ご自分をよく理解されているため、クローゼットには余計なものがなく綺麗に整っています。逆に、心に余裕がないと自分に合わないものに手を出してしまいがちになります。

山梨県・恵林寺にて開催された子供向けの夏休みイベント。普段着で気軽に茶道、日本文化の素晴らしさをが体験できる。2023年11月9日~10日にも恵林寺にて茶道体験を開催

こうしたことも踏まえて、幸せな人生を送る上で大切なことは、心の持ちようだと私は実感しています。忙しさで自分を見失いそうな時こそ、何か一つでも楽しいことに意識を向けて心を整える。そのためにも私は、一服のお茶を点てるひと時を大切に、茶道で見出した和の心、日本の貴い文化に常に思いを馳せつつ、スタイリストとして一層邁進していきたいと願っています。


(本記事は月刊『致知』2022年10月号 特集「生き方の法則」から一部抜粋・編集したものです)

◇永川雅代(ながかわ・まさよ)――抹茶楽道主宰

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