逃げない心が道をひらく——女性初の刀剣研ぎ師・神山貴恵さんを支えた信念

女性初の刀剣研師として活躍する神山貴恵さん。神山さんは一家離散などの辛い体験を経ながらも、並々ならぬ努力、師匠である臼木良彦さん(国内最高峰の刀剣研師に与えられる「無鑑査」)の導きによって、2017年には最高賞の「木屋賞」を受賞されます。神山さんが師から学んだ教え、支えにしてきた信念とは――。

◎各界一流の方々の珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数NO.1(約11万8000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。

たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら
購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

「これは自分もやらなきゃ」

〈神山〉
私が実家を出ていくことになったのは1999年、22歳の時でした。闘病していた母が亡くなり、予て仲違いしていた父から、「いますぐ出ていけ!」と半ば追い出されたのです。頼りの兄も公務員となって既に家を離れていましたから、まさに一家離散ともいうべき状況でした。

当時の所持金はたったの数万円。藁にも縋(すが)る思いで一時的に友人の家に身を寄せ、美術系専門学校を卒業後に就いていた家具補修の仕事や様々なアルバイトをして生活する苦しい日々が続きました。

そんな私の人生を変えるきっかけとなったのが、兄の影響で読み始めたフランスの推理作家、モーリス・ルブランの『ルパン』でした。夢中になって同書を読み耽る中で、主人公のルパンが日本の柔術を嗜んでいるという一文に出合い、「これは自分もやらなきゃ」という思いが湧き上がってきたのです。

さっそく武道をやっていた仕事仲間に相談すると、江戸時代初期に二神半之助正聴(ふたがみ はんのすけ まさあき)が完成させた総合武術「双水執流組討腰之廻(そうすいしりゅうくみうちこしのまわり)」を教える清漣館(東京都、せいれんかん)を紹介してもらい、門を叩いたのでした。

清漣館館主であり、日本を代表する刀剣研師である臼木良彦先生は、私を家族のように温かく迎え入れてくださいました。人間関係で辛い思いをしてきた私にとって、臼木先生の心遣いがどれほど支えになったか分かりません。

また時折、刀剣研ぎの仕事で扱う真剣を見せてくださることもあり、私は次第に日本美術、日本刀にも興味を持ち始め、先生の自宅兼作業場にも通うようになりました。

どんな困難からも逃げない

〈神山〉
そうした充実した日々が5年ほど続いた頃でした。2008年に発生したリーマン・ショックの影響で勤める会社が倒産の危機に瀕し、生活が立ち行かなくなったのです。

切羽詰まった私は思わず臼木先生に電話で事情を話し、「自分を雇ってくれる会社はありませんか」と相談をしました。すると、しばらくして先生から電話があり、「刀剣研師の弟子にならないか」という想像もしていなかったお返事をいただいたのです。

後に伺ったところ、ちょうど先生が後継者を育てたいと考えていたタイミングで、私からの相談があったとのこと。初めての弟子として、私にお声掛けくださったのでした。

電話を切った後、「果たして刀剣研師としてやっていけるのだろうか」と様々な思いが頭の中をぐるぐると駆け巡りました。しかし、最後に私の背中を押してくれたのは、「いますぐ出ていけ!」と父に実家を追い出され、人生を崩された辛さと悔しさでした。そして20分後、「やるしかない」と決意し、その旨を臼木先生に伝えました。2008年、32歳の時です。

その翌日から師匠の元で厳しい修行が始まりました。刀剣研師は最低10年の修行が必要と言われますが、言葉で教えてもらうというより、師匠が刀を研ぐ姿を見て自ら技術や精神を学び取っていくことが求められます。

師匠には優しくも厳しいご指導をいただきましたが、常に「なぜできないのか」を考え、師匠の一挙手一投足に学び、時には作業場に居残って必死に技術を覚えていきました。

師の臼木良彦氏と共に

それと同時に、修行以外のところでも様々な逆境に直面しました。

一つには、弟子になった途端、それまで仲良くしていた道場の一部の人が急に私に冷たく当たるようになったことです。心ない言葉を一日中ぶつけられたこともありました。さらに長く音信不通だった父が倒れたという連絡が入り、亡くなるまで闘病生活を支えることになったことも大変辛いものがありました。一時はストレスで食事も喉を通らず、私は心身共に追い詰められていきました。

それでも何とか修行を続けることができたのは、やはり師匠が実の父親のように私を温かく支え、導いてくださったからでした。それから、公務員として国のために一所懸命尽くしている兄の存在も支えでした。「努力している兄に負けていられない」という思いが、苦しい時に私を踏み留まらせてくれたのです。

そうして一歩一歩修行を積み重ね、初出品した作品が2011年の刀剣研磨・外装技術発表会で「努力賞」を、2017年には師匠も受賞した最高賞「木屋賞」をいただくことができました。

どんな困難があっても決して逃げずに、努力を続けていけば道はひらけることを実感しました。

 (後略)


(本記事は『致知』2022年7月号 連載「致知随想」掲載記事を一部抜粋したものです。刀剣研師・神山貴恵さんの記事全文は本号をご覧ください。詳細・ご購読はこちら致知電子版でも全文をお読みいただけます】)

◇神山貴恵(かみやま・よしえ)――刀剣研ぎ師

◎各界一流の方々の珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数NO.1(約11万8000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。

たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら
購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 10,500円(1冊あたり875円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 28,500円(1冊あたり792円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

閉じる