2022年09月02日
1716年創業、奈良晒という伝統技法でつくられた繊維「麻生地」を守り続ける一方で、ブランディング戦略によって社業発展を続ける中川政七商店。13代社長(現会長)の中川政七さん〈写真右〉、ともに同社のブランディング戦略を成功へと導いてきたクリエイティブディレクター・水野学さん〈写真左〉のお二人に、いかにしてブランドを築き上げてきたのか、事業発展の要諦を語り合っていただきました。
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ブランドとは小さな石の積み重ね
〈中川〉
商売は好きでも、僕はクリエイティブとかデザインに関するリテラシー(情報や知識の活用能力)は、水野さんと付き合う中でだいぶ分かってきたと思うんですよ。
だいたい、経営者の方でそういったリテラシーが高い人って本当に少なくて、ブランディングのことなんか分かっているような顔をしているだけで、ほぼ分かっていませんからね。
〈水野〉
それだけに、クリエイティブとかデザインが分かっている参謀っていうのが、いまの経営者に必要なんじゃないでしょうか。
〈中川〉
そうですよね。その点、僕は恵まれました。
〈水野〉
そう言わざるを得ないですよね、いまの話の流れからいって(笑)。まぁそれは冗談として、ブランディングとは何かとか、なぜ必要なのかっていうことを、きちんと理解されてない経営者の方が多いのは確かですね。
例えば、いま僕らの前にメーカーの異なる3台の録音機が並んでいますよね。簡単に言えば、ブランディングっていうのは、どうやってその中の1つを選んでもらえるかってことなんです。というのも、いまはメーカーが違っても機能はどれも似たり寄ったりで、それ以外のところで判断してもらうしかない時代になってしまいました。つまり、技術の踊り場、サービスの踊り場にきてしまったということです。
〈中川〉
まさに踊り場ですね。
〈水野〉
その時に何が大事かと言ったら、ブランドのビルドアップ作業だということなんです。要はブランドを丁寧につくっていくことになるわけですが、僕がよく言っているのは、「ブランドというのは、小石を一つひとつ積み上げていく作業だ」ってことです。
ブランドって、すごく大きな岩みたいなものを想像する方が多いんですが、本当はそうではなくて、例えば封筒のデザイン、社員の言動、名刺などすべてにブランドが宿っていくということなんです。
極端な話、経営者がインタビューを受ける時のネクタイの色まで目を光らせなければ、ブランドというのはビルドアップされていかないと思うんです。
会社という砂山を崩さないために
〈水野〉
その小石というのをどんどん小さくしていくと砂のようになっていくわけで、見方によっては砂山だと言うこともできるんですよ、企業というのは。
それだけに、もしどこか1か所でも崩れると、いろいろなところが崩れてしまう。それがすごく怖いところで、いかに砂山が崩れないように一つひとつ積み上げていくかが、ブランドを築いていく上ですごく大切なことだと思います。
〈中川〉
もう1つ、経営者としてブランドをつくる時に大切だと思うのは、「どこに行きたいか」「どうなりたいか」が明確であることですね。ブランドって評価の軸が1つだけじゃなくて、「どういうふうになりたいか」というのがあって初めて、そこに近づくために小さな石を積み上げていくわけじゃないですか。
ところが、この「どういうふうに」というのがなくて、「とりあえずいいブランドになりたい」とか「カッコいいブランドになりたい」っていう経営者が結構多いような気がします。
そうじゃなくて、「どういうふうになりたいか」がまずあって、その目標に対していま自分たちはどこにいるのかをきちんと認識する。そのギャップを埋めていくのが、小石を積み上げていく作業だと思いますね。
〈水野〉
ただその作業というのは本当にきりがなくて、製品に書いてある書体1つに至るまで関係してくるので、手を抜いていいところなんて1つもない。ただ、それをどこまで経営者の方が見られるかというと、やはり人・金・モノから優先されていきますから、当然手薄になる。
ですからいまの時代、経営に必要な4つ目の要素である「ブランド」にどこまで気を配れるかというのが企業にとっての新しい問題で、ファーストリテイリングのように、クリエイティブディレクターを側近に迎えるという時代がやってきたと言えるでしょうね。
(本記事は月刊『致知』2017年9月号 特集「閃き」より一部抜粋・編集したものです) ◎来年、仕事でも人生でも絶対に飛躍したいあなたへ――
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◇水野学(みずの・まなぶ)
昭和47年東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、平成10年good design companyを設立。ブランドの各種デザインからブランドコンサルティングまでをトータルに手掛け、現在はイオンや相鉄グループのブランディングに携わる。
◇中川政七(なかがわ・まさしち)
昭和49年奈良県生まれ。京都大学法学部卒業後、富士通を経て、平成14年中川政七商店入社。20年社長就任。28年「中川政七」を襲名。