「ぶつかりまくれ」日本史上最年少・最短記録での上場を実現した男の哲学

情報通信業界のリーディングカンパニーとして知られるフォーバル。25歳で同社を創業した大久保秀夫さんは、かつての電電公社が独占していた国内の通信業界に果敢に切り込み、通信自由化に尽力。1988年に当時の日本最短記録となるジャスダック上場を果たした、そのすさまじいまでのエネルギーの源はどこにあるのか――。

「その根性、叩き直せ!」

〈大久保〉
25歳の時、徒手空拳で創業した会社は35年経ったいま(※掲載当時=2015年)、売上高400億円、従業員1,700人を超える上場企業になった。

そんなことから時折、「大久保さんが成功した秘訣は何ですか」と尋ねられるのだが、はっきり申し上げてこういう質問にはうんざりする。「まだまだやりたいことが山ほどあるし、成功したとは全く思っていない」というのが正直な答えだ。

自分は成功した、もう満足だと思ったその瞬間から、人間は堕落の一途を辿る。やはり生きている限りゴールはないし、死ぬまで成長し続けなければならない。

現在私は60歳だが、いまも毎日全力の日々を過ごしている。その姿勢を築き上げたのは怒濤の如く生きた二十代の10年間に他ならない。

私は小さい頃から正義感が強く、学生時代は検察官を目指して勉学に励んでいた。大学3年生の時に結婚したが、義父との約束で卒業までに合格しなければ就職することになり、結局2回とも不合格。やむを得ず婦人服メーカーに入り、総務人事の仕事をやるに至った。

不本意なスタートを切ったが、仕事というのはやっていくうちに面白くなってくるもので、持ち前の正義感の強さを発揮してどんどん仕事にのめり込んでいった。始業時間は朝9時だったが、私はその1時間以上前に出社し、全員の机を拭いたり、床掃除をした。

9時が近づくと受付前に立ち、始業時間ギリギリに来る社員には遅刻のタイムカードを切った。「何するんだ。間に合ってるじゃないか」。「あんたらおかしい。ここで9時ってことは、自分の机につく頃には九時五分だろう。だから遅刻なんだ」。

これには労働組合から吊し上げを食らったが、私も負けずに「その根性、叩き直せ!」と22歳の新入社員ながら闘った。すると、どうだろう。3、4か月経つと全員が5分前や10分前に出社するようになったのである。

こんなこともあった。上司が担当していた社会保険の仕事をやらせてほしいと懇願しても、「まだ早い」の一点張り。私は「いまに見てろ」と思い、半年間猛勉強し、社会保険労務士の資格を取得した。その合格証を手に再度上司に掛け合い、仕事を掴み取ったのである。

辞表を叩きつけた先に気づいた

そうやってとにかく暴れ回っていたが、安月給で生活は苦しい。ところが、50名以上いる同期たちは、優雅に飲みに行っている。調べると彼らはみな、残業手当をもらっていたのだ。

「うちの会社は5時からが勝負だろ」

という同期の一言に愕然とした。自分はこの3年、朝早く起きて一所懸命仕事して定時で帰っていた。それだけ頑張っても給料は10万円。一方、朝遅く会社に行って仕事をできるだけサボって、夜までダラダラやっている人間が14万円。

私は時間軸だけで評価する会社は耐えられないと、辞表を叩きつけた。その後、年齢やキャリアに関係なく実力で評価される環境を求め、フルコミッションの外資系教材販売会社に転職。他の社員が5件、10件電話を掛けては一服している中、私は毎日、食事もろくに取らず何時間も掛け続け、1か月で前職の1年分の給料を稼いだ。

全国2,000人の営業マンの中で2位の成績を挙げ、半年でマネージャーに昇進。ところが、人を育てずに次から次へと使い捨てにする社長のやり方が気に入らず、最後は社長と口論になって退社した。

25歳にして、日本的な年功序列の会社とアメリカ的な成果主義の会社の両方を経験し、「俺の働ける場所はどこだ。俺の人生って何だろう……」と悶々とした日々が続いた。そんな時、ふと家内がこんなことを言ったのである。

「あっちが嫌だ、こっちが嫌だってぐちぐち言わずに、男なら自分で理想の会社をつくったら?」

まさに目の覚める思いがした。この言葉に一念発起し、老若男女を問わず力のある人間はどんどん抜擢し、だけどいったん採用した以上は固定給や社会保険を保障し、絶対クビにしない。そういう会社を自分でつくろうと決意した。

何事も一所懸命やれば必ず疑問にぶつかる。

疑問すら起きない人間は、一所懸命やっていないということだろう。

ゆえに、二十代はぶつかって、ぶつかって、ぶつかりまくれと言いたい。


本記事は月刊『致知』2015年5月号 連載「20代をどう生きるか」より一部抜粋・編集したものです)

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『致知』2022年8月号 特集「覚悟を決める」に大久保秀夫さんに再び登場いただきました!
 創業から上場への激動の日々、経営者としての逆境、62歳での脳梗塞……。
幾多の困難の中で自分を貫き通し、いまなお目標に邁進している大久保さんが〝覚悟〟を語ります。
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◇大久保秀夫(おおくぼ・ひでお)
昭和29年東京都生まれ。52年國學院大學卒業後、婦人服メーカー、外資系教材販売会社を経て、55年新日本工販(現・フォーバル)設立、社長就任。平成22年より現職。日本商工会議所特別顧問や公益資本主義推進協議会会長など、様々な要職も務めている。著書に『捨てる勇気』(産学社)など多数。

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