2022年07月12日
日本はいま、かつてない内憂外患の時代を迎えています。ロシアのウクライナ侵攻によって世界は激変し、戦争の最中にも中国は虎視眈々と覇権を狙っています。それらの危機に対処するために私たちが為すべきことは何か――。憂国の論客、櫻井よしこさんと中西輝政さんのお二人に、ウクライナ戦争の今後のシナリオと日本興国への道筋を語り合っていただきました。
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「ドイツの目覚め」に学べ
〈櫻井〉
欧米諸国のロシアに対する動きを見ていると、全部うまくいっているわけではありませんけれども、それでもこの巨大な変化に迅速に対応していると思います。
その中で我が国だけが、自分自身の意思を発信するというより、他のG7の後をようやくついて行っているという感じが否めない。とりわけドイツは一夜にして非常に大きく変わりました。
第二次大戦後、彼らは悪い戦争を行った罪として、軍事的なことには手を出さない主義でやってきたわけです。日本と同じように、国家の土台を経済だけに頼るという偏った、まともな自立した国家の歩む道ではない道を通ってきました。けれども、今回ドイツはそれを思い切って全部変えましたね。
〈中西〉
ドイツは当初、対ウクライナ支援として「ヘルメットしか送れません」「ミンスク合意に基づく話し合いで何とか解決してください」といった従来の外交姿勢を取っていました。
ところが、ロシアの前代未聞の侵略を目にして、即座にウクライナへ対戦車ミサイルや高性能の地対空ミサイルの供与を決めたり、ロシアからドイツへと天然ガスを輸送する海底パイプライン「ノルド・ストリーム2」を、自国の重要なエネルギー供給源であるにも拘わらず停止させたり、一挙に対ロ制裁レベルを引き上げました。
さらにドイツは日本と同じく国防費をGDP(国内総生産)比一%台に留めていたのですが、ショルツ首相は議会演説で、「直ただちに国防費を倍増し、GDP比率で2%以上にする」と明言した。そのために約13兆円もの臨時支出をしてかつてない装備の強化に踏み切りました。これまでのドイツなら考えられないような対応です。
〈櫻井〉
世界の国々がこれを「ドイツの目覚め」と呼んでいますが、目覚めたドイツやアメリカをはじめとするNATO(北大西洋条約機構)諸国と、プーチン体制のロシア、習近平体制の中国が対立している構図は明らかです。
我が国は一応西側陣営に足を置いておりますけれども、本質的なところでは全く変わっていないのが残念でなりません。
ウクライナ戦争はどうなるか
〈中西〉
読者の方々が本号を手に取られる頃には事態がもっと進展していると思いますけれども、今後の展開として四つのシナリオが考えられると私は予測しています。
第一は、早期に停戦合意が成立する。これはロシアの侵略責任を戦争犯罪として追及するという問題とは別に、とにかくまず停戦をして、ウクライナの一般市民に対するロシア軍の非人道的な軍事行動を一日も早く止める手段を講じなければなりません。
ただ、停戦合意が結ばれたとしてもロシア軍は撤退しないでしょうから、一番うまくいって、紛争は泥沼化して停戦後の世界秩序も混迷の道を辿ることになるでしょう。
第二は、一つ目のシナリオより実現可能性が少し高いけれども、最も起こってしまっては困るシナリオです。
それは核戦争であり、あるいはNATOとロシアとの間で衝突が起こり第三次世界大戦へと発展する。いまのようにロシア軍のウクライナ戦線での作戦が進捗せず、敗北を繰り返す状況が続けば、戦術核(ミサイルの射程が500キロメートル以下のもの)から使用に踏み切る可能性は依然としてあります。
第三に、これも起こってほしくないシナリオですが、ウクライナが屈服してしまうこと。
いまウクライナ東部から南部にかけての領土を奪おうという狙いがロシア軍の軍事行動から見て取れますが、国際社会も核の脅しに屈してロシアによるウクライナ領土の併合を黙認してしまう。これも「全面核戦争」の脅しをかけられたらあり得ないことはないと思います。
第四に、あえてもう一つ付け加えるとすれば、ロシアの敗北というシナリオですね。軍事的にロシアがウクライナとの一対一の戦争で敗北することは考えにくいのですが、ロシア国内でプーチン政権の足下がぐらつく可能性。これはもしかしたら私の希望的観測なのかもしれませんけれども、こういうシナリオもあると思います。
〈櫻井〉
私は今回の戦争について、日本が当事者だったらどうするだろうと考えながら比較して見ています。その観点で中西先生がおっしゃった四つのシナリオに関して申し上げると、ウクライナのゼレンスキー大統領も国民も屈服なんて全く以って考えていない、という印象を強く抱いているんですね。
プーチン大統領は度々核を使うと脅していますが、ゼレンスキー大統領は周辺の国々に対して核攻撃に備えてくださいと警告こそ発したものの、だからといって自分たちが逃げるとか降伏するなどとは一切言わなかった。つまり核攻撃に対しても我われは戦うんだという姿勢を示しました。ですからウクライナの屈服はあり得ないだろうと思うんです。
かといってプーチン大統領がロシアの敗北を受け入れるかと言うと、これは彼自身の終わりを意味しますから、おそらくそれもないでしょう。となると、やはりこのまま長期戦に持ち込まれてしまうか、核兵器の使用に踏み切るか。
(本記事は月刊『致知』2022年7月号 特集「これでいいのか」掲載記事を一部抜粋・編集したものです)
本対談では、この後も、
「キューバ危機を超える全面核戦争の可能性」
「歴史認識を改めなければならない」
「綻びが見え始めた習近平体制」
「日本がいま早急に為すべきこと」
など、日本がこれからの激動の国際社会を乗り越えていくための指針、具体的な提言が満載です。
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◇中西輝政(なかにし・てるまさ)
昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。著書に『国民の覚悟』『賢国への道』(共に致知出版社)『大英帝国衰亡史』(PHP研究所)『アメリカ外交の魂』(文藝春秋)『帝国としての中国』(東洋経済新報社)など多数。近刊に『覇権からみた世界史の教訓』(PHP文庫)。
◇櫻井よしこ(さくらい・よしこ)
ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務。日本テレビニュースキャスター等を経て、現在はフリージャーナリスト。平成19年「国家基本問題研究所」を設立し、理事長に就任。23年日本再生に向けた精力的な言論活動が評価され、第26回正論大賞受賞。24年インターネット配信の「言論テレビ」創設、若い世代への情報発信に取り組む。著書多数。最新刊に『ハト派の嘘』(高市早苗氏との共著/産経新聞出版)。
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