2023年09月08日
7月から9月にかけて発生する線状降水帯(強い降水量を伴う雨域)や台風は年々勢力を増大させ、被害が深刻化しています。近年、新たな脅威とされている気象クライシスの問題に私たちはいかに向き合っていくべきか。災害を避けられない時代を生き抜くために押さえておきたい具体的な災害対策を、防災のプロである助けあいジャパン代表理事の石川淳哉氏に伺いました。
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気象クライシスはいま最も警戒すべき災害
〈石川〉
2018年の西日本豪雨、昨年、九州地方を襲った台風10号を挙げるまでもなく、毎年7月から9月にかけて発生する線状降水帯(強い降水量を伴う雨域)や台風は年々威力を増大させています。
ここ数年の日本の災害傾向を見ると東日本大震災、熊本地震を除いて特に大きな地震はいまのところ発生していません。
防災関係者の間で新たな脅威とされているのが、線状降水帯や台風をはじめとした「気象クライシス」です。気象クライシスによる被害は増加傾向にあり、一般的な認識よりも遥かに事態は深刻化しているのです。
千葉県君津市で電柱が約2,000本倒れ、地域一帯で大規模な断水と停電があった一昨年の台風15号はその一例です。今後は毎年どこかの地域で同規模の被害が発生するのが当然の時代になることを覚悟しなければなりません。
気象クライシスの大きな要因は、CO2の排出による地球温暖化とそれに伴う海面上昇です。対策としては、火力発電から他の発電法に切り替える、プラスチックやガソリンの消費を控えるなど、国や個々人の選択にかかっています。しかし、なかなか一般に気象クライシスとCO2の削減が結びつかないのが現状です。
押さえておきたい具体的防災対策
では、今後予測される災害に備えて、具体的にどのような防災をするべきか。本欄ではポイントを4つに絞って紹介します。
1つ目は、いざという時のための「近い疎開」「遠い疎開」を事前に決めることです。
大雨や台風の場合、一晩すれば通り過ぎるため、あえて遠くまで避難する必要はありません。例えば、以前私の自宅は多摩川の河川敷の傍にあり大雨で地下が水没したことがあります。事前に人2人と車2台と猫2匹を預かってくれる疎開先を近所に用意していたので命に別状はありませんでした。
「避難指示が出たら、一緒にお鍋でもつつこうよ」と言えるような実家や友人を日頃から探しておくのです。
これに対して、地震や津波で住んでいる地域が壊滅状態になるなど、長期にわたって機能不全に陥った場合、その地域から離れた安全な地盤の疎開先を見つけておくことが「遠い疎開」です。可能であれば東と西で各一か所ずつ疎開できる場所を探しておきましょう。
2つ目は、自宅で2週間生活できるくらいの用意をしておくことです。
首都直下型地震が起きると東京は700万人の避難民が生まれるとされています。しかし、少子化で小学校が減少していることもあり、指定避難所で実際に収容可能な人数はおよそ200万人です。
加えて、コロナ禍では三密を避け、感染リスクを抑えるためにこれまでよりも約4倍のスペースを要することから、実際に避難できるのは50万人という計算になります。
そのため、残りの650万人は先述の疎開先で生活をするか、自宅に住める場合は自宅での避難生活を送ることになります。大規模災害の場合は首都のあらゆる機能が麻痺し、自衛隊、警察、消防などの救助は難航して2週間以上かかると予測されます。そのため、自宅で2週間生活できるための備えが必要なのです。
2週間を想定して日用品を少し多めにストックしておくことに加え、定期的に備蓄した食料を入れ替え、常に新しい食料を備蓄するローリングストックをすること。その際に懐中電灯やラジオなどは故障がないかを都度確認することも大切です。健康を維持するためには防災食だけでなく、2週間水が使えない時のトイレや口腔ケアの用意も欠かせません。水を使わない携帯トイレなど、清潔で安全な状況を保つ準備をしてください。
3つ目は、企業がBCP(事業継続計画)の枠組みを広げ、社員の家庭にも防災のための配慮をすることです。一般に多くの企業では防災グッズを用意していたり、ラインが止まった場合の電気の供給先を確保したり、諸々の対策を講じています。私がここで強調しておきたいのが、重要なのは社員の家族の命が助かり、元気に過ごせるかということです。
家族が元気なら社員は会社のために働けます。しかし、家族が危機的な状況になってしまえば会社どころではなくなります。社員の家族をいかに守るかということまで考え、例えば、各家庭に災害用トイレを送るなどのケアをしていくことが企業に求められます。
4つ目は、気象クライシスの大本の原因である環境問題に配慮した生活を送ることです。
身近でできるのは太陽光パネルを設置し電力を切り替えること。太陽光発電であればたとえ2週間自宅で過ごすことになっても電力を確保できます。パネル設置スペースがない場合でも電力会社との契約を変更して再生可能エネルギーに切り替えることができます。切り替え手続きはWebサイト上だと僅か5分でできます。
また、生ゴミを出さないことも重要です。日本は焼却ゴミの処理に約2兆円かけているといわれますが、そのうちの1兆円は生ゴミに使われています。生ゴミは水分を多分に含んでいるため多くの火力を要し、大量のCO2を排出しています。
具体的な対策としてはコンポストという生ゴミを微生物や菌の働きで発酵・分解し堆肥化する容器を使い、生ゴミを乾燥させるか、土にして再利用しゴミを極力出さないことなどがあります。
この他にもガソリン車に乗らない、ペットボトル、プラスチックを使わないなど一人ひとりが日々コツコツと環境に配慮した生活を送ることがますます重要になってくるのです。
(本記事は月刊『致知』2021年8月号 連載「意見・判断」より一部を抜粋・編集したものです)
◇石川淳哉(いしかわ・じゅんや)
1962年大分県生まれ。1986年早稲田大学第二文学部卒業。1998年株式会社 dreamdesign設立、代表取締役社長に就任。2011年3月一般社団法人助けあいジャパン設立、共同代表理事。翌年公益社団法人認定。その後返上。2017年より官民連携の災害派遣トイレプロジェクト「みんな元気になるトイレ」を推進。防災士。
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