【3分で読める感動実話】在りし日のマザー・テレサとの問答——その偽らざる生き方と素顔に学ぶ

在りし日のマザー・テレサが過ごした最後の12年半、日印を何度も行き来する中で、親交を深めてこられた一般社団法人ピュア・ハート理事長の五十嵐薫さん。マザー帰天後も、その精神を継ぎたいと、インドを中心に活動を続けた五十嵐さんに、マザーの生き方とその偽らざる素顔について語っていただきました。

◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら
 ※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

マザー・テレサとの出会い

〈五十嵐〉
初めてマザー・テレサと出会った時の情景は、いまもありありと思い浮かべることができます。それは衝撃というよりも、むしろ目に見えない後光に優しく包みこまれた感覚で、その何とも言えない温かさに私の頬には自然と涙がこぼれ落ちていきました。

そんな私に目を留めたマザー・テレサは、なぜこの少年少女たちはここに来たのか、と話しかけてくれました。

「この子たちは学校から拒絶され、社会から見捨てられて生きてきて、生きる目的がほしくて来ました」と答え、「彼らにもボランティアできることがありますか」と尋ねました。

するとマザー・テレサは頷きながら、

「日本だけじゃない、そういう子供たちは世界中にいます。インドの捨てられた子供たちに直に触れ合うことで、きっと自分たちが与えられるものの大きさに気づいていくでしょう」

と言うと、一人ひとりの頭を撫でながら、「よく来たね、よく来たね」と、ニコニコと相好を崩して迎え入れてくれたのでした。

その瞬間、私はこの方は本物だと直感しました。上手く表現できないのですが、あえて例えるならば、幼児が母親にすがっていくような安堵感に満たされた気持ちでした。

以来、マザーが帰天なさるまでの12年間、様々な背景を持った人たちを伴った「インド心の旅」を毎年実施し、何度も日本とインドを行き来する中で、私は夢中になってマザー・テレサに教えを請い、多くの学びをいただきました。

神様が描く一本の鉛筆

中でも私の人生の大きな転換となったのが、インドに建設したレインボー・ホームでした。ことの起こりは、マザー・テレサが亡くなる4年ほど前に遡ります。

ある日本人の団体がマザー・テレサに会いに、バングラデシュからマザー・ハウスにやって来ました。残念ながら彼女は留守だったため、代わりに私がマザー・テレサの施設を案内してあげたのです。

聞けば、彼らはバングラデシュで親のない子供たちのお世話をしているとのこと。いろいろと話を聞くうちに、それこそ私がライフ・ワークとしてやりたかったことではないかという気持ちが湧き上がってきたのです。その思いは毎朝の祈りを通して日増しに高まっていきました。そしてある日のこと、思い切って打ち明けました。

「マザーは貧しい人の中で最も貧しい人たちを助けているけれども、私はインドの親のない子供たちにお母さんを与えるような家をつくりたいと思っています」

マザー・テレサは目を閉じて数秒間沈黙したのち、私にこう問いかけました。

「あなたに私と同じことができますか」

いつも微笑みを湛えている時とは違い、彼女はとても厳しい表情で私を見据えました。
私は即座に「世界中、誰だってできません」と答えました。

「そうでしょ。私にだってあなたと同じことはできません。人にはそれぞれ役割、ミッションがあります。あなたは自分のやりたいと思うことをやりなさい。しかし、祈りを忘れないこと。祈りなさい。あなたの祈りが神に届いたら、きっとその願いは叶うでしょう。ただし、あなたがやるのではありません。神がやられるのです」

それから私は毎日のように祈り続けました。ところが祈ろうとすればするほど雑念で心はザワつきます。孤児の家をつくれば周囲から褒められるのではないかなどという不純な心が顔を出し、祈りが祈りになりません。それでも真剣に祈り続けると、ある日、自分の心に響く声がありました。

「Make pure heart and I build.」。
純粋な心をつくりなさい、そうすれば私がつくろう――。

突然、私は肩の力がふっと抜けていく気がしました。

自分がつくろう、つくろうと思っているうちは祈れない。「つくる人は私ではない、見えない世界にいる」と感じました。私はマザー・テレサが言っていたように、自分も天に身を委ねて一本の鉛筆になればいい。与えられているものをすべて受け入れられたら、もう迷わない。

そう意を決した瞬間、内なる声が心にストーンと落ちたのでした。

そして日本に帰り、講演に招かれるたび、出会う人に自分の夢を語っていきました。そのうちに私の思いに賛同してくださる方が次々と現れ、祈っていたらいつの間にか孤児たちの家「レインボー・ホーム」ができたのです。


(本記事は月刊『致知』2012年5月号 特集「その位にして素して行う」より一部を抜粋・編集したものです)

◇五十嵐 薫(いがらし・かおる)昭和28年山形県生まれ。電気通信大学物理工学科卒業後、ミネベアに入社。退社後数年間、生涯学習セミナーのインストラクターを務める。60年マザー・テレサのもとで、ボランティアの精神を学ぶ「インド心の旅」を始める。平成11年NPO法人レインボー国際協会を設立。12年インドのコルカタに孤児の家「レインボー・ホーム」を創立。21年上記団体とは別に一般社団法人ピュア・ハート協会を設立した。著書に『マザー・テレサの真実』『マザー・テレサ愛の贈り物』(ともにPHP研究所)など。

◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。

たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら
購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

≪「あなたの人間力を高める人間力メルマガ」の登録はこちら

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる