【追悼】生死の狭間を越え、命懸けの冒険に出るわけ——冒険家・阿部雅龍

日本人初のルートで南極点単独徒歩到達を成し遂げた冒険家の阿部雅龍さんが2024年3月27日、お亡くなりになりました。41歳でした。幾度となく生死の狭間を超え冒険を続けてきた阿部さんはなぜ死の危険が伴う冒険を続けたのでしょうか。月刊『致知』2021年5月号で語られたご自身の人生哲学をご紹介します。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

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一度しかない人生、笑って死ねる人生がいい

<阿部>
普通に大学に進学し、就職活動を迎えた時期のこと。

自分を見つめ直した際に、夢や目標、働きたい仕事さえなく、人の目ばかりを気にして生きる自分に愕然がくぜんとしました。

その頃に、冒険家の大場満郎みつろうさんの記事を読んだんです。

その記事の中で、「なぜ冒険に行くのですか」という記者からの質問に対して大場さんはこう答えています。

「一度しかない人生、笑って死ねる人生がいい。だから僕は冒険に行く」。

このひと言に、大げさではなくガツンとショックを受けたんです。

このままだと僕は自分を好きになれず、笑って死ねないのではないか?

実は僕は4歳の時に29歳だった父親を交通事故で突然亡くしており、小さい頃から死を見つめていたこともあって、後悔する人生を送りたくないと強烈な思いが込み上げてきたんです。

なぜ冒険に行くのか

<阿部>
僕の場合、生きがいというより使命感ですね。

冒頭でお話ししたように、いま挑戦しようとしている人類初ルートでの南極点到達は、難易度と資金という2つの壁があるため100年以上も誰も達成していません。

そのゴールに、地球上でいま最も近い位置まで辿り着いているのが自分だと自覚しています。

国内外の多くの方からたくさん応援していただいているので、その期待に応え、人類の壮大な夢を叶える人間でなければいけないと、勝手な使命感を抱いているんです。

「我れ無くも かならず探せ 南極の 地中の宝 世にいだすまで」

これは白瀬隊長の辞世の句です。

白瀬隊長が南極点を目指した1912年は列強諸国に追いつけと総力を挙げていた時期です。

その時に、未知の世界を求めて闘った日本人がいた事実。

僕は白瀬隊長が地中に埋めた宝は挑戦心ではないかと考えています。

その思いを受け継ぎ、人類初の冒険に成功することで、100年以上経っても人の夢は引き継がれていくことを証明したい。

ですから僕の冒険は、人の意志を継ぐ挑戦です。

当然、死が隣り合わせの厳しい闘いになりますが、それは僕に限らず、ビジネスマン、アスリートなど、皆それぞれの場で命懸けで闘っています。

ですから、僕は自分の挑戦すべき冒険の場で命を懸けて生き切りたいと思います。


◇阿部雅龍(あべ・まさたつ)
昭和57年秋田県生まれ。平成16年大場満郎氏主宰の冒険学校でスタッフとして働く。17年秋田大学在学中に南米大陸単独自転車縦断。22Continental Divide Trail単独踏破、24年乾季のアマゾン川の2000km単独筏下りを達成。26年から3年連続で北極圏単独徒歩。311月日本人で初めてメスナールートによる南極点単独徒歩到達918キロメートルを達成。現在、同郷の探検家・白瀬矗中尉の足跡を辿り、単独徒歩で南極点を目指している。著書に『次の夢への一歩』(角川書店)がある。

(本記事は月刊『致知』2021年5月号 特集「命いっぱいに生きる」に収録されたインタビューを抜粋・編集したものです)

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