〈ドラッカーに学ぶ人間学〉成果をあげる人とあげない人の差

現代の経営学の祖であり、「マネジメント」の概念を発明した経営学者P・F・ドラッカー(1909-2005)。その言葉は仕事や経営、ひいては人間の本質を鋭く突いており、没後15年が過ぎたいまなお学び多い、普遍的な教訓が詰まっています。
ドラッカーは、いわゆる〝
できる人・できない人〟の差は業務知識や専門知識ではなく、別の能力であると喝破しました。本誌『致知』で好評連載中の「仕事と人生に生かすドラッカーの教え」にて、佐藤等(ドラッカー学会理事)に解説いただきました。

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「成果をあげる人とあげない人の差は才能ではない。いくつかの習慣的な姿勢と基礎的な方法を身につけているかどうかの問題である」
――『非営利組織の経営』(1990)

時間は人生の燃料

〈佐藤〉
私が「成果をあげる能力」という言葉に出会ったのは、39歳のときでした。「そんな能力が世の中にあるのか」。その衝撃は今でも忘れることはありません。

しかし同時に「本当だろうか」という疑心が湧いてきたのです。これはやってみるしかない。こうして私の実践が始まりました。

成果をあげるための最大の秘訣が集中にあるというドラッカーの言葉を頼りに、最初に行ったことは、「どこに集中するか」を決めることでした。「ドラッカー」に集中してみよう。全著作を読み、ブログを書き、読書会を行うなど2003年の実践開始から多くの時間を投じてきました。

会計事務所の経営をしながら時間を確保するには、時間管理が欠かせません。ドラッカーの時間管理は、時間の創造からスタートします。つまり空白の時間を創ることです。空いた時間で「集中すべきこと」に時間を投じます。その手順は「基礎的な方法」として明示されています。

「時間を記録する、整理する、まとめるの三段階にわたるプロセスが、成果をあげるための時間管理の基本となる」(『経営者の条件』)

時間の使い方を記録・分析することで様々な発見があります。たとえば私の場合、仕事の時間のうち14%もメールを書いていることを発見し、愕然としました。

その後、メールを書くという非生産的な活動を減らす工夫を始めました。このプロセスを「整理」といい、現在行っている仕事や活動をやめる(減らす)、または任せるという方法を用います。

最後のプロセスは、こうして生み出した時間を一つの塊としてまとめて「集中すべきこと」に使います。

時間は命そのものです。使命という言葉がそのことを示しています。時間という人生の燃料を何のために燃やすのかを問うことです。

時間の使い方を変えなければ、新しい未来に出会うことができません。万人に平等に与えられた時間の使い方が人生を決するのです。集中とは、「どこに」「どれだけ」の時間を使うのかを決めることです。

成果を意識した時間の使い方を

ドラッカーのマネジメントにおいて最重要のコンセプトは「成果」です。

成果とは、自分が手に入れたいものではなく、外の世界に変化を起こすことです。一般的には顧客に起こる変化です。飲食店であれば「おいしかった」、学習塾であれば「成績があがった」というような変化を起こすことです。

成果は、顧客に喜んでもらうために一人ひとりがどのような貢献ができるかを考え、行動することで得られるものです。

たとえば私の場合、ドラッカーを学んだらそれを誰かに伝えるということです。しかし私の著作や勉強会は伝えるための手段にすぎません。真の成果は、ドラッカーを手にした人の人生や経営が変わっていくことです。そのためにいかに自分の強みを生かし、どのような貢献をすべきかを考え、そのために時間を使います。

時間を何に投じるのか、成果をあげるためにどのような活動を増やすのか、それは人生における重大な決断です。

「集中とは、『真に意味あることは何か』『最も重要なことは何か』という観点から時間と仕事について自ら意思決定をする勇気のことである」(『経営者の条件』)

勇気が必要なのは、その活動には時間を使わないと宣言するからです。集中とは、やらないことを決めることでもあるのです。それは他の機会を失う可能性があることを意味します。

たとえば私は30代に英語の勉強に結構な時間を費やしていました。しかし成果が明確でなかったためキッパリとやめ、40代からドラッカーに集中しました。

こうして2010年、投下時間が7,000時間を超えたころ、初めての著書『実践するドラッカー』を世に出す縁を頂きました。ゼロからスタートして7年、「成果をあげる能力」は本物だったのです。


(本記事は月刊『致知』2019年11月号 連載「仕事と人生に生かすドラッカーの教え」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇佐藤等(さとう・ひとし)
昭和36年北海道生まれ。59年小樽商科大学商学部商業学科卒業。平成2年公認会計士試験合格。佐藤等公認会計士事務所開設。14年同大学大学院商学研究科修士課程修了。ドラッカー学会理事。編著に『実践するドラッカー』シリーズ(ダイヤモンド社)など。新刊に『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』(日経BP)がある。

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