パンツはいていますか?——車椅子の元気配達人・柳岡克子さんが伝えたいこと

両手足に障害を持って生れながらも、両親や友人の支え、並々ならぬチャレンジ精神で自らの人生を力強く切り開いてきた柳岡克子さん。いま講演活動などを通じて人々の生きる勇気と希望を与えている柳岡さんに、人生の歩みと共に講演会で子供たちに伝えているメッセージをお話いただきました。《写真左から2番目が柳岡さん》

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体験を通じて大切なことを伝える

〈柳岡〉
私は小学校の図書館で科学者の伝記をよく読んでいたこともあって、理科や数学が好きになりました。それで将来は理科の先生になりたいと思い、教員免許が取れる大学を探しました。また私はお医者さんや看護師さんに命を救われましたから、医療分野で恩返ししたいとの思いもありました。

ただ、医師や看護師さんになって病院で働いていたら患者さんに間違われそうです。学力や体力面などいろいろ考えた末、理科の先生の免許も取れ、医療分野にも携わることができる神戸学院大学薬学部を受験して合格、親元を離れて進学しました。

――親元を離れての生活は大変ではありませんでしたか。

〈柳岡〉
はい、2つの大きなネックをクリアする必要がありました。

1つは大学に通うための移動手段です。これはハンドルにレバーがついていて、引っ張ったらアクセル、押したらブレーキになる車を購入して教習所へ持ち込み、手動式の運転免許を取りました。

2つ目は、私は腰と膝が曲がらないので、パンツがはけません。そこで父が買ってきたマジックハンドを使って生活しました。

講演では、生徒に「パンツはいていますか」と聞きます。会場が笑いに包まれます。すかさず「自分ではきましたか」「私はこれを使ってはきます」とマジックハンドを見せます。「では、生まれた時、自分ではいた人はいますか」「いないということは誰かにおむつを替えてもらったのですね」と言うと、笑いが沈黙に変わります。

「お礼にお金を払いましたか。お金を払っていなくてもありがとうぐらい言いましたか」。その時、親に育ててもらったことに気づくのです。

私は教科書で「親孝行をしましょう」と教えるよりも、実際自分の体験の中から、心の底から感謝が沸き起こった時、親孝行の意味が分かると考えています。

――体験を交えることで、子供たちも理解してくれるのですね。

〈柳岡〉
また大学の寮は、四畳半一間の個室が20あり、20人の共同生活でした。皆私ができることは自分で、できないことは手を貸してくれる。その見極めがしっかりできる人たちでした。19人でお風呂の掃除を回してくれたのですが、私ができる台所の掃除は私も入れて20人でローテーションを組んでくれました。

ですから、大学時代は自分で車を運転して、買い物に行き、料理や洗濯をしました。そして大変だった薬学部の実習なども友達の支えもあって4年間で卒業でき、薬剤師の国家試験にも合格して、御坊の実家に帰りました。


(本記事は月刊『致知』2022年2月号 特集「百万の典経 日下の燈」より一部を抜粋・編集したものです)

『致知』2022年2月号には、柳岡さんのインタビューを掲載。障害にも屈せず様々なチャレンジをした軌跡、体験から掴んだよりよき人生を送るヒントをお話しいただきました。ぜひご覧ください。

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◇柳岡克子(やなおか・よしこ)
昭和39年和歌山県生まれ。両手足に障害を持って生まれ、2歳半まで病院で過ごす。母親の送り迎えで健常児と同じ幼稚園、小中高校に通い、57年神戸学院大学薬学部に入学。卒業後薬剤師となり地元のドラッグストアに勤めながら、柳岡塾を開設。障害者卓球の選手としても世界大会で好成績を残す。潰瘍性大腸炎となりパラリンピック出場を逃すも「2020東京オリンピック」の聖火ランナーとして走る。和歌山県身体障害者連盟評議員、日本会議和歌山女性の会副会長も務める。

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