世界の頂点に立った魂の版画家・棟方志功の生き方——日本の偉人100人に学ぶ

極度の弱視や貧しさというハンディに負けず、独力で世界の頂点に立った板画家・棟方志功。心から芸術という仕事を愛した志功は、様々の挫折や逆境を経て、晩年には楽しみ、遊ぶが如き境涯に至っていたといいます。その一筋に足跡を積み重ねてきた生き方とは――。好評シリーズ最新刊『日本の偉人100人+50人』よりご紹介します。

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「世界の棟方」

棟方志功は、黒縁でビン底のような眼鏡をかけ、頭に紙縒よりの鉢巻を巻き、板に顔を擦りつけるようにして板画を彫りました。小さい時から強度の近眼で左目は57歳の時に失明し、右目も半盲(視野半分)でした。かれの創作活動はいつも真剣勝負で、「一旦アイデアが浮かんでくると、何かに取り憑つかれたように猛然たる速度と凝集した力で」(『湧然する棟方志功』)彫り上げていきました。生涯で1万点以上の作品を生み出したといわれています。

海外でもその独創性とあふれる生気が高く評価されました。昭和27年(1952)にスイスルガーノで開かれた第2回国際版画展で優秀賞を、昭和30年には第3回サンパウロ・ビエンナーレ展の版画部門で『釈迦十大弟子』などの作品が最高賞を、そして翌年ヴェネチヤ・ビエンナーレ展で国際版画大賞を受賞し、20世紀の美術を代表する「世界の棟方」になりました。昭和四十五年には版画家初の文化勲章に輝きました。72歳で歿して郷里青森で眠る墓は、敬愛したゴッホと同じ形をしています。

美しいものを生まれさせたい

小学6年生の時、陸軍大演習の翌日に超低空で飛んでいた飛行機が近くの田んぼに不時着しました。授業中でしたが一斉に学校から飛び出して現場に向かう途中、志功は田んぼの小川を飛び越えたところで倒れてしまいました。気づくと小さな真っ白な花が咲いていました。あまりの美しさに飛行機のことをすっかり忘れ「このような美しいものを生まれさせたい」という思いが込み上げました。この時のことを後に「絵を描くというどうにもならない本当のものを、天地からいただき受けた思い」と述べています。

青森の凧絵と七夕祭のネプタに描かれた歌舞伎の鎮西八郎為朝などの役者絵や、髭ひげをなびかせて血刀を振りかざす『三国志』や『水滸伝』の豪傑の絵に志功は血がたぎりました。友達から凧絵をせがまれれば何枚でも描きました。大きくなったら「世界一になる」が志功の口癖でした。絵に使われている原色の染料は「黄、赤、青、紫のネプタの色、これこそまじりけのないわたくし(棟方志功)の色彩」(『板極道』)でした。

三人の師との運命的な出会い

志功は3人の師に生涯にわたって励ましと教えを受け、さらに経済的な支援を得ました。それは板画家として成長し飛躍する大きな力となりました。出会いは見えない力で引き寄せられた運命的なめぐりあいでした。

日本橋の髙島屋で開かれていた陶芸家・河井寛次郎の個展で、志功は一個の高価な湯呑みがどうしても欲しくなりました。店員に月賦で買いたいと粘り強く迫る志功の熱意は河井本人の心を動かし、前例にない販売を認めたのでした。これが河井との出会いでした。

陶芸家・浜田庄司と思想家・柳宗悦との出会いは自分の作品の展覧会応募がきっかけでした。志功は同郷の先輩に紹介された詩人・佐藤一英の長篇詩「大和し美し」に心が震えるような感動を覚えました。それは古事記に登場するヤマトタケル(倭建命)の一生を歌ったものでした。彫り上げた作品は詩の全文と絵を一体にした板画20枚の絵巻物となりました。横一間(1・8メートル)以上もある4つの額縁に入れて国画会展覧会に応募しました。

審査の日、作品の大きさを噂する声を落選と早合点し、取り乱していると、偶々通りかかった審査員の浜田庄司が作品の非凡さに驚き、盟友の柳宗悦も感動の声をあげて出品作すべての展示が決まりました。当時、柳や浜田、河井は日本民芸運動の中心的な存在で、「日本民芸館」初代館長の柳は、新しい館のためにこの作品すべてを買い取ることを決めました。小説家や詩人、歌人、俳人、哲学者、僧侶、企業人など様々な人々に、志功ほど愛され助けられた幸運な人はいませんでした。


(本記事は『日本の偉人100人+50人』〈致知出版社〉より一部を抜粋したものです)

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