2022年01月25日
一時は鳴りを潜めていた新型コロナウイルスが、首都東京を中心にかつてないほどの感染者を出しています。本日は本誌『致知』の健康コラム「大自然と体心」より、今日から生活に取り入れられるコロナ予防習慣、免疫力アップ術を紹介いたします。ここで活用するのは、日本人に非常に馴染み深い「お茶」の効果です。循環器病の第一者にして、東邦大学名誉教授の東丸貴信医師にお話を伺いました。(※内容は2021年3月1日発刊時のものです)
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
お茶が新型コロナを不活化する!?
〈東丸(とまる)〉
昨年(2020年)11月末、奈良県立医科大学の矢野寿一教授率いる研究チームが、衝撃的な実験結果を発表しました。日本人に親しみ深い「お茶」に、新型コロナウイルスを不活化する効果が認められたというのです。
同大の実験は市販のお茶A、B、Cの三種類を試験管に入れ、感染力を保ったままのウイルスをそれぞれ一定量で混合。1分、10分、30分と静置し、時間ごとにウイルスを回収してその感染力を算出するものでした。
結果、ウイルスの感染力はお茶Aでは1分後、Bでは10分後、Cでは30分後にそれぞれ1%まで減少しており、程度の差こそあれ不活化の効果があると判明しました。当初、お茶の銘柄は公表されませんでしたが、その後の取材によってAから順に紅茶、大和茶(奈良県の特産品)、緑茶であることが確認されています。
なぜ、お茶が新型コロナウイルスを不活化するのか。それには、お茶の成分として有名なカテキンが作用していると思われます。
カテキンはお茶の渋みの素となるポリフェノールの一種で、インフルエンザに対する予防効果がよく知られています。血圧上昇抑制や血中コレステロール・血糖値の調節、老化抑制等、様々な生理活性作用を有するのが特徴です。
紅茶の不活化効果が高いのは、茶葉の発酵の過程でカテキンが変化してできるテアフラビン、テアルビジンの作用が大きいからと言えるでしょう。インフルエンザウイルスと同じく、新型コロナウイルスの表面にもスパイクと呼ばれる突起状のたんぱく質の棘が存在し、これが喉などに付着すると感染に繋がります。しかし紅茶に含まれるそれらの成分はスパイクに結合して無効化するため、感染力を奪うことができるのです。
まだまだあるカテキンの効果
ここではそれに加え、カテキンが持つ、ウイルス対策に有効な二つの作用についてご説明します。
一つは自然免疫の活性化作用です。人間の免疫には、本来持っている自然免疫、ワクチンの接種で生成される獲得免疫の2種類があります。感染したウイルス等をすぐに排除しようとするのは前者で、後者は後になって働きます。近年の研究で、カテキンは後者を担うナチュラルキラー細胞を活性化することが分かりました。
もう一つは、抗酸化作用です。体内で炎症が起きると活性酸素が発生し、これを「酸化ストレス」と言います。放っておくと活性酸素がさらに内皮細胞を傷つけて炎症を促進し、悪循環に陥ってしまうのです。カテキンやテアフラビンには、この活性酸素の作用を抑える働きが認められています。
新型コロナウイルスに対するお茶の効用については、昨年3月の時点で、インドのERA医科大学の研究者がこうした主旨の論文を発表しています。
「18の食物分子の中で、エピガロカテキンガレート(緑茶に多く含まれる成分の一つ)に最も高い抗ウイルス作用があった」
緑茶を飲む習慣のある地域とない地域では感染率に差があることも、過去の研究で分かっています。緑茶もまた、コロナ禍の健康対策として十分有効と言えるでしょう。
お茶を知り、カテキンを生かす
ただ、大量にお茶を飲めば健康になるかと言うと、そうではありません。摂取量が極端に多過ぎると、肝臓が悪くなる可能性が高まります。無論、毎日の習慣として数杯を飲む程度なら問題はないものの、最低限の注意が必要です。
そこで私がお薦めしているのが「お茶うがい」です。やり方は単純ですから、外出先から帰った際に実践してみてください。
① お茶を淹れる
カテキンは、熱いお湯のほうが多く浸出すると言われます。うがいの際は、できれば百度ほどの熱湯で淹れ、それを冷ましたものを用いるとよいでしょう。
使用する茶葉は、出がらしでも効果は期待できますが、より予防効果を高めるためにはカテキンの有効成分が多く溶け出す一煎目、二煎目(一番茶、二番茶)を使用しましょう。緑茶の中でも、煎茶はカテキンの含有量が多いことで知られていますのでお薦めです。
② うがいをする
水やお湯でのうがいと基本的には変わりません。ただし、時間は少し長めに行うとよいでしょう。紅茶なら一分間やると効果が見込めます。
うがいをした後は、それを飲み込めば、うがいでは届かない咽頭に付着したウイルスも押し流せる計算です。それが不安な方には、吐き出した後でまたお茶を飲むのが最もよい選択肢となります。
一部で推奨されているうがい薬も効き目はあるでしょうが、使い過ぎると喉の粘膜が傷つき、却って感染しやすくなる恐れもあります。その点、誰でも気軽にできるお茶うがいは、新型コロナに限らずインフルエンザの予防にもひと役買ってくれるはずです。
ここで、健康習慣として紅茶を飲む際の注意事項を一つ。ミルクティーには乳たんぱく質が多く含まれるため、ウイルスとの結合が鈍くなり、不活化効果が大幅に低下します。それを含まないレモンティーは効果が高まると考えられますので参考にしてください。
カテキンは、ウイルスの予防や抑制だけでなく、全身の健康増進にも大いに役立ちます。カテキンに抗酸化作用があることは既に述べた通りですが、実は高血圧や糖尿病、喫煙で発生した酸化ストレスによる炎症が慢性化したものこそ、いま日本で増えている動脈硬化なのです。心臓の内部を含め、血管の硬化=炎症を抑えるお茶はその予防に適格と言えます。
(本記事は月刊『致知』2021年4月号 連載「大自然と体心」より一部抜粋・編集したものです) ◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。 たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。 ≪「あなたの人間力を高める人間力メルマガ」の登録はこちら≫
※購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
◇東丸貴信(とまる・たかのぶ)
昭和26年4月生まれ。東京大学医学部卒業後、日赤医療センター循環器科部長、東邦大学医学部臨床生理機能研究室・循環器救急センター(佐倉病院)教授などを歴任。現在、平成横浜病院総合健診センター長。成人病学会理事、血管内視鏡学会副理事長、世界心臓病会議部会長等も務める。