「ゼロコロナ」路線から脱却すべきこれだけの理由 木村盛世(厚生労働省元医系技官)

「きょうの感染者数は○○人」「先週を○○人下回る」「○曜日では○か月ぶり」。数年前からは考えられないほど、こうした報道にも見慣れた感があります。しかし、これらの情報に一喜一憂することに意味はあるのでしょうか。厚生労働省元医系技官の木村盛世さんは、具体的な論拠と共に、社会全体を覆う〝病〟の存在を指摘されます。※撮影:上平庸文

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〝ゼロコロナ〟という考え方はなぜおかしいのか

(※本記事のデータ、数字等は2021年9月掲載当時のものです)

〈木村〉
政府の新型コロナウイルス対策が迷走しています。その迷走の要因を端的に示しているのが、新型コロナウイルスを死の病と捉え、その完全な封じ込めを図る〝ゼロコロナ〟という考え方です。

人間とウイルスが共存して生きる「ウィズコロナ」という当初の政府の方針は、医師会の意向を色濃く反映した「ゼロコロナ」路線にいつしか切り替わってしまいました。

しかし、結論から言えば、研究が進むにつれ、新型コロナウイルスはSARSやMERSのような非常に致死率の高い感染症ではなく、むしろ従来型の風邪コロナウイルスに近いもの、つまり新しいタイプの風邪コロナウイルスであることが分かってきました。

誰もが風邪をひくように、風邪コロナウイルスの流行は人間の力では防ぎようのないことであり、感染症はピークを迎えて初めて終息に向かいます。そういう原則があるにも拘(かかわ)らず、風邪ウイルスをゼロに抑えようという新型コロナウイルス感染症対策分科会の主張それ自体がそもそも無謀であり、無理難題という他ありません。

メディアでは連日「きょうの感染者は何千人」「過去最大で、これまでの数字を大きく上回った」と盛んに喧伝し恐怖を煽っていますが、では死者や重症者の数が増えているかというと、そうではないのです。

日本国内における年間の死亡者数は約138万人とされていますが、コロナ死は10位より下。癌や心筋梗塞などと比べても、圧倒的に少数で、インフルエンザによる死者数をも下回っています。少なくとも日本においては、欧米先進国の状況とは大きくかけ離れていることは明らかでしょう。

しかし、報じられる内容は、事態がより深刻化しているような印象を植えつけるものばかりです。その背景には、いくつかの数字のトリックがあることを知らなくてはいけません。

例えば、肺癌の人が肺炎を起こして呼吸不全で亡くなった場合、死亡診断書には呼吸不全と記載されるのが一般的です。ところが、死因がどうであれ、PCR検査で陽性反応があれば、すべての死因が新型コロナウイルスに分類されてしまいます。同じことは重症者についても言えます。陽性反応を示したものの、新型コロナウイルス以外の病気で重症化しているケースは当然考えられるわけです。

そもそも、メディアではPCR検査の陽性者数がことさら強調されますが、この数字は感染者数とイコールではありません。体内に侵入したウイルスが増殖して初めて感染と見做されるわけで、粘膜に付着しただけでは陽性反応は出たとしても感染とは言えません。両者の混同が問題を複雑にし、混乱させる大きな要因となっています。

また、同じ東京で調査するのでも、新宿や渋谷のような人口密集地と山間部のような人の少ない場所とでは陽性率は自ずと異なります。検査数を増やせば、それだけ陽性者が増えることは言うまでもありません。

そのように見てくると、日本全国で、真のコロナ患者数は分からないのです。何を示しているのか分からない数字だけを見て一喜一憂しても仕方がないというのが、私の正直な思いです。

新型コロナウイルス陽性者数と死亡者数は、厚生労働省の調査から分ります。

三十代までは陽性者が非常に多い割に統計上、死亡率は限りなくゼロに近く、死者は圧倒的に七十代以上に集中していることが、これらの数字から一目瞭然です。現在変異株が猛威を振るっているといっても、我が国におけるこの傾向はコロナが蔓延し始めた昨年春から全く変わりがありません。

新型コロナウイルスは多くの人には無症状で風邪かインフルエンザ程度の致死性ですが、一部には重症化する人がいて、特に高齢者ほどそのリスクは高くなるのが特徴だと言えます。

ですから、ここで問題とすべきは、基準が曖昧なPCR検査による陽性者数の推移を追って右往左往することではなく、重症化するごく一部の人たちに的確な医療を受けられるよう体制を整えていくことです。コロナ対策を突き詰めれば、その一点に尽きると言っても過言ではないでしょう。

二類ダッシュから五類への引き下げを急げ

〈木村〉

現状に目を向ければ、緊急事態宣言が延長され、医療現場は逼迫、崩壊の危機にあります。結果的に重症者がどの病院にも受け入れてもらえず、亡くなってしまうという事例が全国で相次いでいますが、これは現在、政府が新型コロナをSARSやMERS、エボラ出血熱のような危険度が高い、感染症法で言えば「二類ダッシュ(一類と二類の間)」にしていることが大きな要因です。

二類ダッシュでは、感染者は原則入院となっているため、感染者の8割を占める軽症者でベッドが埋まり、肝心な重症者を受け入れられないような大変困った状態になっているわけです。

さらに、感染者のすべてを把握しなくてはいけない保健所も、感染者が増えるにつれて業務が逼迫して十分な対応ができず、自宅療養者が亡くなるという事態が引き起こされています。

そしてこの二類ダッシュにあることが、医療者の逃げ道となっています。コロナ患者を受け入れたとしたら、風評だけで従来の患者の足は遠のき、廃業に追い込まれるリスクが伴います。コロナにはできるだけ関わりたくないというのが、多くの医療者たちの本音なのではないでしょうか。

この矛盾を解決するには、現在二類ダッシュとなっている分類を、季節性インフルエンザと同じ五類にまで引き下げることです。これを行わない限り、日本はいまの状況から抜け出すことはできません。

(本記事は月刊『致知』2021年11月号 連載「意見・判断」より一部を抜粋・再編集したものです)

◉このコロナ禍で、真に医療を必要としている人へどう医療を届けるか。木村さんの提言は単なる現状批判ではなく、この機に思考・体制を変え、どうやって人の命を守っていくかという具体的な提案に結ばれます。
「新型コロナウイルスがいつ終息するかということですが、これは正直分かりません。一つだけ言えるのは、感染症は逃げれば逃げるほど追いかけてくるということです」
木村さんの提言を受け、今後安心して生きられる社会をつくる道筋を、じっくり考えるべきなのかもしれません。記事全文はこちらからお読みいただけます。

◆木村さんがこの後話された内容
 ・重症者にこそ的確な医療を
 ・二類ダッシュから五類への引き下げを急げ

◇木村盛世(きむら・もりよ)
筑波大学医学群卒業。米国ジョンズホプキンス大学公衆衛生大学院疫学部修士課程修了。ジョンズホプキンス大学デルタオメガスカラーシップを受賞。米国CDC(疾病予防管理センター)プロジェクトコーディネーター、財団法人結核予防会、厚生労働省医系技官を経て、現在はパブリックヘルス協議会理事長。主な著書に『厚労省と新型インフルエンザ 』(講談社現代新書)『厚生労働省崩壊 「天然痘テロ」に日本が襲われる日』(講談社)『新型コロナ、本当のところどれだけ問題なのか』(飛鳥新社)、共著に『ゼロコロナという病』(産経セレクト)などがある。
 

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