2024年10月04日
京セラやKDDIを創業し、不可能と言われた日本航空(JAL)の再建を成し遂げた稲盛和夫氏。月刊『致知』2003年7月号の「巻頭の言葉」では、美しい〝利他〟の心を育むためにいま私たちが学ぶべき「反省」の習慣について説かれています。
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「反省」が美しい心を開花させる
私は洗面をするときに、猛烈な自省の念が湧き起こってくることがあります。たとえば、前日の言動が自分勝手で納得できないときに、「けしからん!」とか「バカモンが!」などと、鏡に映る自分自身を責め立てる言葉がつい口をついて出てくるのです。
最近では、朝の洗面時だけでなく、宴席帰りの夜などにも、自宅やホテルの部屋に戻り、寝ようとするときに、思わず「神様、ごめん」という「反省」の言葉が自分の口から飛び出してきます。
「ごめん」とは、自分の態度を謝罪したいという素直な気持ちとともに、至らない自分の許しを創造主に請いたいという、私の思いを表しています。大きな声でそう言うものですから、人が聞いたら、気がふれたと思われるかもしれません。しかし、一人になったときに、思わず口をついて出てくるこの言葉が、私を戒めてくれているのではないかと思うのです。
このことを私は、自分自身の「良心」が、利己的な自分を責め立てているのだと理解しています。
人間は、理性を使って、利他的な見地から常に判断ができれば、いつも正しい行動がとれるはずです。しかし実際には、そうなっていません。往々にして、生まれながらに持っている、自分だけよければいいという利己的な心で判断し、行動してしまうものです。
それは、たとえば自分の肉体を維持するために、他の存在を押しのけてでも自分だけが食物を独占しようとするような貪欲な心のことですが、そのような利己的な心は、自己保存のために天が生物に与えてくれた本能ですから、完全に払拭することはできません。しかし、だからといって、この本能にもとづく利己的な心をそのまま放置しておけば、人間は人生や経営において、欲望のおもむくままに、悪しき行為に走りかねません。
「反省」をするということは、そのように、ともすれば利己で満たされがちな心を、浄化しようとすることです。私は「反省」を繰り返すことで自らを戒め、利己的な思いを少しでも抑えることができれば、心のなかには、人間が本来持っているはずの美しい「利他」の心が現れてくると考えています。
仏教で、「一人一人に仏が宿っている」と教えるように、人間の本性とはもともと美しいものです。「愛と誠と調和」に満ち、また「真・善・美」、あるいは「良心」という言葉で表すことができるような、崇高なものであるはずです。人間は、「反省」をすることで、この本来持っている、美しい心を開花させることができるのです。
不断の努力で心を純粋に
ただ、この「反省」は一度すればいいというものではありません。繰り返し行うことが不可欠です。なぜなら、「反省」を繰り返さなければ変わることができないほど、人間は頑迷固陋(がんめいころう)な存在でもあるからです。私にとっても、毎日「反省」をするということは、最初は理屈で考え、行っていたことが、次第に習い性になってきたように思われます。
このような習慣を持つことは、禅寺で修行をするのと同じような効果があるのではないでしょうか。「反省」を重ね、心を純粋にする努力を不断に続けることによって、次第に高い精神性を身につけることができると思うのです。
私自身を含め、人間は誰しも完璧ではありえず、ときに間違いを引き起こしてしまいます。しかし、そのたびに素直に「反省」し、再び同じ誤りをしないように懸命に努めていく、その日々の繰り返しが、少しずつ人間性を高めてくれるのではないでしょうか。
私は、そのような「反省ある日々」を通じてかちえた「人格」こそが、最も堅固であるばかりか、何にも増して気高いものであり、それこそがわれわれをして、素晴らしい人生へと導いてくれるものと固く信じています。
(本記事は月刊『致知』2003年7月号 巻頭の言葉「反省ある日々をおくる」より一部を抜粋・編集したものです)
◇稲盛和夫(いなもり・かずお)
昭和7年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。34年京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、平成9年より名誉会長。昭和59年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任、平成13年より最高顧問。22年には日本航空会長に就任し、27年より名誉顧問。昭和59年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。また、若手経営者のための経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。著書は『人生と経営』『「成功」と「失敗」の法則』『成功の要諦』『致知新書 何のために生きるのか』など、最新刊に『稲盛和夫一日一言』(いずれも致知出版社)がある。